レミリアのもう一つのスキル②
「私の陽光遮断は、どうやら太陽光に含まれる何らかのエネルギーを防いでいるらしいのです。実は私、このエネルギーを遮断するバリアとは別に、逆にそのエネルギーを照射するスキルを持っているんです」
「日光のエネルギーを照射するスキル?」
レギュラスは首をかしげた。
太陽の光には、何らかのエネルギーがあるらしい。
単なる〝光〟とは別のもので、それは人間を日焼けさせたり、晴れた日に洗濯物を干すと殺菌の効果をもたらしたりする。人間が日常生活で浴びる分には、何ら害はないものだ。
レミリアはそう言って、おもむろに手のひらを広げてみせた。
「UV」
すると、レミリアの手のひらが、じんわりと暖かくなる。
「指先などから、微量のエネルギーを照射できるんです。目には見えないし、一見、何も起こっていないように見えるのですが。こうして長時間当てていると、たまに日焼けしたように赤くなることがあります。だから私は、これが太陽に含まれるエネルギーなのだと思いました」
言われて、レギュラスはレミリアの手を覗き込む。
しかし、見ているレギュラスにとっては何ら変化はなく、何が起こっているのかまるでわからなかった。
「なんです、これは。これが魔法なんですか?」
「そ、そうですよね。おっしゃるように、これも人間界では珍しい種類の魔法であることは確かなのですが。使い所がわからず、無能スキルとして扱われていました……」
さきほどの陽光遮断と同様に、これも発見した時は新種の魔法だと騒がれた。けれども仕組みや使い道がまるでわからず、周囲から呆れられたのだ。
「要するに、何の役にも立たないスキルということですか」
「そ、そういうことになりますね……」
レミリアは肩をすくめる。人間界でも毎回同じ反応をされていたので、もう慣れた。
「ここへ来れば、なにかわかるかとも思ったのですけど」
陽光遮断の活用方法を見出したように、UVのスキルについても、魔族にとっては有用なのではないか――そう思ったのだが、レギュラスの反応を見る限り、どうやら違うようだ。
「そもそも、なぜ魔族たちは日光に弱いのでしょう。人間たちよりも遥かに強い魔力を持った種族なのに」
「お妃様はご存じないのですか? 魔族に伝わる言い伝えによれば、元々魔族は、陽の光が弱点ではなかったのです」
「そうなんですか」
「かつての魔族は、人間と同じように太陽の下でも活動できていました。しかしある時、一部の魔族たちが手を組んで、人間を征服しようと戦を起こしたのです。すると女神様がそれを嘆いて、人間たちを守るため、魔族たちに呪いをかけられた。以来、魔族は陽の光のもとへ出られなくなったとか」
「そんな伝説があるなんて、知りませんでした」
レミリアは目を見開いた。
魔族と人間が争い合っていた頃の話は、人間たちにしてみれば千年も前の出来事だ。歴史からはとうに忘れ去られていて、人間たちの間でも、そのような言い伝えは聞いたことがない。
「ですので、伝説によれば。魔族が争いを忘れ、真に平和を願った時、女神様が呪いを解いてくださるとか。まあ、都合の良い噂話に過ぎないかもしれませんが」
レギュラスは茶化したけれど、レミリアは考え込んでしまった。
確かに、人間界で信仰する主神もまた女神様だった。その方はこの世界を作るほどの強い魔力を持っていて、いつも天からこの世界のことを見守っているのだという。
「ちなみに、女神様に関してはこんな逸話もあります」
「?」
レミリアは首をかしげた。
「ご存知ですか。この魔界では、強い魔力を秘めた魔族は紅い瞳を持つといわれています。代表的なのが、魔王様です。我々は、そんな彼らのことを女神様の末裔と呼んでいるのですよ」
「女神様の末裔……」
人間界で信仰する女神様もまた、若い人間の女性の姿で描かれていた。
透き通る銀色の長い髪と、ルビーのような紅い瞳をした少女の姿で――。
「まあ、お妃様も紅い瞳をしていますが、凡人以下の魔力ですし、一概には言えませんが……」
「そ、そうですね……」
レギュラスが釘をさしたので、そこで会話は終わった。
しかしレミリアは、先ほどの女神様の伝説について考え込む。
(もし、伝説が本当であれば、いつか魔族と人間が陽の光のもとで共存できる日が来るのかしらね……)




