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48話 リバウンドを制する者はゲームを制す


 六日目。


「よーし! みんなそろってるな!? 今日は色んなシュートの練習するぞ!」


 体育館内で真壁コーチの声が響く。


「色んなシュートと言うと、今まで練習したシュート以外にもあるのですか?」


 リリアが指先を顎に当てながら。


「ああ、特にこれは覚えてほしいことがあるんだ。これを知っているのと知らないのとでは雲泥の差がある! それこそ勝敗を分けるほどにな」

「そ、それはいったいなんなんじゃ?」


 全員がごくりと固唾をのむ。


「その名も『リバウンドを制する者はゲームを制する』だ!」


 おおっと一同からどよめきがあがる。


「リバウンド? ほぼ毎日運動してるから体重はキープしてると思うけど?」


 ヴィクトリアが自らのお腹に手を当てながら。


「そっちのリバウンドじゃねーよ! ボールがゴールのリングとかバックボードに跳ね返ることだよ!」


 真壁が突っ込んだのちにこほんと空咳をひとつ。


「とにかくだ、試合ではシュートしたボールが必ず入るわけじゃない。外れたボールを取って得点につなげることが肝心なんだ。例えば……」


 スカーレットにボールを手渡し、バックボードめがけて投げるように指示する。

 放たれたボールはバッグボードに当たって跳ね返り、真下にいた真壁が素早くボールをキャッチしてゴールを決めた。

 一同からぱちぱちと拍手と喝采が。


「と、このようにチャンスを逃さないように狙うんだ。ボールがゴールに入りそうになくても諦めちゃダメだ」

「うむ! 承知した!」

「はいっ!」

「了解だヨ!」

「ラジャー☆」


 生徒会一行含めチーム全員がうんうんと頷く。それに気を良くした真壁がボールを手にしながら真顔で続ける。


「最後まで希望を捨てちゃだめだ。あきらめたらそこで試合終了なんだ。まあ、俺のいた世界での受け売りだけど」


 今度は一同からほぉおと感嘆の声が。


「なんと含蓄のある言葉じゃ……さぞかし名のある選手じゃろうな」

「私も同意見です。叶うことなら一度お手合わせしてみたいものです」


 エリザが拳をぎゅっと握りながら。


「ま、まあ会うことは出来ないと思うぞ……んじゃ次は基本的なシュートのひとつ、『レイアップシュート』やるぞ。俺の得意な技だ」


 真壁がまず手本を見せる。ボールを持ったままジャンプし、そのまま片手でゴールポストに入れるように――


「これが『レイアップシュート』だ。コツはボールを置いてくるって感じだな」


 レイアップシュートの練習が始まったが、身長の低いヴェルフェとテンだけはリバウンドの練習を。

 その練習の様子を観客席の後部から見つめるものが――偵察役(スパイ)のイービルアイだ。

 眼球を通して遠く離れた飛空艇の水晶に投射させる。


「なるほど、リバウンドが鍵を握ってますのね。それとレイアップシュートも使えますわね」


 ◇◆◇


「さあもう一丁ですわ! 『リバウンドを制するものはゲームを制する』ですわよ!」


 この夜、初めてバスケットコートで練習を始めたチームが「はい!」と威勢の良い返事を。


「その意気ですわよ! リバウンドからのレイアップシュートをあと100回やりますわ!」


 十日目。


「パンデモニウムファイオーッ! ファイファイッ!」


 バスケットコート上で掛け声を出しながらランニングし、真壁がホイッスルを吹くとペースを落とし、ふたたびホイッスルが鳴るとペースを上げていく。

 インターバルと呼ばれる走法だ。


「よしよし、みんな体力ついてきたな!」


 真壁がホイッスルを鳴らし、横に並ぶよう指示すると七人が横一列に並び、軽く肩で息をする。

 

「みんなよく頑張ってるな! 次はいよいよ本格的に試合するぞ!」


 一同からおおっとどよめきが。


「七人だから4on3だな。んじゃヴェルフェ、ヴィック、テン、リリアの四人。で、あとはエリザ、ティア、いいんちょの三人で試合だ!」


 スカーレットの抗議を聞き流しながらメンバーにそれぞれ配置につくよう指示を。

 全員が配置についたのを確認し、真壁がボールを持ったままコートの正面に立つ。

 真壁の左右にはリリアとティアが対面するように立った。


「手加減はしないよ」

「お手柔らかにお願いします」

「ふたりともいいか?」

 

