第6話 大喰いのモーグ
ユカとのギャンブルを終えた次の日。
俺達はグルガと戦った場所へと足を進めていた。
気になることがあるのと死体を処理した方がいいという
俺の助言をシャインが快く受け入れたからだ。
本当は昨日行く予定だったが、
ミカンが部屋から出てこなくて仕方なく
まったりとした一日を過ごすことになってしまった。
「……貴方が全面的に悪い」
ユカにそう文句を言われたけど、
ギャンブルなんだから仕方ないだろ。
後、ギャンブル内容に俺は一切タッチしていない。
俺の能力から湧き出る審判者、ジャジ子は
どこから来ているのか、それとも発動した時だけの存在なのか、
生き物かどうかすら怪しい。
アイツのギャンブル自体は中々に面白いものが多いから問題はないが……。
「デジ、獣王グルガのときってギャンブルしてなかったら僕負けてた?」
思考に耽っていると、シャインが俺に話しかけてきた。
それは勇者としての質問なんだろう。
「ああ、余裕で負けてたな」
「……だよね」
「相手は魔王幹部なんだから気にする必要なくないか?」
「いや、僕は勇者だ。デジがいなくても勝てるように
もっと言うとデジを守れるぐらい強くならないといけない」
立派なことで、流石勇者様。
だが、俺はこんな勇者勇者しているシャインが嫌いではない。
「お前、一応グルガよりは強くなってるんだぞ」
「え、あの時だけじゃないの?」
「……俺の命を賭けたからな」
それだけ呟くと目を輝かせて俺を見つめてくる。
やめてくれ、その目は苦手だ。
「ありがとう!デジ!」
なんつう眩しさだ。
こんな真っすぐにお礼を言えるのが逆に羨ましくもある。
ただ、獣王グルガ&リゼル戦の時は
シャインを強化・回復するしかなかったが、
コイツが強くなりすぎると困ることがある。
それは複数理由があるが、
一つは、いつかシャインとギャンブルをしたくなった時、
俺のスキルレベルとシャインの強さ、
その差が激しすぎると結界を壊せる可能性があるのだ。
グルガではなく、リゼルとギャンブルをしたのも
戦闘力が高すぎるグルガでは
内部から結界を破られる危険があったからだ。
だから、俺は自分のスキルレベルを上げていく必要がある。
まあ、それもシャインと一緒に行動すれば問題ないだろう。
……ほらみろ。
早速お出ましだ、魔王軍。
「シャイン!敵よ!」
「ユカ!デジ!後方から支援してくれ!」
ミカンの叫びで全員が戦闘態勢に入る。
だがシャインよ、こんな事態でもお前はいいやつだな。
ユカはともかく、俺が戦闘面で後方から支援できることなんて何もない。
それを理解しつつも俺の名前を呼んでくれている。
根っこからお前は勇者だな。
俺は遠慮なく、漆黒の法衣を振り被った。
リゼルからもらったこの法衣、本当に便利なもんで、
半透明になれる代物らしく、目を凝らせば姿が見えるが
こんな敵味方入り乱れた戦場では見えないに等しくなる。
その間にも、シャインとミカンは前線で暴れ回っていた。
「はあっ!」
ミカンの闘気と共に放たれた回し蹴りが
迫り来るオークの巨体を空き缶のように吹き飛ばす。
吹き飛んだオークは後続の魔物たちを巻き込み、
凄まじい音を立てて木にめり込んでいく。
あまりの衝撃に木が折れ、また魔物たちを巻き込んでいた。
一方、シャインも負けじと長剣で多数の魔物を相手にしている。
放たれた金色の一閃が、十数体の魔物を
防具ごと音もなく上下に両断していく。
武闘家による圧倒的な打撃と
勇者による輝く斬撃。
前線で敵を相当数、
群れの半分以上を二人は数秒で片付けていた。
だが、倒しても倒しても
森の奥から魔物が無限とも思えるほど湧き出てくる。
それを見越していたように、
魔法の詠唱が終わったユカが二人に声を掛ける。
「二人とも私の後ろへ!」
その言葉を聞くと待ってましたと
シャインとミカンはユカの真後ろへと飛びこむ。
「……燃えよ世界……ファイヤーストーム!」
