第98話 試合準備
――翌日、俺たちは午前中は商品を仕入れるべく、いつも通りスービエ村に向かっていた。
凶暴な鬼が現れているので行っても買えない、もしくはそもそも行けない可能性があったので城の人に確認したところ、「護衛をつけるので食料も運んでくれないか」という条件付きで許可された。
護衛として馬車の荷台に同行したのは調査団に所属している三十代くらいで兄貴肌の男性「ハリー」さん。
話しやすいタイプだったので移動中にいろいろと質問して、「スービエ村を拠点として学者達が泊まりこみで調査を進めている事」、また、「鬼を実際に一体捕まえている事」を教えてもらった。
猫撫で声を出したら教えてもらえたし、国の情報を流出させるのなんてチョロいものだ。
村に到着したが、販売しているポーションの値段は普段と変わっておらず、「こんな状況でも取引してくれるだけありがたい」とお礼を言われた。鬼のせいで国の調査団が訪れており、来客の世話もしなきゃならないので今はお金が必要な時なのだろう。
俺だって本当は鬼のリーダーを倒すべく調査したいのだが、今は調査団と鉢合わせそうだからできないのが非常に申し訳ない。
そして、荷物を持って帰ってきて店の中に運び終わった。
「ふぅー、午前の仕事終わったー。今は何時だ?……もう正午じゃん。約束の時間まであと一時間しか無い!」
仕事を終えて時計を見ると、ジライと交わした約束の時間は刻一刻と迫っていた。まだ昼ごはんを食べてないので急いで食べる。
「飯食ったら練習だー!」
エオルからいただいた弁当をガツガツと素早くたいらげて、弁当箱を洗うのは後回しにして魔力パズルの練習を始める。
「ぐぐぐ……。コツを思い出せ俺!」
二日目という事もあり昨日よりも更にコンディションが優れない上に、仕事をしなきゃならなかったので練習の時間も短かった。その為、直前で詰め込んで練習せざるを得ない。
「あ、ジライさんもう来られましたよ」
「え?まだ一十五分前だぞ!?」
店の中で作業をしていたエオルが俺を呼びに部屋までやってきた。もう来たって事は、練習する時間ももう終わりってことか?
全然自信が無いのに試合が始まってしまうぞ。
「ジライ、ずいぶん早いね」
「なんで私の名前知ってるのよ!あ、あの二人が言ったのね!……じゃなくて、この後に予定が入っちゃったし、早くやるわよ!」
「そんな、自分の都合で勝手に予定変えないで欲しいんたけど……」
「なに!?あーもう、さっさとやろ!」
遅刻したのなら練習時間が増えてラッキーだったのだが、早く来てしまったせいで練習時間が減ってしまった。 自分の都合で勝手に時間を速めないで欲しい。
この子、社会に出たら上手くやっていけるのか心配だ。
「店にある六個の魔力パズルを全部解くのに何分かかるかのタイムを競うんだよな?」
「そうよ。でも、私思ったの。あんたらの店の物だし、何かズルされてるかもって」
「いや、別にしてないけど?」
店の物なら何か細工をしている可能性があると、俺達がズルしてるんじゃないなと疑われた。
「だから、私は友達から借りてきた、この魔力パズルで勝負するのがいいと思う!」
ジライは懐から魔力パズルを四個取り出してそう言った。もしかしたらそっちこそ何か仕組まれているかもしれないが、人を疑うのは失礼なので言わないでおく。
エオルが時間の測れる時計を持って測定できる構えになり、カウンターの前に魔力パズルを四個並べてセッティングを完了させた。
――これで、あとは勝負するだけだ。
「了解、それでいいよ。ちなみに、この勝負って負けたらどうなるんだ?」
思えば、売られた勝負を買っただけなので何を賭けて勝負するのか知らなかった。
「あなたが負けたらマーレス様と別れて。もし勝ったらマーレス様と付き合ってもいいわよ」
「はぁ……」
勝っても何か貰えるわけじゃないし、勝っても負けても別にどっちでもいいなこれ。
いや待てよ、シェーナさんとマーレスって一緒に行動する事が多いから、シェーナさんに会いに来たのにマーレスに会いに来たと勘違いされて、また面倒な事を言われるんじゃないか?しかも、この子は口が軽そうだし、友人にこの縛りを広められたら最悪だ。
「なら、負ける訳にはいかないじゃん!」
勝っても何も貰えないが、シェーナさんと交流を続ける為には絶対に負けられない。
「それじゃ、先行後行を決めるわよ!じゃん、けん、ポン!」
「あっ、勝ったー!それじゃ、後行で」
タイムアタックという事は、相手より一秒でも早く解き切れば勝ちなのだから、相手の記録を先に知っておく方が有利になる。
それに、まだ俺は経験が浅いからジライの動きを見て更にコツを掴めるかもしれないし、しっかり見て技術を盗もう。




