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魔王の花嫁 無能と蔑まれたわたしのスキルは、魔界ではチート技でした?! 温厚な魔王様に溺愛されるのは想定外です……‼︎  作者: あきはる


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晴れた日に

この日の空は、朝から広く晴れ渡り、紫の綿あめみたいな雲が青空にたなびいていた。


前に訪れた菜園のある庭園にたどり着くと、魔王は日よけのために屋根の下で待機し、レミリアは一人、日なたへと出ていった。


「では、スキルを発動してみますね。――陽光遮断(サンバリア)」


唱えても、周囲には一見、何の変化もない。しかし、スキルが発動した後の菜園の野菜たちは、目に見えて元気を取り戻し始めていた。


その様子を見て、魔王は少しだけ目を見開く。


「確かに、君が説明した通りだ。本来なら日光に弱いはずの魔界の植物たちが、息を吹き返している。……この庭一帯に、何かの魔力が働いているのも感じる」


魔王は屋根の下から目を細めた。強力な魔力を持つ魔族の中には、相手のスキルを感知できる者がいるらしい。


一見、外の景色に変化は見られないものの、魔王にはレミリアがスキルを発動させたことがわかったようだった。


このまばゆい日差しが照りつける中でも、魔王は冷静にその場に佇んでいる。

それは魔王自身の魔力が相当に強いこともあるけれど、それ以上に、レミリアが発動したスキルによって陽光の刺激が遮断されていることが大きい。


けれども、彼は屋根の下から一歩も動こうとしなかった。たとえ魔王といえど、この日差しの中へ出て行けば、ひとたまりもない。それがわかっているからだ。


「信じられないかもしれませんが、どうぞ」


見かねたレミリアが、おずおずと魔王の方へ手を差し出す。

魔王は少し目を細めた後、その手を取った。


そのまま、一歩、庭先へと足を踏み出す。靴の裏で芝生を踏みしめると、まばゆい陽光が頭上から降りそそいだ。


「これは……確かに、常軌を逸しているな」


「ね、なんともありませんでしょう? あまり広範囲にバリアを張ることはできないのですが、この庭一帯であればカバーできます」


そう言って、二人はそのまま庭の中ほどまで進み出た。

すると、魔王がぽつりとつぶやいた。


「生まれてから今日まで、私は日の光をこの目で見たことが一度もなかった」


日差しは、すべての魔族にとって絶対的な弱点となる。どんなに強力な力を持つ魔族でも、一度日の下にさらされれば、焼け焦げて死んでしまうのだ。


「魔王様にもこれをお見せできて、良かったです」


魔王が冷静に受け止めてくれたことに安堵して、レミリアはほっと胸を撫で下ろした。


「レミリア。君は本当に、何者なんだ?」


魔王は美しい目を見開いて、レミリアを見下ろした。


普段は薄曇りか、室内のランプの明かりの下でしか顔を合わせることがなかったけれど。こうして日差しの中であらためて見ると、彼の瞳は熟れた木苺のような、鮮やかな深紅だった。白い肌にも赤みが差して、端正な顔立ちが、いつもの二倍増しくらいに輝いて見える。


「わ、私も、初めて自分のスキルが何かの役に立ったことを実感しています」


思わず魔王の姿に見惚れていたレミリアは、はっと我にかえる。慌てて咳払いをしてから、そんなことをつぶやいていた。


二人はそのまま、菜園の隅にあったベンチに腰掛けて、しばらく談笑した。


「魔王様。聞いてもよろしいでしょうか」


「なんだい?」


「あの……魔王様は、我々人間にとてもよく似た姿をしていらっしゃるのですね。それが、魔王様の本来のお姿なのですか」


初めて魔王と二人きりになったレミリアは、思い切って、以前からずっと気になっていたことを聞いてみた。


「そうだけど、どうして?」


「いえ。他の魔族たちと比べると、あまりに人間に似ていらっしゃるので。もしかしたら、私のために姿を変えてくださっているのではないかと思ったのです」


レミリアは正直に打ち明けた。


「ああ、そういうことか。確かに、私は魔族よりも人間に似ていると、よく言われる。でもこの姿は生まれたときからのものだよ。亡き父上も、祖父もまた、同じように人間に似た姿をしていたらしい」