ユカの前方一面が炎の渦に巻き込まれる。
サッカーのグラウンドに匹敵する拡がりを見せる炎は、
空気を焼き尽くすほどの熱波で渦巻き、
目に映る魔物全てを焦がしていく。
魔物の絶叫と共に轟く炎。
俺達ですら、その圧倒的な火力に息を呑んだ。
しかし、その熱は吸い込まれるように
敵集団の後ろへ流れていく。
そこには一体の巨躯の魔物。
だが、その大きさよりもまず目に入ったのが
耳元まで裂けている唇だった。
他の連中とは違うと誰もが一目で理解した。
「この炎うまいな~。
あっ、またオラの部下が全滅してるど」
戦闘をしていなかった俺は見た。
コイツがユカの炎を飲み込む姿を。
シャインたちもそれを理解したのだろう。
警戒を強めている。
「仕方ないな~、美味しく食べちゃおう」
魔物はそれだけ呟くと、
大きな口を開き、辺り一面を吸い込んでいく。
木々の葉や、魔物の死体、空を飛んでいた鳥まで
魔物は全てを吸い込み食べ尽くす。
「何、コイツ……味方を食べてるの……」
ミカンがその食事風景を見て絶句している。
「何を~、お前らが殺したんだろ」
「だからって味方を食べるなんて……」
ユカもミカンと同じく青ざめながら呟く。
「あ~うまかった。
ただ、ここに一番喰いたいものがあるんだよな~」
魔物の目つきが鋭くなる。
その視線はシャインへと向けられていた。
「そうか、君は僕を食べたいのか」
「そうだよ~、オラは大喰いのモーグ。
勇者って絶対美味しいよね~」
「……大喰いのモーグ……十六破将よ、シャイン」
「わかったユカ」
十六破将は魔王と共にその存在と名前だけ知られている。
だが、その能力、力は謎に包まれている。
それは、出会った人間に生き残ったものがいないから。
「お~周りの女の子も美味しそうだど~」
モーグがユカとミカンに視線を送ると、
二人は体が自然と身震いしていることに気付く。
「シャイン、コイツまじヤバいかも」
「……うん、獣王グルガよりも強そうだ」
「じゃあ、まずは死んでもらおうか~。
ナマモノよりも焼いて食べたい気分なんだど~」
楽しそうにモーグが告げると、
大きく口を広げ、様々な物体が吐き出されていく。
数十にも及ぶ、その物体が地面を捉え、
立ち上がっていく。
それは先ほどシャインたちが倒した魔物に似たナニカだった。
焼き焦げた肉塊が溶かされたように爛れている。
生理的に目を背けたくなるその姿からは
ユカが放ったはずの炎が、
どす黒く燃え上がっている。
「なんて悪趣味な!」
シャインの叫びが響いていく。
多分、ユカとミカンも同じことを思っている。
「オラの部下、復活だど~。
ちなみにさっきよりも強いど~」
その言葉と同時に魔物の群れが再びシャインたちへ襲い掛かる。
モーグが言う通り、先ほどより目に見えて苦戦しているのが分かる。
「ミカン気を付けるんだ!この魔物たち、ユカの炎を纏っている」
「なんて厄介な魔物なの!」
前線を張っているシャインとミカン。
二人は戦いの最中、ふと思う。
この魔物を倒した後も強くなって復活するのでは?と
「ユカ!魔法でモーグを倒してくれ!」
シャインの言葉で、ユカが詠唱を始めるが
3人は目を丸くしていた。
モーグが堂々と背を向けて逃走し始めていたからだ。
「オラは食べたいだけで、別に戦う必要はないんだど」
「逃がしちゃずっと続くわよ!コレ!」
「……私の広範囲魔法で」
「ダメだユカ!2回連続は命に関わる!」
混乱ひしめく戦場で、ただ目の前の魔物を処理することしか出来ないでいる3人。
どうやら俺の存在を気に留める余裕もないようだ。
「勇者の味が今から楽しみだど、
オラは遠くから料理が出来るのを待つだけ~」
「待つだけならしようぜ、ギャンブル」
半透明の俺は戦闘中、後ろへと回り込み
モーグがこの場を通るのを待っていた。
あとは能力を発動するだけ。
「……発動、賭博開帳」
――さあ、始めようかギャンブルを。




