44話 ヴェルフェチーム集結! 燃える真壁コーチ!
曇天の下、パンデモニウム女学園のグラウンドではジャージに身を包んだ七人の女学生がジョギングに励んでいた。
「おらーっ! もっと腕を振れー! バスケほど体力を消耗するスポーツはないぞぉーっ!」
グラウンドの円周の内側で真壁が急き立てるようにホイッスルをピッピッと鳴らす。
生徒会一行含め、学級委員長のスカーレット、風紀委員長のエリザ、そして図書委員のティアが真壁のほうを睨む。
その様子を真壁の傍らに立つシルヴィーがぷかりと紫煙を吐く。
「……なんでわしらがこんなことをせにゃならんのじゃ……」
「今回は事情が事情とはいえ、真壁さんに指導されるのはなんだか癪に触るわね……」
スカーレットがぶつぶつと愚痴をこぼす。
「あたしも同感だよ。あいつの顔見てみ。まるで自分がコーチって感じでさ」
「私は主君のためならたとえ火のなかであろうと水のなかであろうとどこまでも付いていきます! ですが、それについては私も同感です」
「めずらしく意見が一致したね」
普段は犬猿の仲であるティアとエリザが頷く。
「くっちゃべってるヒマがあるんなら走れー! 掛け声出せっ! 掛け声っ!」
ふたたびホイッスル。
「パンデモニウムファイオーッ! ファイファイッ!」
全員がしかたなく掛け声を発する。
「くっ……! 屈辱だけど、これもすべては私の漫画の糧にするため……!」
漫画描きが趣味のスカーレットはぎりっと歯噛みする。
「みんな気張っとるねー。あんたもコーチとしての貫録がついてきたんやない?」
シルヴィーがころころ笑う。
「そりゃ、いつも下っ端扱いされてますから。今回は俺がビシバシ指導しますんで! 先生には感謝してますよ。バスケの提案受け入れてくれて」
「そら、あんたがあんだけ必死に頼んどったらなぁ……それにウチ、今回の対抗祭にはキョーミあるんよ」
ふたたびぷかりと紫煙を吐きながら。
話は前日に遡る――
「えーかげんにせーっての! わかったわ! 認めるわ!」
「あざーっす!」
懇願してなんとか許可を取り付けた真壁が深々と頭を下げる。
「よし、これであとはメンバー集めだな」
「わしらだけではダメなのか? そもそも生徒会対抗なのだから生徒会のみで競うのじゃが……」
「確かにバスケは5人でやるんだが、俺はあくまでコーチだからな。それとケガとか不測の事態があった時のために交代要員が必要なんだ」
なるほどとヴェルフェが頷く。
「あたくしもメンバーをそろえてきますわ。ただし」
ぴっと扇子でクリスを指す。
「あなたのような人造人間はメンバーに加入するのは反対ですわ。そもそも大会の趣旨に反しますし」
「うむ……お主の言うとおりじゃな。すまんがクリスは補助として回ってくれんか?」
「カシコマリマシタ」
クリスがぺこりとお辞儀を。
「さて念のためじゃが、真壁は大会は初めてじゃから今一度ルールを確認しよう」
「はいっ! ええと……」
リリアが手帳を取り出してぱらぱらとページをめくり、読み上げる。
①『基本的に生徒会のメンバーで競うこと。ただし、場合によっては部外者を加入してもよい』
②『魔法や魔道具の使用は一切禁止する。ただし、個人の持つ能力を使用する場合はこの限りではない』
③『競技で用意された道具以外の道具や機械の使用は一切認めない』
④『大会はスポーツ精神に則り、あくまで己の肉体や能力を用いて正々堂々と勝負すること』
「以上が大会のルールですね。当然、魔鉱石を使うのもダメです」
ぱたりと手帳を閉じながら。
「なるほど……それでいくとクリスは出られないってわけか。魔鉱石が使えないってのはちょっと痛いが、まあ条件は五分五分だしな」
真壁がルールを確認しながら頷く。
「ルールの確認が終わった以上、あとは大会の日程ですわね。トレーニングやバスケのルール学習、会場の設置などを考えますと……」
アスタリーナが扇子をあおぎながら考えを巡らせる。
「決まりましたわ。大会は二週間後にしましょう!」
全員が同時に頷く。
「よっしゃ、クリスがチームに入れない以上、メンバーを探しに行くぞ!」
シルヴィーとアスタリーナを除いた全員がおーっと手を挙げる。
◇◆◇
コンコンと部屋のドアをノック。すると少ししてから扉が開いた。
「あら? 真壁さんにヴィクトリアさん? ふたりして来るなんてめずらしいわね」
「よ、いいんちょ」
「いいんちょじゃなく委員長と呼びなさい! それで何の用ですの?」
「ここで話すのもなんだし、部屋に入れさせてよっ」
許可を得る前にヴィクトリアが部屋の中へと。
「あっちょっと待ちなさい!」
真壁も入室すると机にはさっきまで描いていたのか、漫画のネームのノートが広げられたままだ。
「新作か? これ」
「まだ描きかけですの! それで何の用かしら?」
「実は――」
