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68話 セントラル・ステーション


 ヴェルクハイムを出発した蒸気機関車は煙突から黒煙を吐き出しながらレールを進んでいく。

 目指すは中央駅――ターミナルだ。

 がたんごとんと揺れるなか、真壁たち一行は個室(コンパートメント)にいた。


「なぁ、中央駅(ターミナル)で乗り換えて洞窟の近くまで行くんだよな?」

「うん。ただ、問題はそこまで行く列車があるかどうかだけどね」


 真壁の傍らに座るヴィクトリアが地図を見ながら言う。


「そっか……ん? 今から弾こめるのか?」


 見れば向かいに座るテンがライフルに弾薬を込めるところだ。


有备无患(ヨウベイウフアン)。備えあれば憂いなしだヨ」


 そう言いながらカチッと弾薬を込める。


「テン様の言うとおりです。不測の事態に備えて準備は万端にしないといけません」


 クリスがたすき掛けにした弾帯に散弾銃(ショットガン)の弾薬を差し込む。

 次に半分に折った散弾銃に弾薬を装填し、カチッと音を立てて元に戻す。


「クリス殿の意見に賛同です。常在戦場は騎士の心構えの基本ですから」


 エリザが鞘から剣を抜き、刀身を確認する。


「それじゃ私もボウガンの確認しますね!」


 リリアが連射式のボウガンを取り出して確認を。彼女のベルトには矢筒が備え付けられている。


「うむ。これまでの冒険からいって順調にいくとは限らんからのぅ」


 ヴェルフェが杖を取り出す。


「この杖は以前よりパワーアップしておる。これなら新たな魔法が使えるかもしれん」


 全員がおおっと声を上げる。


「んじゃボクは予備の弾丸の準備するねっ」


 荷物から弾丸の入った箱を取り出し、中から弾丸を取ってガンベルトに備え付けられたポーチに入れていく。

 傍らに座る真壁もリボルバーの確認を。作動確認を終えてホルスターにしまうとスピーカーから案内が流れてきた。


「皆さま、当列車はまもなく中央駅に到着します。お忘れ物のないようご確認を――――」


 真壁が窓を開けてそこから顔をのぞかせる。確かに円形状の壁が見えてきた。壁の向こうにはレンガ造りの建造物が。

 ほどなくして列車は壁のトンネルへと入った。


 ◇◆◇


 中央駅の構内は天井がドーム状のガラス張りになっており、その下を旅客や冒険者、駅員などが広々とした構内を右へ左へと歩く。


「ここから洞窟の近くまで行く列車を探すんですよね?」


 リリアの問いにヴェルフェが頷く。


「うむ。まずは路線図で探してみるとしよう」


 一行が壁に掛けられた路線図へと歩き、目当ての路線を探す。中央駅を中心にして数本の路線が()びており、ヴェルクハイムを含めた主要駅があちこちに描かれている。

 

「うーん……洞窟の近くまで行ける路線はないみたいだよ」


 ヴィクトリアが地図と路線図を照らし合わせながら言う。


「困りましたね……徒歩ではかなり時間がかかりますし。どうしたものやら……」

「馬車でもかなり時間かかるヨ」


 エリザとテンが同時に顎に手を当てながら考える。そこへ真壁が挙手を。


「駅員とかに聞けばなにかわかるんじゃないか? 一般では使われていない線路があるのかも……」


 全員が「それだ!」と指さす。


「冴えておるのぅ真壁」

「まあ俺のいた世界じゃ列車は普通にあるしな。なんならここより複雑な路線があるくらいだし」

「ねぇねぇあそこに行けばわかるんじゃないかな?」

 

 ヴィクトリアが指さしたのは駅員らしき人物がカウンターに立っていた。

 総合案内所(インフォメーション)のようだ。


「駅員どの、ちと尋ねたいことがあるのじゃが……」

「ようこそ中央駅へ! なにか御用でしょうか?」


 制帽をかぶった駅員が木製のカウンターから見下ろす。


「うむ。実は水晶竜(クリスタルドラゴン)のいる洞窟の近くまで行きたいのじゃが、列車はあるかの?」


 水晶竜の名前を聞いた途端、駅員の顔が青ざめた。


「お客様、冗談を言ってるんじゃありませんよね? 水晶竜は恐ろしい魔物ですよ。今まで腕利きの冒険者が挑んだんですが、生きて帰ったものはいないんですよ……」

「無謀なのは承知のうえじゃ。じゃが、わしらはどうしても洞窟へ向かわねばならんのじゃ」

「そう言われましても……あっ! もう休憩の時間だ! これで失礼しますよ!」

 

 カウンターにどんと『休憩中』のプレートが立てられ、駅員はそそくさとその場を離れる。

 ヴェルフェたち一行はその場にぽつんと取り残されたかたちだ。


 ◇◆◇


 駅構内にある食堂で真壁とヴィクトリアは遅めの昼食を摂っていた。


「どーすんだ? なにか手はあるのか?」


 真壁がぱくりとサンドイッチを口に運ぶ。


「八方塞がりだよ……どの駅員も行くのはやめたほうがいいって言うし、おまけに洞窟近くの線路はとっくの昔に廃線だって言われたよ」


 ヴィクトリアがカップに入った茶をふーふーと冷ましながら。

 そこへヴェルフェ含め、テン、リリア、エリザが店内に入ってきた。


「おつー。どうだったの?」


 ヴィクトリアの問いにヴェルフェは首を振る。


「だめじゃ。どこも貸してくれる馬車がないんじゃ」

「ますます八方塞がりだね……」

「こうなったら徒歩で行くしかないんじゃないか?」

 

