第8話 デイパック
この世界は昔、俺が気晴らしに読んだ
異世界ものと本当によく似ている。
だが、これはあまり記憶にない。
今回のギャンブルの要である、デイパック。
街の道具屋で
当たり前のように格安で販売されているコレは、
拳ほどの大きさしかないのに、
中には剣や鎧など大中小様々なものを入れられる。
生きているものは入れられないらしく、
中がどうなっているか想像もつかないが、
所持者がデイパックに手を突っ込めば、
意識したものが自然と取り出せる、
デイパック以上の大きさのものも問題なく。
ただし、所有者以外が何かを取り出そうとすると
中からランダムに選択されてしまう。
理由も構造も不明だが、
いつも道具屋で見掛けるたびに
これが一番ハイテクノロジーだろと思っていた。
それでも、この世界ではデイパックの存在は常識らしく、
誰も疑問を抱かない。
「さあ、それではモーグさん!
デジさんのデイパックから好きなものを取り出してください!」
「おお、楽しみだど~何が出るがな~」
耳元まで裂けている唇からは大きな涎が垂れている。
コイツは本当に喰うことが好きなんだな。
そして、モーグが俺のデイパックから取り出したのは
真っ赤な丸い果物、りんごだった。
「りんごか~、変わったもの喰いたかったど~」
残念そうに俺のリンゴを一瞬でかみ砕いていく。
……夜の楽しみが一つ奪われた。
いや、それどころではない。
次は俺の番だ。
「ではでは、デジさん。ここから3分が制限時間ですよ!
モーグさんのデイパックに手を入れてください」
躊躇なく俺は手を突っ込んだ。
俺自身が負けると思っていることを誰にもバレるわけにはいかない。
何かを掴んだ感触はあるが、
デイパックの中では全て同じ感覚。
取り出してみないとその正体はわからない。
表情を変えずに、俺は取り出した。
外の空気に触れた瞬間、手に伝わる感触も変わっていく。
ザラリとした未知の感覚、
手に掴んでいるものは、見たこともないトカゲのような黒焦げ死体だった。
「ああ~俺の夜食が~」
お互い、今夜食べようと思っていたものだったわけだ。
「悪いね、モーグさん。美味しくいただくよ」
本当は食べたくない。
なんだコレ。
足と思われる方向から口に入れていく。
生臭い匂いが鼻を突く。
ダメだ、鼻呼吸はやめた方がいい。
口に含むと、ねちょっとしたヌメりが舌を這う。
……うう、吐きそうだ。
これ以上は厳しいと俺は一気に丸呑みした。
胃から出てくる自分の息が腐臭を漂わせている。
二度と食べたくない。
「両者、共に食べ切りました!
ではドンドン進めていきましょうか!モーグさんどうぞ!」
「今度こそ、変わったもん食べたいど~。
デジも楽しいよな~」
「ああ、楽しいよねギャンブルって」
「でもオラのデイパック、
食い物と飲み物、あとはこん棒ぐらいしか入っていないから
デジには悪いだどな~」
……なんか、コイツ良いやつな気がしてきた。
さっきみたいな気持ち悪いものは本当に勘弁なんだが、
これ、俺がこん棒を根性で食べ尽せば勝てるかも。
だが、ジャジ子がこのやり取りを見て
含みを持った笑顔を零している。
……冷静に考えろ。
大喰いのモーグ。
コイツの食い物ってどれだけあるんだ?
勝敗が決するまで吐いてはいけないルール。
……俺の胃袋は持つのか?
不安がよぎる俺を横目に
モーグはデイパックからバナナを取り出していた。
俺の夜食その2が速攻で食べられていく。
俺は意味わからないゲテモノを喰わされたのに、
なんでコイツは俺の好物ばかり引っこ抜くんだ?
……いや、俺が喰ったものも奴の好物かもしれないな。
「なんだよ~もっと変なもの食べたいど~」
俺のデイパックにはそこまで多くのものは入っていない。
これから先、モーグが満足するようなものも出てくるだろう。
「さあ、それではデジさんの番ですよ!」
ジャジ子が急かすが
モーグの言う食べ物という言葉が気になる。
炎を食べ、味方の死体をも喰らう、大喰いのモーグ。
……それは俺にとっても本当に食べ物なのか?




