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魔王の花嫁 無能と蔑まれたわたしのスキルは、魔界ではチート技でした?! 温厚な魔王様に溺愛されるのは想定外です……‼︎  作者: あきはる


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誘拐事件①


ある日、今日は珍しく魔王が地方へ公務に出ていて不在だった。

留守番をしている間も特段変わったところはなく、レミリアは普段通りの生活をしている。


昼食を取った後、部屋へ戻るために廊下を歩いていると、後ろからルーナに呼び止められた。


「お嬢様、少しよろしいでしょうか」


「どうしたの、ルーナ」


「この後、少しお城の外を探索されませんか。魔王様からも申しつかっているんです。お嬢様が退屈そうにしていたら、また町を案内して差し上げてほしいと」


「あら、そうだったの」


意外な提案に、レミリアは一瞬だけ首をかしげる。

けれども確かに、今回レミリアは留守番なので、魔王なりの心配りとも思えた。


「嬉しいわ。ではせっかくなので行きましょうか」


早速、城門の方まで歩いていく。

しかし、ルーナはなぜかお城の裏門から抜け出した。

そのまま後ろをついていくと、城の裏手にある狭い路地裏のようなところで、ルーナは唐突に立ち止まった。


「お嬢様、お許しください。お嬢様や魔王様には、とても良くして頂いたのに……」


「えっ、急にどうしたの?」


見れば、彼女はなんだか俯いて元気がない様子である。


「これは仕方がないことなんです。家族を人質に取られて脅されました。もし失敗すれば、私も家族の命もありません。どうか、私を恨まないでください」


「な、何を言い出すの?」


すると突然、暗がりの路地の影から、見知らぬ人影が数人躍り出た。

レミリアは咄嗟に逃げ出そうとした。けれども敵はいきなり襲いかかると、そのまま彼女を路地裏から連れ去ってしまった。


***


「……ここはどこかしら」


気がつくと、レミリアは見覚えのない客室のベッドの上に寝転がっていた。

天蓋付きの寝台。あたりには豪華な金張りの装飾が施された調度品がいくつも置かれている。


さながら魔王城の客室を思わせたが、このような部屋はレミリアの記憶にない。


「一体、どうしてこんなところに……ルーナはどうしたの」


お城の外に出て、そこで何者かに襲われたところまでの記憶が蘇ってきた。

キョロキョロとあたりを見渡していた時、不意に向かいの扉がノックされて、戸口から見知らぬ人影が現れた。


「あなたは、誰ですか……?」


それは、見知らぬ魔族の二人組だった。

ひとりは赤みを帯びた金色の髪に、獣のようなオレンジ色のギョロ目をした若者だった。この館の主だろうか。裕福な身なりをしていて、佇まいも余裕を感じさせる。

もう一人は、召使い風の男だった。


「エーギル、この娘が魔王に嫁いだという、異能の花嫁なのか」


「はい、公爵様。お付きの使用人(メイド)が連れ出してきたので、おそらく間違いないでしょう」


二人はレミリアの質問を無視して、何やら話し込んでいる。


「あの、ここは一体どこなのですか」


レミリアはおずおずと声をかけた。

言われて、ようやく若者風の男がレミリアに目を向ける。


「突然お連れしたご無礼をお許しください、魔王陛下のお妃様。私は北部領主、ブランドルー公爵家の当主、ルシウスと申します。この度は訳あって、あなたをここへお招きしました」


主人風の若者が一歩前に出て、恭しくお辞儀をした。

レミリアは警戒を強める。


「訳……? それは一体どのようなことなのです。魔王様はご存知なのですか」


「もちろん、陛下はご存知ありませんよ。そもそもあそこは警戒が厳しく、陛下が不在の隙を狙わなければ、あなたを連れ出すことなど出来ませんでした」


言葉の端々から、レミリアは自分が良からぬことに巻き込まれたのだと気が付き始めていた。


「い、一体何の目的で私をここへ」


「ふふ、それはもちろん。あなたが持つ“特異な魔法”のことです」


どうやらこのルシウスという男は、レミリアの能力を見抜いているようだった。

魔王はこのことを伏せていたはずなのに――。レミリアは背中に冷や汗が伝うのを感じた。


「私の魔法(スキル)が、なにか……?」


「知っていますよ。あなたは、日の光から魔族を守る魔法を持っているのだとか。それを用いれば、魔族は陽の光を克服することができる。陛下は巧妙に隠されているようでしたが、我々を欺くことはできません」


