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71話 荒野の七人


「シムじーちゃん! どうしたの!?」


 炭水車を抜け、運転室へと入るなりヴィクトリアが声をかける。老齢の運転士は運転席に座ったままレバーにもたれかかるようにしていた。


「じーちゃん!?」

 

 シムのもとへ駆け寄り、肩に手をかける。だが、ぐんなりとなった老人の胸には血痕が。さらに運転席の窓は銃弾によって割られていた。


「じーちゃんしっかりして!」


 ヴィクトリアが涙を流しながら何度も揺するが、ゴーグルの奥の目は閉じたままで開く気配はない。


「じーちゃん……」


 そこへクリスがヴィクトリアの肩に手を触れる。振り向くとクリスがふるふると首を振った。


「生命反応はもうありません」

「でもっ! 誰が運転するのさ!?」


 目の前の人造人間に問う。


「ヴィクトリア様、あなたが運転するのです」

「そんなこと言ったって、ボク運転したことないよ!」

「落ち着いてください。ご主人様は機械の知識があります。ゆえに機関車の運転もすぐに出来ると信じております」

「でも……!」


 反論しようとしたところへ、破裂音が運転室で響く。見ると運転席の窓から侵入しようとしたスプリガンの頭部が吹き飛んでいた。

 クリスに視線を戻すと散弾銃(ショットガン)から弾薬を排莢するところだ。


「私は出来ると信じております。シム様もそうおっしゃるでしょう。そして」


 新たに弾薬を込め、ばちんと銃身を戻して構える。


「『有無は言わせん』と言うはずです。ここは私が死守します」

「ッ! ……うんっ!」

 

 シムを床に横たわらせ、代わりにヴィクトリアが運転席につく。速度計、圧力計を指さして確認。次に伝声管の蓋を外す。


「こちら運転室! シムじーちゃんが撃たれて死んじゃったんだ!」


 こみ上げる涙を堪えながら先を続ける。


「ボクが代わりに運転するからっ! じーちゃんの列車を守ってあげて!」


 伝声管の蓋を閉め、ゴーグルを装着してレバーを掴む。


「じーちゃん見てて! ボクやってみるよ!」


 ◇◆◇


「くっ! 予想していたより敵が多い……!」


 列車の屋根に立ったエリザが目の前の光景を見ながらこぼす。

 ざっと見たところ、三十騎はいそうだ。いやそれより多いかもしれない。

 

「敵は三十騎ほど! 左右にわかれて攻め込むつもりです!」


 列車内にいる一行に状況報告を。そして鞘から剣を抜いて構える。途端、列車の速度が増したのでかろうじて踏ん張ってこらえる。


「さぁ来い! 仲間と列車には指一本触れさせん!」


 じゃきんと剣を垂直に構えながら。


 ◇◆◇


『こちら運転室! シムじーちゃんが撃たれて死んじゃったんだ!』


 伝声管を通してヴィクトリアの声を聞いた車内の一行がざわめく。


『ボクが代わりに運転するから! じーちゃんの列車を守ってあげて!』


「シム殿が……」


 ヴェルフェが呆然とするなか、車内で轟音が響く。


「落ち込んでるヒマないネ! 弔い合戦だヨ!」


 テンがじゃきんとライフルのボルトを引いて排莢すると、薬莢がちぃんと音を響かせながら床に落ちる。

 外では頭を撃ち抜かれたスプリガンが馬からぶら下がるようにし、やがて落馬した。


「……うむ! お主の言うとおりじゃ!」


 ごしっと涙を袖で拭い、杖を構え直す。


「魔物の風上にも置けぬ者どもめ! わしの怒りの魔法を受けるがよい!」


 呪文を唱えるとたちまち杖先からばちばちと火花が散ったかと思うと球体を形づくり、それを外へと飛ばした。

 球体は馬に乗って(はし)る甲冑に身を固めたスプリガンの一体の前までくると、雷光が(ほとばし)る。


「――――――――――ッッ!!?」


 数千万ボルトの電流が甲冑を通して伝わり、声にならない悲鳴をあげたときは馬ともどもぶすぶすと煙を上げる消し炭となった。

 ぐらりと倒れ、そのまま後続の二体が転落する。


「見たか! 新しい魔法の雷魔法じゃ!」


 ◇◆◇


「そんな……っ! シムさんが……」


 伝声管からシムの訃報を聞いたリリアが口を両手で覆う。


「わ、私たちが、列車に乗せてもらうようお願いしなければ……」


 そのままがくりと膝をつく。


「リリア! 危ねぇ!」

「きゃっ!」


 真壁がリリアをかばうようにして地面に伏せさせた。すかさず頭上で銃撃音が。

 

「大丈夫か? リリア」

「は、はい……でも、シムさんが……私たちのせいで……!」

「リリア!」


 真壁にがしっと肩を掴まれたのではっとする。


「俺たちのせいで死んだかどうかなんて、そんな事はあとで考えればいい! とにかく今はあいつらを倒すことを考えるんだ!」

「は、はい……」

「よし、さあボウガンを取って。一緒にじいさんの(かたき)を討つんだ」

 

