第2話 この異世界が気に入らない
「なんでアンタたち、キャンプに行くっていって
血まみれになってんのよ?」
街に戻るなり、武道家のミカンに突っ込まれた。
呆れ顔をして、青い長髪を肩の後ろへ回している。
そりゃそうだ。
回復したといえ、一度は死んだシャインの鎧は完全に真っ赤に染まっている。
俺も結界を作る前の一苦労で体中ボロボロだ。
「いや、野生の獣王グルガが現れてさ……」
「!!獣王グルガと戦ってたの??」
ミカンが驚くのも無理はない。
シャインが戦っていた獣王グルガとは
魔王軍の中でも突出した力を持つ、
十六破将の1人なのだ。
倒しはしたが、普通は逃げるべき相手。
まあ、俺がシャインを煽って結局戦ったんだけども……。
少し離れた場所では、
心配そうに魔法使いのユカがシャインを介抱している。
小柄な体形に日本人形のような黒髪が少し揺れていた。
「……無茶するのは……やめてほしい」
どうせアンタが仕組んだんでしょという声が
ミカンとユカから聞こえてきそうなほど、睨まれている。
む~、俺はこの二人とも仲良くしたいんだが、まだ怪しまれてるなあ。
これはシャインの援護に期待するしかない。
「僕達が街の外で戦ったことで被害はどこにも出なかったんだ。
平和は守られた、それでいいと思う」
「そういう問題じゃない!
私達と合流すれば、そんな怪我しなくて済んだんじゃないの!」
ミカンの声が部屋中に広がっていく。
それに構わず、シャインは言葉を続けていく。
「防具が汚れているだけで僕は無傷だよ。
まあ、一度死んじゃったけどね」
「何よソレ!その方がヤバいじゃないの!!」
……黙っておけと言ったのに。この馬鹿勇者は。
「あ、悪いデジ喋っちゃった」
何故、追い打ちをかける。
いや、コイツに何故は通用しない。
それはコイツが根っからの天然だから。
シャインからの言葉を受けて軽く舌打ちをすると、
二人からの視線が更に厳しくなる。
「アンタ、またギャンブルしたんでしょ」
「そうそう、それで助かったんだよ」
「シャインは黙ってて!」
ミカンに押されて、黙るしかない勇者の姿。
コイツは戦いの時以外、大体情けない。
「最初から言ってるだろ?
俺がお前たちと一緒にいるのはギャンブルがしたいからだ、と」
「魔王軍以外とやりなさいよ!」
それじゃ、折角の異世界なのに勿体ないだろ。
普通のギャンブルになる。
……いや、それを言っちゃ流石にミカンがキレる。
「わかったわかった、俺が悪かったよ。
でも言っちゃなんだが、ギャンブルしなければシャインは負けてたぞ」
「だから!逃げればよかったでしょ!」
「それは勇者じゃない、グルガは最初から僕を標的にしていた。
この街にいれば、住人にも被害が出ていた可能性がある」
「それはそうだけど……」
よし、なんとも立派な勇者だぞシャイン。
「大体、私とユカが加わるまではアンタたち二人だったんでしょ?
シャインは何でデジをパーティ―に入れたのよ。
職業ギャンブラーって……」
「後から賢者になりそうでさ」
「……呆れた」
はっはっは、そんな理由だったのかシャイン!
コイツやっぱり面白いわ。
まあ、実際の所は分からないが、
シャインと俺は同じタイミングでこの異世界生活をスタートしてんだよなあ。
今でも昨日のように思い出すことが出来る。
そう……この世界に召喚された日のことを。
◆ ◆ ◆
三か月前
とある平原で無数の兵と魔物が戦闘をしていた。
それは戦いというには、あまりにも規模が大きく、
戦闘ではなく戦争をしていると言った方が正しい表現にも思える。
人間軍と魔王軍。
二つの軍勢は共に剣に斧、槍で正面の敵の命を狙い、
後方では大小さまざまな魔法陣から光が迸る。
互いの軍勢が交わる戦場は土の色が見えないほど血に染まり、
悲鳴なのか雄たけびなのか分からない怒号が至る所から響き渡る。
戦が始まって13時間は経過しているが、
ただただお互いの戦力が擦り減っていく。
第三者からみれば五分に見えるこの戦場。
だが、実際にはこの戦に負けられないのは
圧倒的に人間軍の方だった。
「スリーム国王!このままでは我が軍は敗北します!
進言します!召喚の儀を行うべきです!」
「……やむを得んか……召喚を行う!」
数分後、人間軍の後方から天へも届く光の柱が煌めいていた。
そして、魔王軍側では……。
「ほう、人間どもは召喚の儀を行ったか」
「魔王様、この戦をいつまで続けるおつもりですか?
