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魔王の花嫁 無能と蔑まれたわたしのスキルは、魔界ではチート技でした?! 温厚な魔王様に溺愛されるのは想定外です……‼︎  作者: あきはる


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ロンバルド伯爵邸②


「そうだ、レミリア。良いものを見せてあげる」


応接室で談話している際に、ふと魔王が声をかけてきた。


「この屋敷に、魔界の全体図を模したタペストリーがあっただろう。それをレミリアに見せてやりたいんだ」


「ああ、あのタペストリーですね」


魔王がアリシアに向かって提案する。

言われて、アリシアは渋々、レミリアと魔王をタペストリーのある客間へと案内した。


「これが、我が魔界の全体図だよ」


魔王が指さす先には、壁一面を覆う一枚の地図がかけられていた。

それは大きな大陸をかたどっていて、端の方は見切れて描かれている。


中央に、首都(セントラル)と書かれた場所にあるのが、魔王城なのだとわかる。

それを中心として、さらに東西南北へと点線が張り巡らされていた。


「地図の下の端にある、これが人間界との国境だ。それより北部が我々の領土。魔王城のある首都を囲うようにして、東西南北に、地方を守護する諸侯たちの領土がある」


魔界は、中央とその周辺に四人の諸侯がいて、彼らが分割して各地方を治めているらしい。


「彼らは四侯と呼ばれていて、各侯はそれぞれ、魔界でも有力な一族が治めている」


魔王が各地域を指さしながら教えてくれた。

諸侯たちが地方を治めて、中央集権の国家を形成しているそうだ。


「人間界でも周辺貴族たちがおりましたが、これだけ広い領土を持つ貴族はおりませんでした。確かに、これほどの面積を魔王様がお一人で統治されるのは大変ですね」


レミリアは感心してしまった。

人間界は、いくつもの小国が連なる国家を形成していた。レミリアの生まれた祖国も人間界では小国で、この地図で言えば、南部のコグレット公爵領程度の面積に思える。


「面積が広い分、治めるのも大変だけれどね。諸侯たちは古くから代々、地方を守護している。ちなみに、今いるのは首都の少し郊外にある、このあたりだよ」


魔王はそう言って、地図の首都から少し下のあたりを指さした。


「遠方と言っていたけれど、地図で見るとまだまだ近い方なのですね」


レミリアは、魔界のスケールの広さにあっけにとられてしまった。


***


タペストリーを眺めてしばらくした後、魔王は所用があると言って、レミリアのもとを去っていった。


後には再び、レミリアとアリシアだけが取り残される。先日の一件もあり、レミリアはアリシアと二人きりになるのを気まずく思っていた。――すると。


「まったく。魔王様もお人好しすぎるわ。どうしてこんな人間の小娘ひとりに、はしゃいでいるの?」


「えっ、魔王様が?」


言われて、レミリアはアリシアの方を振り返った。

彼女はなんだか眉を吊り上げて、不満そうにしている。


「私がお供している時は、いつだってニコリともしない方だったのに。どうしてあなたといる時は、あんなに浮かれているのかしら。あなた、魔王様をそそのかしたの?」


「ええっ……。とんでもない、私はなにも……」


レミリアは困惑してしまった。


「はあ。どうしてこんな凡庸な小娘に……。まあいいわ。そうやって悠長にしていられるのも、今のうちよ」


アリシアはそう言って気だるそうに立ち上がると、レミリアの前で片手を振りかざす。

そして、その場でパッと消えてみせた。


数秒経って、彼女がこの場で転移魔法を使い、ここを去っていったのだと気がつく。


(上級難易度である転移魔法を、いとも簡単に使ってしまうなんて……)


アリシアが自負していた通り、彼女が相当な魔法の使い手であることが垣間見えた。



***


その日の晩餐にて。

魔王とレミリアは、ロンバルド家の晩餐に招待されていた。会場には、出迎えに現れたロンバルド伯爵やアリシアなど、伯爵家の一族が揃い踏みである。


長いテーブルの上には、魔界の食材をふんだんに使った料理が所狭しと並べられていた。城で口にするものとは違い、どれもレミリアには見慣れない色と香りをしている。


「レミリア。明日はロンバルド家が保有する領土を視察することになっている。このあたりの地域は、昔から魔界原産の宝石――蛍石(フローライト)の産出地として有名なんだ」


「フローライト?」


人間界では聞いたことのない名称に、レミリアは首をかしげた。


「フローライトは魔界原産の宝石で、石にはある特殊な効力があるんだ。かの石はそれ自体が魔力を秘めていて、身につける者の魔力を増強させる効果がある」


魔王は懐から、指の先くらいの小さな石を取り出した。

それは翡翠と水晶を混ぜたような、白濁した緑色の中に、ところどころ透明な粒が混じった色をした鉱石だった。


魔族たちの生活には、魔法が深く根付いている。

そのため有力な魔族などは、自身の魔力を少しでも高めるために、装飾品として蛍石を身につける習慣があるらしい。


魔王が持っているその石も、しずくの形に成形されて磨かれ、綺麗な銀の留め具のついた鎖に繋がっていた。


「とても綺麗な鉱石ですね。魔力を増強させるなんて、人間界では知りませんでした」


「この鉱石は、これから向かう山岳部の、一部の鉱山でしか採掘されないものなんだ。魔族の中では高値で取引されている。せっかく来たから、君にも一つ見繕うつもりだよ」


「私にですか」


「君も少しずつ魔法を習得しているだろう。フローライトを用いれば、扱える魔法の種類もさらに広がるはずだ」


「なるほど。それは嬉しいです」


レミリアは目を輝かせた。

魔界に来てから、レミリアは少しずつ魔力の才能を伸ばしつつある。レミリア自身も、魔界で暮らしていくにあたり、もっとたくさん魔法が使えるようになりたいという願望があった。


「蛍石は、魔力を増強させる以外にも、護身用に用いることができます。魔力で外敵を払い除けることができますので。お妃様は非力な人間ですし、魔法も未熟と聞いておりますから、お持ちいただいて損はないかと」


会話を聞いていたロンバルド伯爵が、横から声を上げた。


「魔王陛下には日頃から良くしていただいております故、明日は我が領土で産出されたものから、好きなだけ献上させていただきます」


伯爵は怪しげな笑みを浮かべて、レミリアと魔王を見つめる。


恐ろしげな雰囲気をまとってはいるけれど、案外それは見た目だけで、危険な存在ではないのかも知れない。


彼はレミリアたちを友好的に屋敷へ招いてくれたし、そもそも危険な人物であれば、魔王がレミリアをここへ連れてくるはずもないだろう。


伯爵の隣の席に座っているアリシアは、なおも不満顔でいたけれど、それ以外は晩餐も穏やかに進んだ。


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