 全員がううむと首をひねっていると、最後の一人がやってきた。


「おかえりクリス。どうだったの?」


 人造人間がふるふると首を振る。


「私の方も成果はありませんでした。力及ばず申し訳ありません」

「そうか……これで手詰まりじゃな」

 

 全員ががくりとうなだれる。


「どうしたね? お客さん」


 顔を上げると食堂の店主が心配そうにこちらをのぞき込んでいた。店内には客はおらず、がらんとしている。


「実は……」


 真壁がこれまでの経緯を話す。すると店主の顔がみるみると強張る。


「あんたら、正気かね? ドラゴンの洞窟にいくなんて死にに行くようなもんだ!」

「お気持ちはわかります。ですが、私たちはどうしても向かわねばならないのです。もし何か方法をご存知でしたらぜひとも教えていただきたいのです」


 クリスが代表して言い、店主がうーんと腕組みを。


「そこまで言うんなら……しょうがねぇな」

「なにか当てがあるのですか?」


 エリザが思わず身を乗り出す。


「くれぐれも俺が話したってことは黙ってくれよな」

「もちろんじゃ! ぜひ教えてくだされ!」


 「しょうがねぇな」と店主がぽりぽりと頭を掻く。カウンターに行って何かを持って戻ってきた。

 そしてテーブルにそれを拡げる。駅の地図だ。


「ここが中央駅だ。んでもってこれがうちの食堂」


 とんと太い指で指す。


「で、ここから駅の外へ出る」


 すすっと指が駅構内の外に出ると、ある一箇所を指さす。倉庫のような建物の絵が描かれている。 


「操車場だ」


 全員がそこを覗き込む。


「ここに行ってシムという男に会え」

「その男に会えば洞窟の近くまで連れていってくれるのですか?」


 リリアの問いにこくりと頷く。


「だが、ヤツは偏屈なじいさんだ。ひと筋縄ではいかないぞ」

「それでもワタシたちは行くヨ。今のところそのシムという人物が一縷(いちる)の希望ネ」


 テンの言葉に店主はふーっとため息をつき、やれやれとでも言うように首を振る。


「気をつけて行くんだぞ」


 ◇◆◇


 操車場は駅から歩いて十五分ほどで着いた。中央駅から伸びる線路が何本も敷かれており、数両の列車や貨車が停まっている。


「シム? ああ、あのじいさんならあそこだぜ」


 整備士が小屋を指さす。一行がそこへ向かい、ヴェルフェが小屋の扉をノックする。

 だが、返答はない。今度は強くノックを。

 その時だ。扉の横の窓が割れて酒瓶が外へ転がり出たのは。


「うるさいぞ! 俺に何の用じゃ!」


 老人のしわがれた怒声が響く。

 ヴェルフェが一行の顔を見回す。そして覚悟を決めてドアを開けた。

 まず酒の臭いが鼻を突いた。あたりを見回すと、机には路線図や列車の設計図が乱雑に置かれ、壁には修理に使うであろう工具が並ぶ。

 

「誰じゃ! 俺に何の用だ!?」


 声の主は部屋の奥にあるソファーに寝そべっていた。鼻の下には横に伸びた髭を生やし、手にはスキットルが。


「なんだ? ガキか? ここは遊び場じゃねぇよ」


 帰んなとぶっきらぼうに言うとスキットルを傾けて酒をあおる。

 

「突然の来訪で失礼する。そなたはシム殿ですじゃな?」

「俺がそうだとしたら?」


 ふんと鼻で鳴らす。


「実は」


 これまでの経緯を話し、洞窟へ向かわなければならないところまで話すと老人のスキットルを傾ける手がぴたりと止まった。


「おい、いま水晶竜の洞窟と言ったか?」

「はいっ。私たちはそこへ行きたいんです! 行ける方法があれば教えてください」


 リリアがお願いしますと頭を下げる。

 ぷっと吹き出す音がしたので、頭を上げるとシムががはははと笑う。


「こいつぁ驚いた! おめぇらのようなガキどもがわざわざ危険な場所に行くなんてな!」


 ふたたびがははと笑う。


「だが、いまの俺は引退した身だ。たしかに元運転士だが、ご覧のとおり酒浸りさ」


 げぷっと酒精を吐く。


「わかったらとっとと――」

「スゴイよっ! この工具が今でも現役で使われているなんて! しかもこのネジ良い仕事してるねっ!」


 ヴィクトリアが壁にかかった工具に目を輝かせながら言う。工具の良さがわからないヴェルフェ一行はぽかんとするが、ただひとりシムだけは違った。


「おめぇ、その良さがわかるのか?」

「うん! ボクも発明で機械を扱うからね! それに」


 ヴィクトリアが机に広げられた設計図に目をやる。


「これシムじーちゃんが設計したの? ボクとしてはここの機構に改善点があると思うんだけど……」

「なんじゃと!? 確かにこの機構には自信がなかったんだが……」


 機械いじりの好きなふたりが意見を戦わせ始めたのでヴェルフェが止めに入った。でなければ延々と続いたことだろう。


「お取り込み中すまないが、なんとしても洞窟に行きたいんじゃ。方法があれば――」

「洞窟近くまでの線路は廃線になっとる」


 ヴェルフェを見ずに言う。


「やはり無理か……」

「誰が無理と言った?」

「え?」


 シムがぐるりと首を巡らす。


「廃線になってもレールがあれば行ける。()()()()()()()


 にやりと口を歪める。


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