 涙目になりながらも力強く頷き、ボウガンを手に取る。その時、頭上からエリザの声が響いた。


「真壁殿! リリア殿! 奴らが後部車両に入ってきますぞ!」

 

 見れば、列車に取り付いたスプリガンの一体が後部の扉を開けようとするところだ。

 ノブを回そうとしたとき、扉の円形の窓が割られたかと思うと、次の瞬間には列車から転落した。額に風穴を空けながら。

 

「来るなら来てみろ!」


 銃口から煙をたなびかせながら真壁が言う。次にガチンと撃鉄を起こして次弾の発射の準備を。

 

「真壁さん危ないっ!」


 左側の窓から別の個体が乗り込み、銃口を真壁のほうへ――


「ギッ!?」


 こめかみに矢が当たった醜い盗賊はどたりとその場に倒れた。

 

「まだ来ます!」

「おう!」


 ふたりが連射させながら追い払うなか、死角になっている窓から一体がのそりと潜入を試みる。

 真壁とリリアはまだ気づいておらず、好機と見たスプリガンは三日月型の湾刀を咥えた口をにやりと歪める。さらに身を乗り出そうとした途端、上から首を掴まれた。

 

「!?」


 窓から足をバタバタさせるが、すぐに痙攣したかと思うと動かなくなり、そのまま外へと放り出された。


「真壁殿! リリア殿! ご注意を! 奴らは死角からも侵入しようとしてますぞ!」

「さんきゅ! エリっち!」

「わかりました!」


 屋根にいるエリザはこくりと頷くと、あたりを見回して戦況の確認を。

 今のところ、後部は数は少なくなってきている。前部車両へと移動すると、今度は運転室のまわりに群がり始めていた。


「クリス殿! 敵がそちらに集中してます!」


 運転室の出入り口にいたクリスが頷き、散弾銃を構えたまま外へと出る。

 その頃、馬上から炭水車へと飛びついたスプリガンがなんとか列車へとよじ登った。

 足場に手をかけて見上げたとき、目に入ったのはふたつの銃口だった。それが二連式の散弾銃だと認めたときは頭部が吹き飛んだ。

 

「シム様の列車へ乗り込むことは私が許しません」


 排莢してすばやく弾薬を込め、また一体(ほふ)る。弾薬を込めようとしたところへ背中に衝撃が。

 見ればいつのまにか背後に回り込んでいたスプリガンが短刀を食い込ませているのが見えた。

 にたにた笑みを浮かべながらさらに短刀を深く食い込ませようとするが、人間の肉体とは異なる感触とクリスの無反応な表情に戸惑う。

 

「ギッ!?」


 次の瞬間には散弾銃の銃床によって殴られ、その場から転がり落ちた。


「ヴィクトリア様がお造りになった、この肉体に傷を付けることは万死に値します」


 じゃこんと新たな弾薬を装填しながら。

 

「前部車両はひとまず大丈夫そうです!」


 エリザが車両を見回しながら報告を。立ち上がろうとしたとき、矢が顔の前を掠めた。


「くっ……!」


 剣を構え、盗賊団に向き直る。彼我の差はおよそ十メートル。剣の間合いではない。

 スプリガンの放つ銃弾と矢は容赦なくエリザへと降りかかった。

 迫りくる銃弾と矢を(たぐい)まれな動体視力でなんとか弾く。


「……ッ! このっ……卑怯者めが! 飛び道具など使わず正々堂々と戦ったらどうなのだ!」

 

 弾きそこねた銃弾がエリザの金糸の髪を掠め、数本がはらりと落ちる。

 

どうすればいい……!? このままではジリ貧だ!


 その時、脳裏に旅立つ前の記憶が思い起こされた。


『ちょっと思ったんだけど、エリっちってピストルの弾丸斬れるのかなーって』


 真壁の疑問にエリザは見事、弾丸を一刀両断した。だが、今この状況ではそれどころではない。

 前部車両の窓からヴェルフェの魔法が放たれ、一、二体倒してくれているが、魔法の詠唱には多少の時間がかかるうえに、そのあいだも盗賊団は次々と数を増やしていっている。

 

なんとしてでもこの場を(しの)がねば……! なにか打つ手は……


 そこまで思い至ったとき、頭に閃くものがあった。


「これだ!」


 剣の柄を持ち直してすばやく横に構え、女騎士めがけて放たれた銃弾をそのまま打ち返す――――


「ギャッ」

 

 放った銃弾がそのまま自らの胸へと返ってきた一体が落馬した。

 仲間がやられたのを目の当たりにした盗賊団はなにが起きたのかもわからずに打ち返された銃弾で次々と落馬する。


「矢でも銃でも何でも来い! この私が打ち返してくれる!」


 剣を野球のバットよろしく構えながら啖呵を切った――――。


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