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魔王の花嫁 無能と蔑まれたわたしのスキルは、魔界ではチート技でした?! 温厚な魔王様に溺愛されるのは想定外です……‼︎  作者: あきはる


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町散策


数日後、レミリアたちは近くにある町へ繰り出した。


空はいつものように曇っている。それ自体はいつもと変わらないのだが、この日レミリアたちは馬車に乗って、広い草原の広がる道をひた走っていた。


道の両脇には、見渡す限りの田園のような、広く開けた土地が広がっている。やはり魔界の植物は、城の中庭と同じように、緑というよりは暗い紫色をしていた。畑のような土地には、まるで麦の穂のような細長い植物が一面に植えられて、風にそよいでいる。


(なんだか、まるで人間界の田園風景みたいだわ)


曇っていることと、植物の色が異なること以外は、人間界と同じように思えた。


さらにしばらく進むと、道の先に、石造りの家々が連なった町のようなものが見えてくる。白い壁に、赤い煉瓦の屋根。これらもまた、人間界でよく目にする光景と同じだった。


「なんだか、魔界での暮らしは、人間界と似ているのですね」


感心したようにつぶやくと、向かいに座っていた魔王が顔を上げた。


「そう? 私は人間界の暮らしをよく知らないけれど。なにか見慣れたものでもあった?」


「はい。というより、お城での生活も、このあたりの景色も、人間のそれととてもよく似ているような気がします。もちろん、まったく一緒ということではないですが」


もちろん、よくよく見比べれば、町の景色も建物もまったく向こうと同じというわけではない。けれど、根本的な作りや役割は同じものだった。


「異界というよりは、どこか遠い外国に来たような気分です」


「そうなんだ。親しみを持ってもらえるならよかったよ。確かにこのあたりは、まだ人間界との国境に近い地域だから、その影響があるのかもね。でも、魔界でも内地の方に行くと雰囲気が変わるから、一概には言えないけれど」


「そうなんですね」


レミリアは感心して頷く。そんなレミリアに、魔王も笑みを返した。


馬車は、町の市街地へと馬を走らせていく。

大きな石造りの門をくぐると、レンガを敷いた小道が続いていて、道の両脇には、洋瓦を敷き詰めたかわいらしい家やお店が並んでいた。


「さあ、着いたよ」


僅かな振動とともに、馬車が停車する。

先に魔王が降りて、戸口の下からレミリアの方へ手を差し出した。


レミリアはその手を取って、町へと繰り出していった。


***


「随分とにぎやかですね」


二人が降り立ったのは、町の中心に位置する、中央に大きな噴水のある広場だった。


広場を横切るように据えられた大通りの両脇には、カラフルな垂れ幕のかかった露店が連なっている。テーブルの上には、どれもレミリアにとって見たこともない物品や、食べ物らしきものが並んでいた。


魔王とともに馬車から降り立ったレミリアは、あたりをキョロキョロと見渡しながら、目を輝かせる。


「おいで。一緒に露店の方を見てみよう」


魔王はレミリアの手を取って歩き出した。


広場から先へと続く通りのあちこちには、多くの魔族が行き交っている。皆それぞれ肌の色が異なったり、牙を持ったり角を生やしたりしていた。けれど外見の違いを除けば、彼らはまるで人間のような佇まいで、この町に暮らしている。


レミリアは歩きながら町の様子を眺めていたが、ふと、露店の軒先に並んでいる品物の一つに目が留まった。


「魔王様、これはなんですか?」


「それは南部の果物だよ」


「じゃあ、こっちのは?」


「それは、木の実を練り込んだ焼き菓子」


並んでいるものは、レミリアにとって初めて見るものばかり。

目移りしながら、あれこれと聞きまわっていく。


「気になるものがあったら、試してみる?」


「よろしいのですか!」


「もちろん」


レミリアは目を輝かせた。

魔王も微笑んで、レミリアが選んだ品々を一つずつ買い与えてくれる。


「こ、これは……!」


レミリアは、早速手にした見知らぬ食べ物を頬張って、感激していた。


手にしているのは、串に刺した黄色の果実に、飴細工のような砂糖菓子をかけたもの。それから、こんがりときつね色に焼かれた、手のひらサイズの焼き菓子だった。


「どちらもとっても美味しいです! こっちの果物の方は甘酸っぱくて、上にかかった甘い飴との相性が抜群です。焼き菓子の方も、木の実が生地に練り込まれていて、香ばしくてとても美味しい……」


