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53話 崖っぷちのヴェルフェチーム


『第二クォーター終了とともに前半が終了しましたのでハーフタイムに入ります! 後半は十五分後に開始されます!』


 コート上の選手たちはそれぞれ選手控室へと向かうべくコートを後にした。

 観客も休憩を取りに行っているのか観客席がまばらになってきた。そのなか、玉座に座る魔王は腕を組んだまま微動だにしない。


「お隣よろしいかしら?」


 凛とした声のしたほうを見るとパンデモニウム女学園学長――エウリアが。

 メデューサである彼女は頭部から生やした蛇を隠すようにレースキャップを被り、見つめられたものは石に変えてしまう両眼をサングラスで遮っている。

 

「エウリアか。構わん」


 よいしょと魔王の隣の座席に腰掛け、得点板に目を向けた。


 ヴェルフェ∶7−36∶アスタリーナ


「今回も苦戦していますわね……」

「勝敗がどうなろうと必死に頑張った結果だ。我が娘とはいえ、公平に応援するつもりだ」


 だが、そう言う魔王の組んでいる腕にわずかに力が入ったのをエウリアは見逃さなかった。


相変わらず正直じゃありませんわね。


 ふふっと微笑む。


「なにかおかしいか?」

「いいえなんでもありませんわ。でも今回の大会は例年以上の盛り上がりを見せてますわね。もしかしたら今回こそ連戦連敗を止めるかもしれませんわよ?」

「うむ……」


 兜を被っているので表情は読めないが、長年の付き合いであるエウリアには彼が娘を想う父親の顔をしていることに気づく。


「あの子たちならきっとやってくれると信じてますわ」


 以前、真壁たちが取り戻してくれたネックレスのロケットに手をやりながらにっこりと優しい老婆のような笑みを浮かべる。


 ◇◆◇


 アスタリーナチーム控え室。


「皆さまよくやりましたわ! この調子で後半戦もたたみかけていきますわよ!」


 アスタリーナがチーム全員とハイタッチを交わす。


「今回もあたくしたち分校が勝利しますわよ!」


 おおーっ!とまさしく(とき)の声が部屋を震わせた。

 

 一方、ヴェルフェチーム控え室では――――


「クソが!」


 控え室に入るなり、ティアがテーブルを蹴飛ばしたのでリリアが「きゃっ!」と肩を震わせる。


「あの審判ども、絶対アスタリーナに買収されてんだよ!」

「それはないぞ。審判は魔王城から派遣されたのじゃから公平に判定しているのじゃ」

「だからって透明人間をチームに入れるなんてことが許されていいのかよ!?」


 今のティアはまさに憤懣(ふんまん)やるかたなしだ。鼻息荒いティアをエリザがたしなめる。


「やめなさい! 文句を言っても始まらないでしょう。まずは対策を立てねば」

「試合で無様な姿を見せた騎士様に言われてもねぇ」

「貴様……!」


 エリザが傍らにあった剣を手に取ったのでティアも臨戦態勢を取った。


「お、やるか!?」

「ふたりともやめなさい! 仲間同士でいがみあってる場合じゃないでしょう!」

 

 スカーレットが間に立つが、梨の(つぶて)だ。そんな険悪なムードのチームを横目に真壁はため息をつきながらジャンパーを脱ぎ捨て、どかりと椅子に腰掛ける。


「ぜんぜん勝てるイメージが浮かばねぇ……」


 そのままテーブルに突っ伏す。すると隣に誰かが座る気配がした。顔を横に向けるとヴィクトリアが。


「やっぱり今回も勝てないのかな……? ボクたち」

「……かもな。相手のチームはベストメンバーだよ……ぜんぜん弱点が見当たらねぇ」

「……だね。でもイタルもボクらもみんな頑張ったんだよねっ」


 そこへクリスがポットを手にして歩み寄る。


「クリスもあのチームに弱点なんてないと思うよね?」

「ジャクテンナラ アリマス」

 

 クリスがカップに茶を注ぎながら言ったので全員がクリスを見る。ティアとエリザも喧嘩をやめて人造人間のほうを見た。


「いま……なんて言ったの? 弱点ならあるって……そう言ったの?」


 ヴィクトリアの問いにクリスがこくりと頷く。


「ハイ アスタリーナサマハ コウシュコウボウガカンペキナ センシュデスガ ソレイガイノカタハ ジャクテンガアリマス」

「ま、まことか……!?」


 ヴェルフェが思わず前のめりになる。ふたたびクリスが頷いた。


「タトエバ ビジーセンシュハ イチドモ ドリブルヲ シテイマセン ドリブルガニガテト ブンセキシテイマス」

「そ、そういえば……一度もドリブルしてないぞ!」


 真壁がこれまでの試合を思い返すが、やはりドリブルをした記憶はない。いずれもパスだけだ。


「でもなぜドリブルが苦手なのか……」


 エリザが顎に手を当てながら考えていると、リリアが「あの」と手を挙げた。


「もしかするとなのですが、手が透明だとドリブルがやりにくいからじゃないでしょうか?」


 リリアの意見に全員がそれだ!と指さす。


「クリス! ほかには!? 弱点はあるか!?」


 真壁の問いにクリスがアスタリーナチームの各メンバーの弱点を述べる。

 話を聞き終えたときには全員の顔に活気が戻ってきていた。


「いける……! その弱点を利用すれば勝てるぞ!」

「よし! そんじゃ作戦を練るとするかい!」


 ティアがばしっと(こぶし)(てのひら)に叩きつけるように。

 真壁がコートの図面を指さしながら戦略を説明し、チームは頷きながら質問したり提案していき、戦略を練っていく。


「うむ。これなら勝てる見込みがあるな!」

「ああ。後半戦は俺たちの底力を見せつけるぞ!」

 

 図面から顔を上げて全員を見回す。


「考えてみたらここは魔界だ。俺のいた世界の常識は通用しない」


 全員が同時に頷く。


「俺たちのやり方で勝ちに行くぞ!」

 

 ぐっと拳を握ると、全員が(とき)の声よろしく歓声をあげた。

 その時、スピーカーからコートへ集合するよう案内が。


「よし! さあ後半戦だ!」


 チーム名と校章の刺繍が施されたジャンパーを羽織り、そのまま控え室を後にした。


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