第3話 勇者とギャンブラーⅡ
デジが召喚される数分前
人間側では国王をはじめとする主要人物が見守る中、
世界でたった一人の召喚士による勇者召喚の儀が行われていた。
「ギリギリ間に合いましたな、国王」
「ああ……我々人類最後の希望となるだろう。勇者の存在は」
召喚士の女性はその長く透き通るような銀髪を揺らしながら
杖を構えていく。
「――今こそ現世にその存在を示せ、我、勇者を望む」
言葉と同時に光の柱が天空へと突き抜けていく。
その光で辺りの人間は直視することが出来ず、
太陽をみるように手で額を覆うことしか出来ない。
ようやく、光が晴れるとそこには彼らが望む存在、
勇者が佇んでいた。
「……ここは」
光って見えるほどの金色の髪に
黄色のパーカー、下に履くジーンズは所々穴が開いているが
一目でそれは意図的なものだと誰もが理解できるほどの佇まいとスタイル。
その場にいた全てのものが直感的に理解した。
我々は無事、勇者を召喚できたのだと。
その輝き溢れる勇者へ、召喚士が声を掛ける。
「勇者様、まずはお名前を聞かせていただけないでしょうか?」
「僕は松岡光音……シャインと呼んでくださいお姉さん」
「素晴らしいお名前だ」「なんと勇者に相応しいお名前か」
キラキラネームと馬鹿にされたこともあった勇者シャインは
あまりの歓迎ぶりに困惑することしか出来ない。
「……あの、勇者って一体なんのことなんでしょう?」
「シャイン様、私はこの国の国王です。
時間がありません、簡潔に言います。
今、私どもは魔王軍との戦争をしています。
しかし、戦力差が激しく我々は滅ぼされようとしています。
ですので、戦ってほしいのです。魔王軍……そして魔王と」
「……魔王。そして僕が勇者。
……この人たちは滅ぼされようとしている。
……わかりました、戦いましょう」
その言葉で周りにいる全ての人間が歓喜の声を上げていく。
正に勇者に相応しいほどの即断即決。
彼らが描いていた勇者像そのもの。
国王が大臣へ目配せをすると、
シャインの元へ国内最高級の防具と剣が運ばれていく。
パーカーだけを脱ぎ、その防具を着込みながら
シャインは感じていた。
自分の能力、そして体中から溢れる魔力。
魔法も剣の使い方もインストールされたように
脳内で理解が進んでいく。
それは同時に、元いた世界とは全く違うところへ来たという答えでもあった。
「そうか、ここは異世界なんだね。
……直ぐに帰りたいんだけど、この世界で困っている人がいる。
それを放って逃げるわけにはいかないね……僕は勇者だから」
それだけ呟くと、シャインは光のように
戦場のど真ん中、人間軍と魔王軍の交わる地点へ駆け出していく。
「おお、勇者様だ!」「なんて神々しい」「私達の最後の希望だ!」
兵たちの間を駆けるシャイン。
ものの数分で激戦地へ辿り着くと、そこは正に地獄と化していた。
「……なんて光景だ……これが戦場。
……でも……今終わらせる!!」
叫びと同時に剣を一振りすると
眩い閃光が一本の線となって走った。
直後、その直線上を埋め尽くしていた数百の魔物が、
音もなく上下に両断されて崩れ落ちる。
一瞬で戦場の空気が煌めいていく。
人間軍からすると光のように
魔王軍からすると
決して振れてはならない刃のように。
「勇者様!我々はここを死守するので魔王を倒してください!
それで全ては終わります!」
「わかりました!後は頼みます!」
再び駆ける勇者シャイン。
魔王軍はそれを止めようと立ち塞がるが、
勇者を止められるものは存在しなかった。
遠くの兵士たちからでも見えるほど、
シャインが通った道から魔族の死体が空中へ弾き出されていた。
それは戦闘と呼べないのかも知れない。
正に無双。
勇者の剣は魔王への道を切り開いていく。
そして、辿り着く。
魔王前線基地と呼べる漆黒の塔へ。
内部には戦場以上の強さを誇る魔族が待ち構えていたが、
それでも勇者を止められるのものはいなかった。
無数の魔族を相手にしながら、
遂に塔の最奥へと歩を進めたシャイン。
「……この扉の向こうに魔王の存在を感じる
……これも勇者の力か?」
それだけ呟くとゆっくりとドアノブに手を掛ける。
中を見渡すと中央には丸いテーブル。
そこは戦場特有の血の匂いを一切感じない
異様なまでに静かな空間が拡がっていた。
そのテーブルへ大袈裟なまでに足を掛ける男が一人。
そしてテーブルへ顔を埋めている魔族が一人。
ただそれだけだった。
「……アンタ、もしかして勇者?」
「その通りだけど」
「スマン、この戦争とりあえず終わったわ。
目の前にいるコイツが指揮官だったんだけどさ」
シャインは目を疑った。
その魔族には外傷ひとつない。
剣で斬られた傷も、魔法で焼かれた痕もないのに
完全に絶命している。
「……死んでる……君が倒したのか?」
「そうだな、結果的にそうなるな」
「君の名前は?」
「おいおい、勇者ってのは偉そうだな。
まずは自分から言うもんだろ」
「済まない、僕の名前はシャインだ」
「なんか真面目だな、流石勇者って感じだ。
俺の名前はデジ……ギャンブラーだ」
神々しい光のオーラを纏う金髪の勇者。
口元を歪めて笑顔を漏らす黒髪のギャンブラー。
正反対の二人の視線が、
静まり返った部屋の中で真っ直ぐにぶつかり合う。
勇者とギャンブラー。
二つの交差する運命が
この世界を大きく揺るがしていく。