「気に入ってもらえてよかったよ」


レミリアが歓声を上げながら感想を並べ立てると、それを聞いていた魔王は顔をほころばせた。


そんな調子で、レミリアと魔王は通りを歩きながら、目についた食べ物や品々を端から試して回っていった。


「ところで、魔王様はなにも召し上がりにならないのですか」


少し歩いたところで、レミリアは気がついた。自分は物珍しさから、まるでリスみたいに色んなものを頬張っているけれど、魔王はそれを微笑ましそうに眺めているだけである。自分ばかりはしゃいでしまったと恐縮しながら、レミリアは声をかけた。


すると、魔王は。


「私はいいよ、食べたことがあるし。でも、もし食べきらないのなら手伝おうか」


そう言って、レミリアが両手に抱えているたくさんの食べ物たちを指さす。

言われて、ハッとした。


「こ、これは……」


(確かに、仮にも魔王様の花嫁としてやってきた私が、こんな大量の食べ物を抱えながら歩いているなんて、はしたないわ……)


そうは思っても、こんなにも物珍しくて美味しい食べ物たちを手放すのは惜しい。葛藤していると、魔王はこう付け加えた。


「気にしないで。私は、レミリアが美味しそうに食べているのを眺めている方が好きだから」


屈託のない笑顔で言われて、レミリアは思わず赤面してしまった。


***


そんな微笑ましいやり取りを繰り広げている時、いきなり背後で、聞き覚えのない声が響き渡った。


「魔王様。こんなところにいらしたのですね」


振り向けば、そこには見知らぬ美女が立っていた。栗色の髪に、黄褐色(おうかっしょく)の瞳。魔族かと思ったけれど、彼女はどう見ても人間に見える。


「アリシア。来ていたのか」


魔王はその女性と面識があるようだった。声をかけると、彼女は魔王の方へ駆け寄ってくる。


「せっかく町へおいでになるのに、どこにも姿が見当たらなくて探しました。こんなところにいらしたのですか」


「レミリアに町を案内していたんだ」


言われて、アリシアと呼ばれた女性は、魔王の隣に立っていたレミリアに気がついた。


「ああ。彼女が人間界から来たという、花嫁の娘ですね」


「ええと、私はレミリアと言います。はじめまして」


慌ててレミリアが挨拶をすると、アリシアはまるで値踏みするように、レミリアを上から下まで眺めた。そして、高圧的な態度で突っぱねる。


「ふん。下等な人間に挨拶をする義理などありませんわ」


「アリシア。礼儀をわきまえろ」


すかさず、魔王が鋭い視線を向けた。

言われて、不満げながらもアリシアがレミリアに小さくお辞儀をする。


「ロンバルド伯爵家の娘、アリシアですわ。どうぞよろしく、お妃様」


「お会いできて嬉しいです」


そう言ったものの、なおもアリシアは鼻を鳴らしてすましている。

あまり友好的とは言えない初対面ではあるが、レミリアはそれよりも、彼女の容姿に興味を引かれてまじまじと見つめてしまった。


アリシアは、魔王のようにほとんど人間に近しい見た目をしていた。

縦に裂けた黄褐色の瞳孔は人間界では見かけないもので、さながら側近のレギュラスの瞳にも似ている。けれど、それを除けばアリシアに魔族らしい特徴はなかった。


「アリシアは私の再従姉妹(はとこ)なんだ」


横から魔王が補足してくれた。言われて気がつく。

確かにアリシアの人間らしい見た目は、どことなく魔王にも似ているところがある。


レミリアが一人で感心していると、不意に、周囲に付き添っていた側近の一人が声を上げた。


「魔王様。祭りの主催者であるロンバルド伯爵が、ご挨拶したいそうです」


「わかった、今行く。アリシア、すまないが、少し彼女を案内してあげてくれ」


そう言い残すと、魔王は側近を伴って、広場の方へ去っていってしまった。


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