第12話 私にとってのギャンブラー
なんで命を賭けるの?
なんでギャンブルをするの?
なんで負けそうになってるの?
モーグが逃げようとした時
デジが能力を発動してギャンブルを開始したのが分かった。
デジは気づいていないかもしれないけど、
あの能力は発動時、周囲に独特な光を放つ。
カメラのフラッシュに近いと思う。
シャインとミカンも私と同じように、
デジの暗躍を理解していた。
私の魔法を吸い込んだモーグから排出された魔物たち。
それらを倒しながら、少しずつデジの結界に近づいていく。
だけど、魔物たちの抵抗は想像以上に激しかった。
シャインが次々と魔物を斬り伏せる。
ミカンも必死に応戦しているが、既に息が上がってる。
私もさっき放ったファイアーストームで
魔力のほとんどを消耗している。
……あと少し。
結界は目の前にあるというのに、
魔物たちが行く手を阻む。
そんな戦闘中だというのに、
デジの声とモーグの声が戦場に響いていた。
お互いが相手のアイテムを食べ合うギャンブル。
最初はシンプルで楽しそうなギャンブルだと思った。
デジとモーグの声もどこか呑気な内容だったから。
でも、私たちがモーグから吐き出された魔物を全て倒して
結界の前に辿り着いた時、このギャンブルの恐ろしさを理解した。
「デジさん、それ猛毒ですよ」
デジが手にしていたもの、
それは数分で人を死に至らしめる猛毒だった。
結界内ではデジが絶望の顔で毒が入った小瓶を見つめている。
飲んでは駄目!と叫びたかった。
でもこれがギャンブルな以上、デジは絶対に飲む。
シャインとミカンもただ黙って見つめている。
予想通り、デジが毒を飲み干した。
……デジはこのギャンブルに負ける。
あの毒を飲んで3分以上生きられる人間は存在しない。
結界内でデジが苦しんでいる。
「デジ!!」
デジが死にかけている姿を見て、
我慢できなくなったシャインが結界前で剣を構えている。
結界を壊してデジを助けるつもりだ。
「我は勇者……剣は魂……身体は光……」
シャインの全身から眩い光が迸る。
剣を中心に光が渦巻く。
あまりの魔力に大気は震え、
足元の砂粒、小石が浮き上がっている。
静寂が辺りを包み、彼こそ勇者だと改めて感じる。
……シャインは全力でデジを助けるつもりだ。
次の瞬間、シャインが剣を振り下ろした。
「唸れ!シャイニングブレード!」
轟音と共に放たれた光の斬撃が
結界へと激突する。
地面は激しく揺れ、巻き上がった土煙が
私たちの視界を奪った。
肩で息をしながら、
シャインが願うようにその結果を見つめている。
やがて土煙が晴れると
そこには、さっきまでと何一つ変わらない結界があった。
傷ひとつ付いていない。
シャインが剣を握ったまま、
結界を激しく叩いてる。
「デジ!!デジ!生きろ!!」
渾身の一撃を防がれたシャインが泣きながらデジへと叫んでいる。
その姿は今まで私達が見たことないほど、動揺していた。
二人の間には私が知らない絆みたいなものがあるんだと思う。
私にはわからない。
この世界に来てから何度も人が亡くなる瞬間をみた。
それにデジはこの結果もあり得るという前提でギャンブルをしている。
あと1分もすればデジは死ぬ、そして負ける。
モーグもそれを見越して、ただデジを眺めている。
……デジが自分のお腹を切り裂いた。
「……何やってるの?」
誰にも聞こえていないと思う。
でも自然と声が漏れていた。
毒を飲んで苦しんで、
更に自分の身体を傷つけて、また苦しんでいる。
なんでそこまでするの?
死ぬまでの時間が数秒伸びるだけじゃないの?
私はデジをまだ信用していない。
……でも一つ分かったことがある。
デジは全力でギャンブルをしている。
あんな状態でまだ勝ち目があるとは思えない。
それでも勝ちの可能性を探っているんだ。
負けが確定するまで、やれることをやっている。
それがデジにとってのギャンブルなのかもしれない。
……それでも。
デジ、負けるの?デジ、死ぬの?
「モーグさん残り2分以内に食べ切らなければ貴方の負けです」
デジの数秒伸ばした命が、
モーグのターンを強制させている。
そして、モーグがデジのデイパックから取り出したのは
……私のパンツだった。
それは私がデジとのギャンブルに負けて、奪われたもの。
……。
デジはギャンブルの戦利品を大切にする節がある。
だからきっと持ち続けると思い、
私はいざというとき、デジを止めるためにある細工をしていた。
改めて横を見ると
シャインが絶望の顔で、ミカンが困惑の顔で結界内を見つめている。
……私はデジの能力を危険だと思っている。
……出来れば使わない方がいいと思っている。
……シャインは一度死んだ。今も実際デジは死にかけている。
……デジがいなかったら私達はどうなっていただろう?
……ギャンブルは認めない、でもデジには生きていてほしい。
そこに理由はいらないのかもしれない。
「発動!チェーンロック!」
モーグの身体にパンツから飛び出た鎖が巻き付いた。
「なんだど、これ~」
結界内のパンツを媒体に
私の束縛魔法がモーグを包む。
その名の通り、鎖型の魔法。
パンツを口へ運ぼうとしていた腕が
空中で止まっている。
……成功だ。
私はギャンブルに負けても
何かあればデジを止めようと思った。
だから、パンツを媒体にして
デジが結界の内側にいても拘束できるように仕込んでいた。
それなのに今、私はこの魔法でデジを助けようとしている。
……何をやっているんだろう、私。
「動けないだど~」
「モーグさん、残り1分30秒以内に食べないと負けになります」
モーグが私の魔法に全力で抗ってくる。
ついさっきまでの戦闘で私の魔力は限界に近い。
特に最初に放った広域魔法にほとんど魔力を持って行かれている。
目の前が薄く暗くなっていく。
少しでも油断したら意識が途切れると自分でもわかる。
モーグが力を入れるたび、
自分の心臓を捕まれたように鼓動が速くなる。
「オラは食べたいんだど~」
「食べさせないわよ!私のパンツ!」
十六破将の一人だけあって、その力は膨大。
気を抜いたら鎖が引きちぎられる。
モーグの右腕が、少し動いた。
鎖が軋んでいく。
「……さ、させない」
残った魔力を全て解放して
鎖に注ぎ込む。
自分の鼻から軽く血が垂れているのを感じる。
私も限界が近い。……でもそれ以上に。
「デジ!あなたが死んだら負けなのよ!」
デジは自分で引き裂いたお腹を抱えたまま、
ただ地面を見つめている。
今にも死にそうだけど、
その瞳だけはまだ私が知るデジ……ギャンブラーのものだった。
「残り1分です」
冷酷に告げる審判者ジャジ子。
実質、モーグ対ユカ。
だが、デジが死ねばそこでこのギャンブルは終わる。
必死に食べようとするモーグ。
それを食い止めようとするユカ。
そして、ただ死なないように耐えるデジ。
3人の意地と執念が魂を燃やす。
ギャンブル『食すデイパック』
――そのクライマックスは灼熱の60秒と共に




