42話 アスタリーナ、襲来
「さて、部活動の部費の割り当てじゃが……」
「会長、演劇部から部費を上げてほしいと要望がきています」
生徒会室にてリリアが要望書を見ながら言う。
「またか……じゃが、演劇部は毎回レベルの高い劇を観せてくれるしのぅ……楽しみにしている者の一人としては悩みどころじゃな」
ヴェルフェが手を組みながらうぅむと唸る。
「このガッコにも演劇部ってあるんだな」
「うん! 特にパンデモニウム女学園はレベルが高いんだよっ! 本格的な劇場もあるし」
真壁の横でヴィクトリアがふふんと自慢げに。
「マジかよ! スゲーな!」
「今度学園祭で演劇の上演があるんですよ!」
リリアが身を乗り出しながら。その横で会計係であるテンがぱちぱちと珠を弾く。
「現時点だと予算は限られているネ」
「じゃろうな。演劇部にはなんとか切り詰めてもらうように提案するしかないのぅ」
ふたたびうぅむと唸る。
「まあ、この件はあとで考えるとして、近々行われる例の件じゃが……」
「そういえばもうそろそろその時期ですね!」
「例の件? そろそろって、何かあるのか?」
「それは――」
ヴィクトリアが先を続けようとした時、サイレンに似た、けたたましい音が鳴り響いた。
「な、なんだ!? この音!」
「警報じゃ! 敵襲かもしれんぞ!」
生徒会室にどよめきが起こり、扉が勢いよく開かれた。そこから姿を現したのは風紀委員のひとりだ。
「会長! 大変ですっ! 空から何かがやってきます!」
「なんじゃと!?」
一行が窓に近づき、上空を確認する。闇夜なので暗いが、そこには確かに巨大な何かが近づきつつあった――。
窓を開け、真壁がさらによく見ようと身を乗り出すと、学園の中心に位置する丸屋根が左右に分かれる。
「なんだありゃ!? あんなのあったのか!?」
「緊急事態用の砲塔だよっ! ボクも実際に見るのは初めてだけどねっ」
◇◆◇
「警報! 警報! すぐに学園の皆を安全な場所に誘導せよ! 砲に砲弾は込めたか!?」
風紀委員長のエリザが廊下を駆けながら風紀委員にすばやく指示を下す。
「くっ! 空からやって来るとは……いったい何者なんだ!?」
階段をすばやく駆け、砲塔のある部屋へと向かう。
扉を荒々しく開けると、そこには風紀委員たちが発射の準備をしているところだ。
「発射の用意は!?」
「すぐにでも撃てます!」
「よし! まずは状況の確認だ! 誰か双眼鏡を」
横から双眼鏡が渡され、すぐさま上空に目を凝らす。レンズを通して対象物を探し、首を上へと動かす。
ついにレンズが対象物を捉えた。
「あれは……船のように見えるな」
「人間が攻めてきたのでしょうか?」
「わからん。いや、待て」
双眼鏡のつまみを回しながらピントを合わせる。さっきより細部がはっきりし、船の側面に描かれたものが見えてきた。
「あの紋章は!」
さらに見上げようとすると首がぽろりと外れ、頭部が地面に直撃を。
「……ッ! 見上げすぎたか!」
首の外れたエリザがわたわたと慌てながら。
「大丈夫ですか!? 委員長! すぐに発射しますか!?」
「いや待て! あの船は――」
◇◆◇
学園全体がざわめくなか、船は次第にゆっくり降りていき、開けた場所に着陸した。
船は豪華客船の上半分が灰色の袋で覆われているかたちだ。
「な、なんじゃこれは……」
「こんなの見たことないヨ!」
「私もです!」
「ボクが見る限り、あの袋にはガスが入ってるみたいだよっ」
その中で真壁が一歩前に進む。
「これって……飛行船か?」
元いた世界の飛行船と比べると、ゴンドラと呼ばれる下半分の部分は豪奢な造りになっている。
もっとよく見ようとしたところへ、船首にあたる部分が手前に開き始めた。
そこから金で縁どられた深紅の絨毯が伸び、左右を燕尾服で身を包んだ小鬼が固める。
生徒会一行や学園の生徒たちが見守るなか、絨毯を踏みしめながら歩いてくる者がひとり――――
「御機嫌よう、皆さま」
パンデモニウム女学園と似た制服に身を包み、頭にはヴェルフェと同じような角が生え、腰まで伸びた金髪をなびかせながら玲瓏な声で挨拶を。
まさしく見目麗しい令嬢がこつこつと歩を進めると、年配の使用人のゴブリンがいきなりがくりと膝を折った。
「おっおい! 何やってんだ!? お嬢様の御前だぞ!」
「す、すまない。膝が痛くて……」
傍らに立つ使用人の腕を借りてなんとか立ち上がる。そこへ令嬢が老人の前に立つ。