「それが、あなたたちと何の関係があるのですか」


レミリアは眉を顰める。

自分の能力が魔界や人間界にどのような影響をもたらすものなのか、彼女はまだ考えたことがなかった。


「お妃様は鈍感でいらっしゃいますね。あなたの力を用いれば、魔族は人間界と友好条約を結ぶ必要がなくなる。我々は遂に、人間の領土を征服することが可能となるのです」


レミリアが驚愕している横で、ルシウスはさらに続けた。


「先の大戦の際、我々魔族は人間たちの領土を征服することができなかった。それは魔族が陽の光を弱点とするためです。しかし、あなたの力を用いれば、我々は弱点を克服することができる。遂に大望を成就することができるのです」


「でも私は、人を傷つけるためにこの力を使うつもりはありませんよ。私は人間と魔族の間を取り持つために魔界へ来たのですから。第一、再び争いを起こすなんて、そんなことは魔王様が望まないはずです」


レミリアはルシウスの言わんとしていることを理解して驚愕したが、即座に反論した。


「陛下の意向は測りかねますが、我々諸侯はこの機に乗じて人間界に攻め込む用意がある。かの地は広大だ。一度人間界を征服してしまえば、我々は莫大な富と領土を獲得できるでしょう」


「そんなこと……私が許しません」


威勢を張ったものの、ここは敵の本拠地のど真ん中。

彼に対して抵抗するすべがあるわけではなかった。


「確かに、おっしゃるように魔王陛下は少し呑気が過ぎるようだ。あなたのような切り札を手にしておきながら、それを使わないなんて」


ルシウスが不満げに鼻を鳴らした。


「我々諸侯は、陛下のご意向には賛同しかねる。この機に乗じて人間界に攻め入らなければ、次の機会などやってこないでしょう」


「私を利用しようとしても無駄ですよ。私は、あなた達のために力は使いません」


レミリアは強気に反論した。しかし、ルシウスはせせら笑う。


「ふふ、お妃様はご存じないでしょうが。あなたの力を使うのに、あなたの意思は関係ありません」


「……? どういうことですか」


「ご存知ありませんか。北部領主ブランドルー家――我々は吸血鬼の一族なのです。吸血鬼は古来より人間を捕食し、彼らを自らの眷属として迎えることで、その勢力を伸ばしてきました」


魔界の事情には疎いレミリアだったが、吸血鬼の伝説のことは知っていた。

彼らは夜に人間を襲い、その血を吸い取って殺してしまうのだという。そして、吸血鬼に血を吸われた人間は、月夜の晩に蘇って同じ吸血鬼になってしまうらしい。レミリアにとっては、おとぎ話のようなものだった。


けれども、ルシウスは不敵に笑みをこぼす。


「我々吸血鬼の主は、眷属にした人間の意識を自由に操れるのです。お妃様、残念ながらあなたには、魔王陛下のお妃様をやめていただきます。代わりに、我がブランドルー家の新しい眷属として迎え入れましょう。そうすれば、あなた自身の意思とは関係なく、我々のために力を奮っていただくことになります」


「そ、そんな……。そんなことは到底受け入れられません。魔王様だって黙ってはいませんよ」


レミリアは青ざめた。

それを見て、ルシウスはなおも余裕の笑みを浮かべる。


「はは、あなたをこちらに引き入れることができれば、もう魔王陛下など恐ろしくもなんともありませんね。我々は、魔族の弱点を克服する切り札を獲得するのですから」


「で、でも……」


「これで陛下の治世もおしまいです。魔界は弱肉強食。弱いものは強いものに取って代わられるのが世の常ですから。しかし、お妃様はご心配なく。私が新たな魔王となったあかつきには、あなたを私の妃として迎えてあげましょう」


「そんなこと、私は望みませんが……」


レミリアは固辞したが、ルシウスは相手にしなかった。


「そうやって威勢がよいのも今のうちです。今宵の満月の晩に、あなたを我が眷属に迎え入れる儀式を行います。吸血鬼の眷属を増やすためには、満月の夜に儀式を行う必要があるのです。それまでの間、大人しくしていてくださいね」


そう言い残すと、ルシウスとエーギルは共に部屋を後にする。そして外から扉に鍵をかけ、レミリアを室内に閉じ込めてしまった。


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