レミリアのもう一つのスキル
あれから数日経って、この日は再び晴れの予言が出ていた。
レミリアは今日も元気に城の中庭へ出て、周囲に陽光遮断を発動させながら日光浴をしている。手には、先日祭りの会場で見つけた「モッチ」の入った籠を抱えていた。
祭りの翌日、レミリアは早速料理長のもとへ行き、モッチを作ってもらうよう頼んだ。
料理長は快く応じてくれて、それ以来、レミリアはすっかりモッチの虜になっている。
「これです。このもちもち食感……」
白くてつやつやした丸い生地は、触るともちもちで、一口ほおばるとものすごく柔らかくて弾力がある。
生地の中には、先日教えてもらったダイスという豆を甘く煮た餡が包まれていた。
(美味しすぎる……。最高だわ)
レミリアは中庭のベンチに腰掛けながら、出来立てのモッチを頬張る。
すると、横からレギュラスがたしなめる声が聞こえた。
「まったく。そのように食べてばかりでは、肥えますよ」
先日の晴れの日の一件があってから、レミリアは外に出る際、ルーナかレギュラス、あるいは魔王のいずれかを付き添わせるよう言われていた。今日はレギュラスが面倒を見ることになったのだ。
レギュラスは呆れ顔でこちらを眺めている。
(うっ……)
痛いところを突かれて、レミリアは押し黙る。
確かに、最近は頻繁にお菓子や食べ物をつまみ食いしている。料理長の作るお菓子はどれも絶品で、つい食べすぎてしまうのだ。
先日はルーナにも、「なんだか最近、お嬢様はほっぺたのあたりがふっくらしてきましたね」と言われたほどだった。
「おいしくて……つい」
そう言いながら、レミリアは籠の中のモッチを一つ、レギュラスに差し出した。
「……これは?」
「おひとついかがですか? 出来立てです……」
「まったく。私は甘いものを好む趣味はありませんが……」
そう言いながらも、レギュラスはモッチを一つ受け取って、口に運んでいた。
「それにしても、お妃様の魔法は、ほんとうに摩訶不思議ですね。一体どうなっているんです」
レギュラスは、最初こそ不満げだったが、こうしてレミリアとともに日なたへ出た途端、目の色を変えた。
「今まで、太陽の光は我々魔族にとって恐怖以外の何物でもなかったのですけれど、今は違いますね。ほんとうに驚きです」
「ルーナも魔王様も、最初は同じような反応をしていました」
レミリアは、日課の水やりをしながら返事をした。
レミリアがスキルを発動している間も、一見、周囲には普段との変化は見られない。
陽光遮断のバリアは、日光を物理的に遮断するものではないからだ。空は晴れ渡っている。けれども目には見えないバリアによって、魔族であるレギュラスも問題なく外へ出られるのだった。
もっとも、レミリアがバリアを張ることができるのは、せいぜいこの中庭の範囲内である。これ以上は魔力が足りなくてできない。
レミリアはこうして晴れるたびに、一日中菜園を陽光遮断で守っているのだが。
――最近、庭の木々たちもそこまでやわではないことがわかってきた。
レミリアがバリアをかけなくとも、植物たちは一時的にしおれてしまう程度で、完全に枯れてしまったりはしない。晴れるのは月に一度程度で、二日続けて晴れることはほぼ無い。たまに訪れる一日を凌ぐことができれば、植物たちにも実害はないと言えた。
(最近は、わざわざこんなことをしなくても良いのでは……?)
そう思い始めているものの、やめるタイミングを失っている。
ちなみに、レミリアのスキルは、今もなおレギュラスとルーナ、そして魔王以外には伏せられていた。日が差している間の外での出来事は、他の魔族たちにはうかがい知ることができない。だから今のところ、城内の他の使用人たちにも広まってはいないようだ。
レミリアの能力は、最初こそ騒ぎになったものの、いまいち用途に乏しいスキルであることには変わりない。
「はあ……。私も皆みたいに、もっと役立つスキルを習得できたらよかったのですけれど」
レミリアはため息をつく。
考えるのは、先日の祭り会場で遭遇した、伯爵令嬢のアリシアのことだ。見た目にこそ親近感の湧く相手だったけれど、レミリアとは容姿も能力も似ても似つかない。それを思うと、気持ちが重たくなった。
ルーナとともに、少しずつ魔法を習得する機会は増えている。
それでも、一般的な魔法を使いこなすには未だ程遠かった。
「お妃様は人間界で、この不思議なスキル以外には何も習得できなかったのですか」
「……無いということは無いのですが」
実は、レミリアにはもう一つ、彼女独自のスキルがある。
――しかしそれは、この陽光遮断よりも、さらに用途に乏しいものであった。