ヴィクトリアがこれまでの経緯を話す。
「というわけで、いいんちょにチームに入ってほしいんだ」
「委員長と呼びなさい! まったく……残念だけどお断りしますわ」
「ええっなんで!?」
「いま新作の執筆で忙しいんですのよ。その『ばすけ』とやらにかまっている暇はありませんわ」
真壁がノートを手に取ってページをめくる。学園を舞台にした恋愛物のようだ。
「へぇー前に描いたやつより良くなってるんじゃないか」
「そ、そうかしら?」
スカーレットがまんざらでもないという風に。
「ああ、だけどこれじゃダメだ。俺のいた世界でもマンガはあるけど、これは足りないものがある」
「足りないもの……? そ、それはいったいなんなの!?」
食い付いてきたので真壁はさらに続ける。
「知りたいか?」
「ええ! ぜひ聞かせてちょうだい!」
「それは――」
ペンとメモを手にした委員長がごくりと唾を飲む。
「『スポ根』だ!」
「す、すぽこん……? それはなんなんですの!?」
「かんたんに言うと、スポーツとかで厳しい逆境を仲間たちと乗り越え、ライバルに打ち勝つんだ 」
真壁の元いた世界ではむろんベタでありきたりなものだが、スカーレットには衝撃的だったようだ。
すぐに一言一句漏らさぬようメモを取る。
「そ、そうだわ! 考えてみれば私の作品にライバルというものはいませんでしたわ! まさに目からウロコよ!」
さらにメモを取ろうとするスカーレットを真壁が止める。
「メモするのもいいけど、実際にチームに入ってみないか? 実体験は想像より勝るって言うだろ?」
「……そうだわ! あなたの言うとおりよ! チームに入るわ! そしてすべてを作品の糧にするの!」
「んじゃ決まりだな!」
二人のやり取りを見ていたヴィクトリアは呆然とするだけだ。
「イタルって交渉スキル高いね……」
◇◆◇
図書室――。
図書委員であるティアはその日もカウンターに座って本を読んでいた。
次のページをめくろうとすると、ふたつの影が差す。
「はわわっ! ってリリアとテンか。驚かすんじゃないよ」
本をぱたりと閉じ、ふうっとひと息つく。
「すみません。ティアさんにおり入ってお願いしたいことがあるんです」
「お願い? また盗みの依頼かい?」
本を傍らに置き、眼鏡を外す。
「今回は盗みじゃないヨ。『ばすけ』のチームに入ってほしいネ」
リリアとテンが事のあらましを話す。
「――ということで、ティアさんにはぜひチームに入ってほしいのです」
話を聞き終えたティアはため息をつくと眼鏡をかけた。
「残念だけど、キョーミないね。他をあたっといて」
本を開こうとしたところへテンが手で押さえる。
「今回は勝負に勝てば魔鉱石が手に入るネ」
「……で?」
眼鏡の奥から鋭い目つきで見つめながら。
「前回は魔鉱石は手に入らなかったけド、これは挽回のチャンスだヨ」
「私からもお願いします! 真壁さんを元の世界に戻すためにも!」
リリアがふたたび「お願いします!」と頭を下げる。
ふたりの懸命な頼みにティアがはぁーっと大きいため息をつく。
「……わかったよ。たしかに中途半端なままで終わらせるってのはあたしの性に合わない。やるよ」
ティアがウインクをしたのを認めたリリアがぱあっと顔を明るくした。
「ありがとうございます! やりましたよ! テンさん!」
ぱちんと両手でハイタッチを交わす。
◇◆◇
その日も練兵場は風紀委員たちによる稽古の掛け声が轟いていた。
そこへヴェルフェが姿を現し、彼女の姿を認めた風紀委員長のエリザが「整列!」と合図を出すやいなや、横一列に隊列を組んだ。
「会長、本日も麗しゅうございます。今回はいかがなされましたか?」
「うむ、実はな」
事の経緯を話し終えると、エリザがなるほどと頷く。
「つまり、私にその『ばすけ』とやらの競技のチームに入ってほしいと」
「うむ。未知の競技かつ、ルールが複雑なのじゃが、やってくれるか?」
「わかりました! 会長の命とあらば、このエリザいつでも会長のお力になります!」
鞘から剣を引き抜き、垂直に構える。
「我が剣でなぎ払ってくれましょう!」
「勇ましい気持ちは嬉しいが、剣を納めてくれんか? バスケで剣は使わないんじゃ」
エリザがぱちくりとした顔で剣をぱちんと納めた。
「なんと! ということは徒手空拳で挑むということなのですね! しかしご安心を! 私は剣がなくとも素手でも自信はあります!」
ぎゅっと拳を握りながら力説を。
「格闘するわけじゃないんだが……まあよい。期待しておるぞ」
「はっ! 我が剣に誓って!」
どんと胸の甲冑を叩く。だが、勢いが良すぎたのか首がぽろりと外れた。
わたわたと外れた首を拾おうとする女騎士を見て、ヴェルフェはため息をつく。
「大丈夫かのぅ……」
かくしてヴェルフェチームは揃った――




