66話 YOUNG GUNS
翌朝。
フランケンシュタインの館の食堂では全員が朝食を摂っていた。
「お茶はいかがですか?」
メイド服姿のクリスが給仕よろしく全員のカップに茶を入れて回る。
「従順な子だね。先代のつくった人造人間と違って反乱を起こす気配もなさそうだし」
ヴィクトワールがクリスの淹れてくれた茶を口に運ぶ。
「うむ。ところで出発は明日だが、きみたちには何か武器の用意はあるのかね? 見たところ、マカベくんとエリザくん以外は武器らしい武器を持っていないようだが……ヴィクトリアの分は明日出来るからいいとして」
「ヴィクター殿、わしは魔法が使えますのじゃ」
「私は念のため、ムチを持ってきています」
「ワタシは手ぶらだヨ」
三人の言葉を聞き、ヴィクターは「うーむ」と顎に手を当てる。
「きみたちが向かう洞窟は水晶竜という無類の強さを誇る個体が棲息している。生半可な装備では全滅はまぬがれないだろう」
「それに洞窟に向かう道中でなにかあるかもしれないからね」
ヴィクターの隣でヴィクトワールが補足を。
「それにきみも武器が必要なようだ」
ヴィクターがクリスをちらりと見ながら。
「クリスは戦闘を想定してつくってないんだよ」
ヴィクトリアのカップに茶を注ぎ終えたクリスがヴィクターのほうへ顔を向けた。
「ヴィクター様、人造人間の身として差し出がましいことを申し上げますが、私も武器が必要と判断します。素手では皆さまをお護りすることができません」
「うん、きみの言うとおりだ。きみにも武器を用意しよう。もちろん武器を持ってきていないきみたちにもね」
感謝しますとクリスが頭を下げる。
「そういえば先代が銃を持っていたような……まだあるはずよね?」
ヴィクトワールが夫に問う。
「探してみよう。もっとも、経年劣化でメンテナンスが必要になるかもしれん」
よろしくお願いしますとクリス含め手ぶらの三人が頭を下げる。
◇◆◇
一時間後――。
「やっと見つけたよ。物置の奥にしまわれていたものだ」
二挺をごとりとテーブルに置く。一挺はボルトアクション式ライフル、残る一挺は二連式の散弾銃だ。
「それとこれはたまたま見つけたものだが……」
ことりとテーブルに置かれたものをリリアが見つめる。
「これは……ボウガンでしょうか?」
リリアの言うとおり、ボウガンの形をなしているが、中心に箱状のものが付いていた。
「うむ。先祖が発明した連射式のボウガンだよ。この箱に矢をまとめて入れられるようになっているんだ」
「好きなものを選んでいいよ。あたしがメンテナンスしておくからね」
最初に武器を手に取ったのはテンだ。
「ワタシにピッタリの武器だヨ」
ライフルを構え、片目で狙うように。
「それじゃ私はこれにします!」
リリアがボウガンを手に取る。
「ボウガンは以前使ったことありますから」
最後にクリスが残った散弾銃を手に取り、ロックを外して半分に折り曲げ、銃身を確認。そして頷く。
「これはこのまま使えるようです」
「おおそうか。次にこれが弾丸だ。これがなくては話にならないからね」
ヴィクターが二挺それぞれの弾丸が入った箱を取り出す。
「メンテナンスが終わったら試し打ちしたほうがいいね。うちの庭を使うといいよ」
◇◆◇
フランケンシュタインの館の庭で銃声が響き、的の缶が柵から転がり落ちる。
「うん、調子はいいみたいだ」
真壁がリボルバーのシリンダーに残った弾丸を勢いよく排莢させ、新たな弾丸を込めていく。
パチンと元通りにすると傍らで破裂音が轟き、的のボトルが砕け散った。
「私の銃も調子は良いようです」
クリスが散弾銃を半分に折り曲げ、二発の弾丸を排莢させる。
「ですが、この武器は近距離で威力を発揮します。長距離には不向きと――」
言い終わらないうちに銃声が響き、柵より向こう側の木に成っているリンゴを撃ち抜く。
「長距離はワタシに任せるネ」
ボルトアクションライフルのボルトをじゃこんと引き、薬莢を排莢しながら言う。
「銃のメンテナンスは上手くいったみたいだね」
ヴィクトワールが自慢げに腰に手を当てながら。
