70話 クイック&アンデッド
中央駅を出た蒸気機関車――ベティー号は洞窟近くの駅、採掘場駅へと向かう。
がしゅんがしゅんと車輪と車輪をつなぐスポークがリズミカルに動きながら順調にレールの上を進んでいく。
「ヴィクトリア! 速度がすこし落ちてるみてぇだ! 炭鉱石を追加してくれ!」
運転室にてシムがレバーを手にしながら指示を。
「わかった!」
スコップに炭鉱石を乗せ、そのまま炉へと投げ込む。
「水も忘れるんじゃねぇぞ!」
スコップを置いて炉の傍らにある注水器のバルブのハンドルを回して注水する。たちまち炉から煙があがった。
「まだ圧力が足りないみたいだよっ!」
ヴィクトリアが圧力計を見ながら言う。
「女房の機嫌が悪いみたいじゃな! どけ! わしがやる!」
運転席から下りて炉の前へ立ち、具合を確認する。
「炭鉱石も水も充分のようじゃな」
「どうすればいいの!?」
「慌てるな。こういう時は奥の手だ」
シムが懐からスキットルを取り出す。蓋を外してがぶりと酒をあおり、そのまま炉の中へぶーっと吹く。
すると活気を得たかのように激しく燃え上がり、圧力計の針が振り切った。
「見ろ! たちまち機嫌が直ったぜ! 悦んでやがる!」
「すごいよっ! シムじーちゃん!」
「当然だ! 俺の女房は世界一だが、旦那も世界一ってわけよ!」
がはははと笑う。
「これでしばらくは大丈夫だ。すこし休んでいきな。有無は言わせん」
「うん!」
シムを残してヴィクトリアは運転室を出、炭水車を通って客室車両へと。
そこにはヴェルフェ一行がそれぞれ座席に腰かけていた。エリザは窓際に剣を立てかけて眠っているところだ。
「ヴィクトリア、休憩かの?」
「うん! シムじーちゃんが少し休んでいいって!」
「そうか、この先何かあるかもしれん。少しでも休んだほうがいいじゃろうな」
ヴェルフェが労をねぎらい、ヴィクトリアは真壁の隣に腰かける。クリスがすぐに茶を持ってきてくれた。
「どうぞお茶です」
「ありがとー」
ふーふーと冷ましてからカップを傾ける。
「なぁテン、今どのあたりなんだ?」
真壁が向かいに座るテンに問う。
「ワタシの計算によれば中央駅から10キロは離れているヨ」
地図を広げ、現在位置を指さす。そしてそのまま指を這わせて終着駅である採掘場駅で止まる。
「およそ一時間半で着く予定ネ」
「この駅から洞窟まで歩くんですよね」
テンの隣に座るリリアが採掘場駅から離れた洞窟の絵を指さす。
「ここに水晶竜がいるんですよね……」
「大丈夫だってリリア。今回俺たちは装備が揃ってるわけだし」
「はいっ」
リリアがにこりと微笑むが、その表情はどこか不安げだ。
「ドラゴンを倒して、そこにある魔鉱石を一つ残らずかき集めればすぐに元の世界に戻れるかもしれないしな! だろ? ヴィック」
ぐっと拳を握りながらヴィクトリアのほうを向く。
「う、うん。そうだね……」
ふたたびカップを傾けるが、冷ますのを忘れたらしく「あちっ」と唇を手で押さえた。
◇◆◇
蒸気機関車、ベティー号は依然として荒野を駆けていく。
「……ヒマだな」
真壁が誰にともなくぽつりとこぼす。開け放たれた窓からは何もない荒れ地がどこまでも続いていた。
だいぶ前から続く同じような景色に真壁がくあっとあくびを。
あたりを見回すと、クリスとテンをのぞく一行は眠りについていた。傍らに座るヴィクトリアは真壁にもたれかかるように眠っている。
彼女を起こさないよう、胸のポケットからトランプを取り出す。
「テン、ゲームやらないか? ヒマつぶしにさ」
目の前に座るテンにゲームを持ちかけようとしたところへ、エリザがかっと目を見開く。
そして立てかけていた剣を手に取った。
「皆さん起きてください。何かが来ます」
「え? 来るって、なにが?」
その時だ。真壁が手にしていたトランプが吹っ飛ばされたのは。その後に銃声が響き、全員が目を覚ます。
「おわっ!」
「なんじゃ!?」
「な、なに!? なんなの!?」
「銃撃だヨ!」
「盗賊でしょうか!?」
リリアの疑問に答えるかのように今度は反対側の窓が割られた。矢による襲撃だ。
「皆さん伏せてください!」
エリザが皆に伏せるよう言い、自らも伏せる。その間も頭上では絶え間なく矢と弾丸が駆け抜け、ガラスの破片と木片が一行に降りかかる。
「……どうやら彼らはスプリガンと呼ばれるモンスターです。銃を持っている個体もいるようですが、旅人か冒険者から略奪したものと推察します」
クリスが窓際から少し顔をのぞかせて分析を。
スプリガンという名のモンスターの盗賊は全員馬に乗りながら執拗に列車を攻めていく。
緑色の肌に乱杭歯が並ぶ口をにたにたと歪めながら追撃の手を緩めない。
先込め式の拳銃を撃つと腰のベルトに差し、別の拳銃を取り出して発砲音を響かせる。
「盗賊のモンスターとは厄介じゃな! そう簡単には通させてくれないようじゃ!」
ヴェルフェが伏せたまま、懐から杖を取り出す。
「あ、あの。なんだか、列車のスピードが遅くなっていませんか……?」
リリアの言葉に全員が彼女を見る。確かに体感ではあるが、さっきより遅くなっているようだ。それどころか徐々にスピードが緩くなりつつある。
「ボク運転室見てくる!」
ヴィクトリアが這いつくばりながら運転室へ。そこへクリスが後を追う。
「駅に着いたら囲まれる恐れがあるな……ここで迎え討つしかない。真壁とリリアは後部車両へ、わしとテンはここで、エリザよ、お主は屋根に登って迎え討つと同時に状況報告をしてほしいのじゃ」
「わかった!」
「わかりました!」
「合点だヨ!」
「承知!」
真壁が銃を取り出すのと同時にリリアがボウガンを手にするとふたりは後部車両へ続く扉へ、テンがライフルを構えるなか、エリザはすばやく屋根へと続く梯子に向かっていた。
「盗賊どもよ! わしたちが相手になろうぞ!」
そう啖呵を切るヴェルフェの杖の先にばちばちと火花が散った――――




