第10話 デジは天才ではない
俺がモーグのデイパックから取り出したのは
最初のものと同じく、見たこともない動物の死骸だった。
掌に収まるサイズ。
数分前は嫌悪していたのに一つ前の衝撃で
感覚がマヒしていると自分でも感じる。
「……うん、クソマズいけど完食だ」
一瞬で食べ切ってみせたが、胃の奥が重い。
今食べたもの以上にその前に食べたものが
腹の中で渦巻いている気がする。
……思い出すな。
もう、何を食べたかなんて考えるな。
しかし、胃はもうパンパンだ。
正直、あと少しで俺は何も食べられなくなるだろう。
その前に、モーグがアレを引くことを祈るしかない。
「じゃあオラの番だど~」
またしても軽快に俺のデイパックを漁るモーグ。
そして取り出したのは……小麦粉の袋。
それだ。
「なんだどこれ~」
疑問をこぼしつつも
袋を噛み破って食べていくモーグ。
顔の周りにも粉が浮いている。
モーグはこのギャンブルが始まる前に
ユカの炎を食べている。
だから火種は残っている……気がする。
あとは酸素と小麦粉。
確か、粉塵爆発。
空気中に小麦粉が充満して酸素と火種があれば爆発するとか
アニメで見た気がする。
……わからない。俺は天才じゃない。
こんな思いつきでモーグを倒せるとは思えない。
だけど、他に何がある?
俺の腹はもう限界が近い。モーグの腹は底が見えない。
まともに食い合って勝てる相手じゃない。
苦しくてもこんな策に頼るしかないのが現状だ。
数秒が経過した。
モーグの腹をジッと見つめるが何も起きない。
剣を丸呑みするほどだ、
どんな構造しているか見当もつかない。
流石に無理があったか。
そう諦めようとした時。
「おお、おおお、腹が~」
モーグが腹を押さえている。
……やったか?
ボンッ。
モーグの腹が一瞬膨張する。
だが、それだけだった。
すぐ元に戻ってニヤついてる。
「なんか腹の中で爆発したど~、でもオラの腹は世界一なり~
いい刺激だったど~」
……まあそうだよな。
凝視していたモーグの腹から目を背ける。
どうやら粉塵爆発は成功したらしい。
だが、コイツの名前は「大喰いのモーグ」
とっても胃が丈夫だったんだろう。
……本当に勝ち目がない。
策とも呼べない策がたまたま出来上がった。
そして、それすらも通用しない。
そんなことを考えている間にも、
俺のターンがやってくる。
……俺は死ぬのか。
「では、デジさんの番です。早く引かないと3分経過しちゃいますよ」
出来る限り顔色を変えずに俺はモーグのデイパックに手を伸ばす。
相変わらず何を掴んでいるか見当もつかない。
引っこ抜き、手元を見るとそこには小さな瓶が一つ。
「あ~オラのジュースが~、もうオラのデイパックこん棒しかないど」
……コイツは本当に何も考えていない。
多分、コイツは嘘を付かない。
残りはこの小さな瓶とこん棒だけ。
飲み物ならまだ流し込める。
あとはこん棒をミキサーに掛けて、根性で腹へ突っ込むしかない。
逆に言えば、それさえ達成すれば……勝てる。
……ジャジ子がこちらを見つめている。
「デジさん、それ猛毒ですよ」
「は?」
「オラにとってはジュースなんだど~」
モーグが不服そうに頬を膨らませているが
それどころではない。
さっきまで飲み物と認識していた小瓶から
禍々しい殺意が漏れている気がする。
瓶を握る手がいつの間にか小刻みに震えていた。
「もう一度言ってくれジャジ子」
「だから猛毒ですって、人が飲めば3分以内に確実に死にます」
絶望は連鎖していく。
人として食べてはいけないものを食べた。
策と呼べない策に頼った。
微かに見えた勝利への希望。
その一歩手前に死は転がっていた。
「制限時間、残り2分です」
飲んだら死ぬ。
飲まなくても負けて死ぬ。
俺はギャンブラーとして、
死んでも飲むことを決めた。