 両者とも頷いたのを見てコーチも頷く。


「ティップオフ!」


 試合開始の合図と同時にボールを高く上げた。同時にふたりともジャンプし、リリアが高く上がったボールを獲ろうとするが、猫の獣人であるティアのほうがより高い。


「とった!」


 そのまま着地し、ゴール目指してドリブルを。


「いかん! みな全力で守るんじゃ!」


 司令塔のヴェルフェが指示を飛ばすが、やはり猫特有の柔軟な身体をくねらせながらディフェンスをかわしていく。


「ごめん! 抜かれた!」


 ヴィクトリアの横を抜けたティアはジャンプし、ヴェルフェがはるか頭上を見上げるなか、そのままダンクシュートを決めた。


「うまいぞ! ティア!」

「へへっ! こんなのお茶の子さいさいさ!」

「次はディフェンスに回るんだ。人数が少ないから油断するなよ! 四人はパスを回しながらゴール目指すんだ!」

 

 オフェンスに切り替わったヴェルフェはじめ四人がおう!と応え、一気呵成に攻め込む。


 その様子をイービルアイは観客席の奥の方で偵察を。もっとよく見ようと前の座席に移動するために羽根を動かそうとしたとき――


 いきなり脳天に衝撃が走る。


「ギッ……!?」

「こーら、なに覗いてんのや」


 シルヴィーが喰らわせた煙管を咥え、紫煙を吐く。


「みょーな魔力を探知したと思ったら覗き魔がおったとはね。おおかたアスタリーナの差し金やろうけど……今回は見逃すさかい、次また来たら承知せーへんよ?」


 じろりと睨まれ、イービルアイは弱々しい鳴き声を出したのちに窓から逃げ出した。


「いちおー結界張っとこうかね」

 

 ふたたび煙管を咥える。


 ◇◆◇


「ああもう! いいところでしたのに!」


 飛空艇にてアスタリーナが水晶玉を睨みながら歯噛みする。


「まあ、情報はこれだけあれば充分でしょう。仮に不足していたとしても、あたくしのチームは精鋭揃いですし」


 豪奢な椅子に腰掛け、扇子をばっと開いて扇ぐ。


「せいぜい頑張ってくださいまし♡」


 居室に笑い声が響きわたった。


 ◇◆◇


「なんと……スパイに見られていたとは……!」


 シルヴィーから事の経緯を聞いたヴェルフェは驚きを露わにする。


「せや。結界張っといたからもう入ってこれんで」


 ぷかりと紫煙を吐きながら。


「委員長としては見過ごせないわ!」

「なんてあこぎなことをするんだい。そのアスタリーナってやつは!」

「それ盗賊のあなたが言うセリフですか?」


 ふたたびティアとエリザが火花を散らすなか、生徒会一行はうろたえるだけだ。


「ど、どうしましょう? 相手に手のうちを知られてしまってはまずいですよね……?」

「ワタシの計算によれば勝率が16%下がったヨ」

「こうなったらボクもなにか発明してやり返すよっ」

「あんたら落ち着きーや。ジタバタしてもどうにもならんわ。だいいち大会まで時間ないんやで?」

 

 シルヴィーのもっともな正論に一行はぐぅの音も出ない。


「それでコーチ、どーするんや?」


 真壁のほうを向くと、なにか考え事をしているようだ。ぶつぶつとなにか呟いたのちに「よし!」と頷く。


「みんな大丈夫だ。スパイされたのは痛いが、ここからは相手の知らないテクニックで対抗すればいい。どっちみち合同練習に参加しないのが悪いんだしな」


 だが、ヴェルフェは納得いかない様子だ。


「じゃがのぅ……わしのように小柄な者でも対抗できるかのぅ? シュートは五本に一本は入るようになってきたんじゃが……」

 

 うなだれていると真壁がしゃがんでキャプテンの両肩に手を置く。


「心配するな。俺のいた世界でも小柄な選手がプロで活躍してるんだ」

「ま、まことか……!?」


 こくりと頷く。


「今からそのテクニックを教えてやる。難しいかもしれないが、付いてこれるか?」

「もちろんじゃ!」


 ヴェルフェの固い意志を確認し、ふたたびうんと頷いて立ち上がる。


「よーし! 特訓再開だ! 打倒アスタリーナチームだ!」


 真壁がばっと手を挙げると、全員が「おーっ!」と応えた。

 それはまさに鬨(とき)の声をあげるかのように――――。


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