「うむ。それもあるが、良い腕前だ」
ヴィクトリアが母の傍らでぱちぱちと惜しみない拍手を送る。
「スゴイよっみんな!」
ヴィクトリアの傍らでヴェルフェがうむと頷く。
「さすがはわしたちじゃな!」
「銃の性能のおかげです」
クリスが新たに弾丸を込めながら。
「距離と風速を計算すれば誰でも出来るヨ」
「ヴィックもピストル撃つんだろ? なら今のうちに練習したほうがいいぜ」
「うん!」
真壁が手招きしたので、とととっと彼のほうへ駆け寄る。そしてヴィクトリアにリボルバーを握らせた。
「いいか?」
「だいじょーぶ!」
真壁に肩を支えてもらいながら狙いを定める。標的は柵の上のボトルだ。
「両手でしっかりグリップを握る」
「うん」
「照準を的に合わせて」
「うん」
「ゆっくり、引き絞るように」
引き金に指をかける。次の瞬間、ばぁんっと乾いた音が。
「わっ!」
だが、弾丸はボトルの横すれすれを掠めただけだ。
「撃つのは初めてだけど、案外難しいね……」
「だろ? でも慣れればできるようになるぞ」
「うん!」
そのまま射撃の特訓を続けるなか、エリザは少し離れた場所で素振りをしている。
「310! 311! 312!」
剣を振りながらカウントをするエリザに目をやった真壁がふと気づく。
「なぁエリっち」
「315……! なんでしょう? 真壁殿」
剣を構えたまま振り向く。女騎士の顔は汗だらけだ。
「ちょっと思ったんだけど、エリっちってピストルの弾丸斬れるのかなーって」
「あ、それボクも気になってた!」
全員が興味津々でエリザを見つめる。
「弾丸を斬ったことはありませんが、試しにというのなら……」
そう言って剣を中段に構えた。
「正面だと危ないから横を狙うねっ!」
「いつでもどうぞ」
ヴィクトリアが銃を構え、引き金を引く。発射音と同時に弾丸が放たれ、そのままエリザの横へと――――
「ふッ!」
息を吐くと同時に剣を横に薙いだ。一瞬、火花が散る。
次の瞬間には真っ二つになった弾丸が女騎士の背後の木々に命中した。
目の前の出来事に全員があっけにとられる。最初に声を出したのはヴィクトリアだ。
「す、すっごいよ! エリっち!」
「スゲーな! 弾丸を目で追えるなんて!」
「おそらくこれまでの冒険をくぐり抜けたことによってより高みへと引き上げたんじゃな!」
一行が喝采をあげるなか、エリザは剣を鞘に収める。
「もったいなきお言葉。私の剣は会長たちを御守りするためにありますゆえ」
謙遜する女騎士の顔は嬉しそうだ。
「以前より力を付けた今の私はドラゴンなぞ、恐るるに足りません!」
自信満々に言ったのちにどんと胸を叩く。だが、やはり首がぽろっと落ちた。
「やっぱりこうなると思ってたヨ」
「くっ……不覚!」
わたわたと首を拾おうとすると、城門が開かれ、そこからリリアが姿を現す。
買い物帰りらしく、紙袋を手にしていた。
「ただいま帰りました!」
「おかえり! 目当ての物は見つかったの?」
ヴィクトリアの問いにリリアが「はい!」と答える。
「良い素材が揃っていましたのですぐに取りかかれます!」
紙袋から取り出したのは動物の皮を加工したなめし革だ。
「それでボクのガンベルトができるんだね!?」
「はい!」
「イタルのとお揃いのができるなんて嬉しいな」
えへへとヴィクトリアが笑う。
「ヴィクトリアさんのだけでなくクリスさんのも作りますね!」
「お心遣い感謝します」
クリスが頭を下げる。
「そういえば、買い物の途中気づいたのですが、みなさんなにか準備しているようでした」
「そりゃもうすぐ開拓記念日だからね! 当日は屋台や花火が上がるんだよ」
リリアの問いにヴィクトワールが解説を。
「お祭りやるのか! ならドラゴンをとっとと倒して遊ぼうぜ!」
「……一応わしらは遊びに来たわけではないんじゃがのぅ」
「まあまあ、たまには息抜きも必要だよっ! それじゃ射撃の特訓続けるよ!」
ヴィクトリアがふたたび銃を構え、引き金を引く。今度は発砲音と同時にボトルが割れた。
それはまさしく開戦の狼煙であるかのように――。