十六破将のどなたか、または魔王様自ら戦場へ向かえば直ぐに終わりますぞ」
褐色の肌に2メートルはあるその姿、
しかしそれ以外は完全に人間と同じ見た姿の魔王へ、
部下と思われる魔族が苦言を零していた。
「それではツマらんではないか、余は戦争を楽しみたいのだ」
「しかし向こうがもし強力な召喚を成功させた場合、敗北の可能性が出ます」
「……心配性め、負けても構わんが、そこまで言うなら仕方ない」
「!では獣王グルガ様を!」
「そうではない……こちらもしようではないか……召喚を」
その言葉を聞いて、部下が大きく項垂れる。
魔王、もしくは十六破将の一人でも戦場へ出せばすぐに終わるこの戦い。
それを無視して、召喚を行うというのは
魔王がただ楽しみたいだけと
誰の目からみても明らかだ。
「では早速行おう……そうだな、余を楽しませるものを召喚しよう」
「いえ、戦力になるものをお願いします」
魔王は部下の声を無視したままに、
目の前の空間へ魔法陣を形成していく。
数秒、魔王が術式を唱えるとその魔法陣から
闇のように黒い光が天へと貫いていく。
「いでよ!余を楽しませるものよ!」
黒い光が煙のように溶けていく。
その煙が晴れていくと、魔法陣が存在した場所へ
一人の男が現れていた。
サイズオーバーの真っ赤なパーカーに少し太めのジーンズ。
猫を思わせる無邪気に乱れた髪を掻き揚げながらその男は佇んでいた。
「……アンタたち誰?」
男の冷たい視線が魔王をはじめとする魔族へ注がれる。
「余は魔王だ」
「……魔王……もしかしてここって異世界って奴なんじゃあ……」
「オマエから見れば異世界で間違いない」
「……なんてこった……どうせならギャンブルもののデスゲームとかに
無理やり参加させられる方が嬉しかった」
「……ほう」
魔王が男のステータスを確認する為、
パラメーター解析の魔法を唱える。
瞬時に各種数値が並ぶ。
HPもMPも普通の人間と同等、つまり一般人。
だが、男の職業欄には「ギャンブラー」という文字が刻まれていた。
魔王以外の魔族は困惑する。
「ギャンブルってなんだ?」
「アイツの職業ギャンブラーってのと一緒の意味か?」
「弱そう」
周りの声が拡がるが、
男はその困惑を更に超えて、動揺していた。
「まてまて、お前らギャンブル知らないのか!?」
「だから何だそれ」「食いもののことだったりして」
誰から見てもわかるほど、男が落胆していた。
それを見届けると魔王がその理由を説明していく。
「悪いが500年前に先代魔王が封印した、ギャンブルを」
「何で魔王がギャンブルを廃止してんだよ!
悪い奴はギャンブル好き!
これは俺の中で確定事項なんだよ!」
困惑の顔から怒りの顔へ
その変化を見て笑う魔王が両手を突き上げる。
「ハッハッハ!面白いぞお前!
500年前に消えたはずの、ギャンブルの名を冠する人間よ!
いいだろう、今この場をもってギャンブルの封印を解く!」
召喚の儀と同様に魔法陣が空間へ拡がる。
そして、1秒もかからずに魔法陣が砕けていく。
「封印は解いた、これでギャンブルは自由だ」
「ギャンブルは最初から自由なんだよ!!!
気に入らねえぞ、お前!」
「魔王様になんて言葉を!!」
怒り狂う部下に魔王は制止を掛ける。
「よいよい、面白い男が召喚できたから余は機嫌がいい」
「こんな男のことよりも、人間軍との戦いの方が重要では?」
「……そうでもないが……そうだな、わかった。
この男とのギャンブルに勝てば余が戦場に出てやろう」
「なんと!それならば話が変わります」
「オイ!勝手に決めんな!……いや、待てよ。
ギャンブルできるのか……これ、ある意味、俺が求めていたものかも……」
「ハッハッハ!500年ぶりのギャンブル見せてもらおうか!人間!
……ところでお前の名はなんという?」
男が顎に手を当て少し俯く。
ほんの数秒。
だが、その沈黙を魔王軍の兵たちは妙に長く感じられた。
(ギャンブラーという職業。
そして、不思議と一瞬で理解できた俺に与えられた奇妙な能力。
……これなら出来るかもしれない)
男がゆっくりと口を開く。
「……デジだ」
魔王は満足そうに笑った。
「デジ、良い名だ。覚えておこう」




