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魔王の花嫁 無能と蔑まれたわたしのスキルは、魔界ではチート技でした?! 温厚な魔王様に溺愛されるのは想定外です……‼︎  作者: あきはる


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婚姻の儀式


翌朝、レミリアは花嫁姿のドレスに身を包み、魔界へと向かう馬車に乗り込んだ。


見送りに来てくれた者は少ない。兄姉たちも、国王陛下も王妃様も、まるでレミリアなど最初からいなかったかのように、姿を現すことはなかった。


「レミリアお嬢様、どうぞご達者で」


「爺や。あなたも元気でね」


見送りに来てくれたのは、数人の使用人たちと、幼い頃からレミリアの魔法の指南を務めてくれていた、家老のアルバス爺やだけだった。


爺やは、魔法がうまく使えないレミリアのために、魔力を強化する訓練を行ったり、身につけた魔法を研磨するための修練を共に行ってくれた恩人である。


「レミリアお嬢様、私の教えを忘れてはなりませんぞ。もし、身の危険を感じたら、私が伝授した秘伝の技をくり出して敵を撃退するのです」


「爺や、心配はいらないわ。魔界まではここにいる近衛兵たちが、安全に運んでくれるから」


「いいえ、お嬢様。問題は魔界に入ってからでございます。かの地には凶暴な魔物がいると聞きます。向こうでも、私が教えた鍛錬を怠ってはなりませんぞ」


「わかったわ、約束します。向こうでも魔法の鍛錬を欠かさない」


爺やを安心させるため、レミリアは努めて健気に振る舞った。見送りに来た使用人たちは、目に涙を浮かべながら彼女を送り出す。


最後の挨拶を交わすと、レミリアは馬車に乗り込んだ。


***


窓の外で、緑の丘がゆっくりと痩せた岩肌に変わっていく。揺られながら、彼女はこれから向かう地に思いを馳せていた。


魔界や魔族について、いまだ多くのことが謎に包まれている。 百年に一度の会談以外の交流は、お互いに意図的に避けられてきたからだ。


ある伝説には、こんな一節がある。

――魔族は太陽の光を嫌い、絶えず分厚い雲が覆う、北の果ての地に住んでいる。


太古の昔から、陽の光は魔族の弱点だった。だからこそ、圧倒的に力の勝る彼らに対して、人間は辛うじて対抗できたのだという。とはいえ、彼らが獰猛で危険な存在であることは変わらない。


(……もしかしたら、魔王は巨大な獣の姿をしているかも知れないわ。会って早々、丸呑みにして食べられてしまったらどうしましょう)


レミリアは思わずすくみあがる。けれども、今更逃げ出すわけにもいかない。


もし自分が逃げ出せば友好条約は破棄され、再び魔族が攻め込んでくるかも知れないのだ。

曲がりなりにもこの国の王女として、レミリアは自分が生まれ持った使命と責任を果たそうとしていた。



***


――鋭く尖った塔が立ち並ぶ魔王城。背後には紅い月が煌々と輝いて、その不気味さをいっそう際立たせていた。


レミリアは魔界の使者たちに伴われて、城の中央にある広間へと入っていった。

見上げるほど高い天井。祖国の王城で最も大きな広間(ホール)にも匹敵するほどの、荘厳な空間だった。奥には祭壇が設えられていて、その上に一人の人影が立っているのが見える。


「魔王陛下、人間界からお妃様をお連れしました」


従者の一人が、壇上の人影に向かって声を上げる。


言われて、壇上にいた人物がこちらを振り返った。


レミリアは思わず目を見開く。

壇上でこちらを眺めている人物はまるで人間のような見た目をしていた。


ウェーブの掛かった玄鉄(くろがね)の髪。瞳はレミリアみに似た濃い深紅で、燭台の灯りに照らされて妖しく光っている。


彼は人間界ではかなり目を引く、とても美しく整った顔立ちをしていた。年もレミリアもおなじくらいに見える。思わず見惚れかけていたレミリアは、彼に視線を向けられて、我に返った。


「この度魔族との縁談を結ぶために馳せ参じました。アイリス王国の第四王女、

レミリアと申します。不束者(ふつつかもの)ではございますが、どうぞよしなに――」


レミリアが改まって挨拶をすると、壇上にいる黒髪の青年もまた、なぜだかとても驚いたように、こちらを凝視して目を見開いている。


「君は……」


「……? どうかされましたか?」


「……いや、なんでも無い」


思わず小声でつぶやくと、彼もまた我に返ったように目をそらした。



続いて、脇から黄色い目をした魔族が壇上に躍り出た。

彼はレミリアの手を取って、魔王の立っている祭壇の方へ連れて行った。


「私は魔王陛下の従者である、レギュラスと申します。これより婚姻の儀式を執り行います」


レギュラスと名乗った魔族は、レミリアと魔王を向かい合わせ、自分はその間に陣取る。

そして、魔王とレミリアからそれぞれ左手を取ると、二人の間で重ね合わせた。


『――婚姻は、魂の深淵を結ぶもの。今宵、人間と魔族は交わり、ここに婚姻の契約を結ぶものとする。汝が我を識り、我が名を刻むならば、魔族の理に従い、二人を夫婦と認めん』


レギュラスが低く何かを唱えている。

すると魔王と重ね合わせた指先が、ほんのりと熱を帯びてきた。よく見れば、重ね合わわせた手のひらの内、薬指の根本に僅かな光が差し込んで、金色の何かが指に巻き付いた。


(なにこれ……指輪?)


レミリアの診ている内に、それは金色の指輪に姿を変えた。


「儀式は終了です」


レギュラスがつぶやくと、魔王は重ねていた手のひらを引っ込める。

そのまま、くるりと向きを変えてホールを去っていってしまった。


あっけに取られて眺めているレミリアをよそに、初日は終了した。


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