第7話 這い寄る敗北
「……発動、賭博開帳」
即座に地面からいつものテーブルが現れ、
円形の結界が俺とモーグを包んでいく。
「なんだ~これ」
状況を理解していないモーグの前で
俺は黒の法衣を脱ぎ、姿を現す。
「ようこそ、モーグさん」
「なんだ~お前~」
「俺はデジ、ギャンブラーだ」
「魔王様が言ってた奴か~」
「聞いているなら話が早い、
モーグさん俺とギャンブルをしよう」
「え~オラはただ食べたいだけ~
ギャンブルも食べ物ならいいど~」
う~む、話がイマイチ通じていない気がする。
というか、この間のグルガ&リゼル戦で俺のスキルレベルも上がって、
結界を壊される可能性は低い。
今後、ギャンブルの承諾はいらないな。
さっさとジャジ子を召喚してしまおう。
愚図るモーグを横目に俺は指を鳴らした。
そして、現れる審判者ジャジ子。
なんだか、少し笑っている気がする。
「パラッパ~、現れました審判者!
お、今回は十六破将と直接やり合うんですね!」
「いいから、コイツとやるギャンブルを出してくれ」
「なんだか余裕そうですね、デジさん」
コイツ。
俺の考えが読めるのか?
確かに俺は今、目の前にいる頭悪そうなモーグを若干舐めている。
正直、頭脳戦で負ける要素はなさそうに思える。
だが、ギャンブルは誰にでも平等だ。
それが俺にとってのギャンブルでもある。
だからこそ、舐めてかかってはいけない。
「閃きました!今回のギャンブルは『食すデイパック』」
ん?
「簡単に言うと
相手のデイパックに入っているものを食べるギャンブルです!
詳細はこちら!」
・基本ルール:対戦相手が所持しているデイパック、その中から無造作に取り出したアイテムを食べる
・先攻・後攻を決めて、交互に相手のアイテムを食べる
・相手が食べ終えてから
制限時間3分以内にアイテムを食べられなかった時点で負けとなる
ただし、容器に入れなければ保管できないものは中身だけを食べればよい。容器は対象外とする。
・対戦相手のデイパックが空になるまで食べ切った場合、食べた側の勝利
・一度食べたものを口から吐き出すとその時点で負けとなる
・暴力行為禁止、また死亡した際はその時点で負けとなる
・勝者特典:勝者は任意の相手へ強力なバフ(強化・回復・恩恵)を与えることが出来る
その効果量は賭けたものに比例する
「おお~、コイツのデイパックの中身を食えるのか~
やろうやろう、ギャンブルって最高だど~」
そりゃ、お前にとっては最高だろ。
……このギャンブル、モーグに有利すぎないか?
「おいジャジ子、コイツが斧とか持ってたら絶対に食えないぞ俺」
「はいはい、そう来ると思いました。
そこは大丈夫!こちらに超高性能ミキサーを用意しました!」
とっても悪い笑顔でジャジ子がテーブルへミキサーを置いていく。
見た目は普通だが、
容器の中で幾重にも連なった鋭利な刃が
血を求めるように鈍い光を放っている。
「このミキサーは結界内に限り神器以外のものを全て砕けます!
粉々にすれば物理的には食べることが可能となるはずです」
「……そりゃそうだろうけど」
俺が不満を零すと、過去見たこともないほど冷徹な目で
ジャジ子が告げてくる。
「デジ、貴方だけは私のギャンブルを否定してはならない」
……その通りだ。
この結界を作り、ギャンブルを挑んだのは俺自身。
大体、ギャンブル=頭脳戦ではない、
これは俺が一番理解している。
賭けるものさえあれば、それは全てギャンブルなのだ。
「さあ、では何を賭けましょうか!
モーグさんは何を賭けますか?」
「食べればいいんだろ~、ならオラは絶対負けないから
何でも賭けるど~、あ、そうだ。オラの命を賭けるど~」
「おお、強気ですね!デジさんは何を賭けましょう?」
「……俺も命を賭ける」
最悪だ。
コイツ、馬鹿だからこそタチが悪い。
これでこちらだけが命を賭けることによる勝ち方を全パターン潰された。
――今回、俺は勝てない。
それでも命を賭けないといけない理由は数個あるが、
一番大きいのは、「死亡した際は負けとなる」というルールが提示されている点だ。
これは言い換えれば、
ギャンブル中に死ぬ可能性があるということを指し示している。
つまり、勝利後に致命傷を負っていることもあるわけだ。
その際、軽いものを賭けていた場合、
俺自身の回復がその致命傷に届かない。
それを踏まえると今回のギャンブルは
半ば強制的に命を賭けないといけない状態に引き込まれている。
――もう一度言う、俺は勝てない。
俺は決してギャンブルの天才ではない。
ただ、ギャンブルが好きなだけ。
実際、この異世界に来てから俺は何度かギャンブルで負けている。
それでも、生死の掛かったものは全て勝利してきた。
だが、この「食すデイパック」勝ち目が一切見えない。
自分のデイパックの中身は勿論、把握している。
そしてその中にモーグが食べられないものは恐らくない。
逆にモーグが極端な話、斧を10本所持していれば、
胃の容量的に食べられなくなるだろう。
それは根性や気合で何とかなるものではない。
「では、早速、先攻後攻を決めてください!」
「オラは先攻がいいぞ~早く食べたい」
「……じゃあ、俺は後攻で」
クソッ。
このルールで先攻が得することなんて全くない。
そんなことも理解できない奴に、
俺は今負けようとしている。
考えろ……考えろ。
表情にも声にも出さない。
だが、額を流れる冷たい汗が焦りを誘発させてくる。
結界外で戦っているシャインはきっとこう思っている。
今回、デジはどうやって勝つんだろう、と。
俺はそれに答えなければならない。
……ダメだ。
俺は負ける。