「そうなのですね」


レミリアは内心ほっとしていた。でも、魔王がこんなにも美形だったなんて、びっくりだ。

しかし魔王は、レミリアの反応を見て少しだけ眉を下げる。


「変かな?」


「いいえ、とんでもない。人間にとっては、魔王様は信じられないくらい美形に見えます。本当です」


言ってから、レミリアは失言してしまったと思い、赤面してうつむいた。それを見ていた魔王が、ぷっと吹き出す。


「人間にそんな風に褒めてもらったのは、初めてかもしれないな。でも、レミリアにそう言ってもらえて嬉しいよ」


魔王はいたずらっぽく笑う。それを見て、レミリアは再び赤くなった。


「それを言えば、レミリア。君もまた、魔族たちにとっては少し珍しい見た目をしていると思う」


「えっ……。それは、どのようなところがですか」


「我々魔族にとって、私のような紅い瞳は珍しいんだ。代々の魔王のように、強大な魔力を備えた者の瞳が紅く輝くことは知られている」


「そうなのですか、確かに私の瞳は人間界でも珍しい方ではありますが……」


言いながら、レミリアは思い返す。

確かに、レミリアの瞳は父にも、ほかの兄弟にも似ていないレミリアだけのものだった。

父にも似ていないことから、これはレミリアが物心つく前に亡くなったとされる、母に似たのだと勝手に思っていた。


「初めて君に会った時、その不思議な瞳に目を奪われてしまった。見かけは普通の人間のように見えたから」


魔王が初日のレミリアとの対面を思い返しながらつぶやく。

言われて、レミリアもまた初対面の時に、魔王がレミリアのことを不思議そうに凝視していたことを思い出した。


(あの時、不思議そうにこちらを見つめていたのは、そのせいだったのね)


「たしかに、これは生まれつきのものです。父である国王陛下とも似ていないので、きっと幼いころに亡くなった母譲りなのだと思います。ただ、私はこの通り魔力の乏しいただの人間ですし、これ自体に特別な意味は無いと思います」


人間と魔族では種族が異なるし、特段の意味はあるように思えない。

レミリアは結論付けた。


「もしかすると、君は母上に似たのかもしれないね」


ややあって魔王はそうつぶやいた後、少しだけ肩をすくめてみせた。


「実は、私も父と母を幼い頃に亡くしている。先代の魔王が斃(たお)れた時、私は幼くして王座を継ぐこととなった。以来百年近く、この城に一人で住まい、魔界を治めている」


「ひゃ、百年……? し、失礼ですが、魔王様は一体おいくつでいらっしゃるのですか」


「今年で百十七歳だよ。でも魔界で言えば、私はまだまだ若者の部類に入るけどね」


(ま、魔王様が百十七歳……。み、見えなすぎるわ……)


思わぬ年齢が飛び出して、レミリアは目を白黒させてしまった。でも、聞いたことがある。人間界と違い、魔界に住まう魔族たちは、人間よりも遥かに長い寿命を生きるのだと。


(見かけは同年代に見えてしまったけれど、彼のほうが遥かに年上だったのね)


自分は未だに魔界の常識に疎いのだと、レミリアは改めて思い知る。

――そんな他愛もないことを話しているうちに、時間はあっという間に過ぎ去っていった。


「そろそろ城に戻ろう。君も、ずっとスキルを発動していては消耗してしまうのではないか?」


「はい。今日はご一緒できて良かったです。ありがとうございます」


そういって、二人が別れようとしたとき。

不意にレミリアは思い出して、こんなことを尋ねた。


「魔王様は名前を何とおっしゃるのですか。失礼ながら、ここへ来るまでに魔王様のお名前をうかがっておりませんでした」


「ああ確かに」


いわれて、魔王もまた思い出したように緋色の瞳を細めた。


「私はルーファスという」


「ルーファス様……」


「ではレミリア、また後で」


晴れた日の昼下がり。二人はこの世界ではありえないはずの、まばゆい陽光を受けて佇んでいる。

しばらく見つめ合った後、二人は再び城の中へと入っていった。



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