「あなた、何をしてますの?」
「も、申し訳ございません……! 年のせいか思うように身体が動きませんので……」
「おだまり!」
よく通る声でぴしゃりと遮る。全員が緊張するなか、令嬢は手を腰に当てながら顔を近づけた。
「無理はなさらないよういつも言っているでしょう? 暇を差し上げますからしばらく休みなさい」
「し、しかし……」
「これは命令です。それに」
ばさりと扇子を開いて顔に持ってくる。
「もうすぐ孫娘さんの誕生日でしょう? 彼女によろしく伝えてくださいな」
「お、お嬢様……! 孫娘の誕生日を覚えておいでとは! お気遣い痛み入ります!」
アスタリーナは「よくってよ」とウインクをよこし、ふたたび歩く。
やがて生徒会一行の前へと出た。
「やはりお主じゃったかアスタリーナ。船に描かれた紋章でもしやとは思ったが」
「相変わらず可愛らしいお姿ですこと。ヴェルフェ」
「それはわしがチビだと言いたいのか!?」
アスタリーナはヴェルフェとは対照的に高身長かつ豊満な胸をしており、ヴェルフェにはないものを具えている。
「あら、あたくしはそのようなことはひと言も申し上げておりませんわ。お気に触ったのならごめんあそばせ」
ほほほと笑いながら扇子をあおぐと顔の両側から垂れるカールされた金髪がふわりと揺れた。
「すごいよ! これどーなってんの!? ボクの知識の範疇を超えてるよっ!」
見ればヴィクトリアが飛行船に取り付きながら辺りに触れたりコンコンと叩く。
興奮気味の彼女を使用人たちがなんとか引き剥がそうとする。
「おっおい、キミ! お嬢様の飛空艇から離れんか!」
「そうか! この船のまわりに張り巡らされている気管を通してガスを送り込んでるんだ!」
使用人がいくら注意してもヴィクトリアはお構いなしにあたりをペタペタ触る。
「いいから降りなさい!」
すると飛空艇の窓から年配のグレムリンが顔を出す。スパナを手にしているところを見ると整備士だろう。
「こりゃ! わしの飛空艇に気安く触るでないわ!」
「おじちゃん整備士? この船ホントにすごいよ! 機関はディーゼル? それともタービン?」
「嬢ちゃん機械に詳しいのかい? こいつはな、わしが独自に開発した機関で動かしとるんじゃ!」
がはははと笑う。機械好きなふたりの議論が繰り広げられ、その様子にアスタリーナがぽかんと。
「ヴィクトリアのことは放っておいて、何の用で参ったのじゃ?」
ヴェルフェの呼びかけではっと我に返る。
「あたくしとしたことが……それはさておき、あなたもご存知でしょう? 近々行われる件について参りましたの」
「『生徒会対抗祭』じゃろ」
アスタリーナがにっこりと微笑む。
「話が早くて助かりますわ。そのことについて……あら?」
まだ飛空艇を見つめている真壁に気づく。
「いつから男女共学になりましたの? それに人間のように見えますけど……」
ヴェルフェがこれまでの経緯を話す。最後まで聞き終えたアスタリーナが目をぱちくりとさせる。
「そんなことが……たいへん興味深いですわね」
つかつかと真壁のほうに歩み寄り、典雅な仕草でお辞儀を。
「申し遅れましたわ。あたくし、パンデモニウム女学園の分校にて生徒会長を務めるアスタリーナと申しますの」
お見知りおきをと微笑む。
「あ、真壁です! こちらこそよろしくっす。アスタリーナさんも生徒会長なんすね」
ぺこりとお辞儀するが、視線は彼女の豊満な胸に注がれている。
「アスタリーナとお呼びください。ときに真壁さんは生徒会対抗祭というものをご存知でしょうか?」
「生徒会対抗祭?」
「本校と分校の生徒会が運動競技で対抗するんですよ。去年はリレーやったんです」
アスタリーナの代わりにリリアが説明を。
「なるほど。要は運動会みたいなもんか」
「ええ、そこであたくし考えましたの。これまでの対抗祭はありきたりな競技で退屈でしたし、なにより種族の異なるメンツではいささか公平性に欠けると思いましたの……そこで」
ぴっと扇子で真壁を指さす。
「あなたの元いた世界の競技でやろうと思いますの!」
周りからおおっとどよめきが。
「これならお互い未体験の競技ですし、公平ですわ」
うぅむとヴェルフェが唸る。そして真壁のほうを向く。
「のぅ真壁。種族に関わらず公平に競うことができる競技があるかのぅ?」
すると真壁が自信満々に頷く。
「まかせとけ。心当たりがある」




