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第95話 厄介ファン現る

 そして、体調は万全とは言えないが店の営業がスタートした。もしかすると姿を変える能力を持っているかもしれないので全てのお客様の動作を、失礼にあたらないようにチラッと確認していく。


「ありがとうございましたー!……盗まれてないよな?」


 店内で二人きりの状態になったので、店内で別の作業をしているエオルとも二重で確認を行う。


「僕が見た限りでは大丈夫です」

「よし、観察を続けよう。あっ、お客様が来られた」


 話している途中でお客様が来られたので椅子から立ち上がり、咄嗟に声を変えて、ついでによそ行きの作った声にして挨拶をする。


「いらっしゃいませー!」


 ドアを開けて店内に入ってきたのは、黒髪の……少女だった。黒髪の人は普通に居るから判断材料にはならないのだが、一瞬警戒した。


「――あなたね。マーレス様にお姫様抱っこされたって人は!」

「えっ……なぜそれを!?」


 来店するなり、その少女は四日前に俺がマーレスにお姫様抱っこされてティエスカ上空を空中散歩した件について追及してきた。

 なんで赤の他人がこの事を知ってるんだ?


「私はず〜っと探してたのよ。マーレス様に抱えられて空中を飛んでいた女の事を!昨日、路地裏でマーレス様とその事について話していたのを友達から聞いて、やっとあなただと特定したわ!」


 飛んでるのも見られてたし、昨日の会話も聞かれてたのか。

 は、恥ずかしい。あの空中散歩(デート)って、もしかしたら空を見上げたら普通に見えたのか?


「確かにされたけど、アレはマーレスが一方的にやってきただけで別に付き合ってるわけじゃ……」

「そこじゃなくて、マーレス様という存在に彼女が居る事自体が問題なのよ!マーレス様はみんなのアイドルなのに、そんな人が裏で付き合ってる人がいるなんて知ったらファンのみんながショックなの!」


 必死に弁明しようとするがその少女は話を聞いてくれず自分のペースで一方的に話を進める。

 てか「アイドル」って、アイツそんな扱いされてんのか。

 でも、別にマーレスは事務所に入ってる訳でもないしそんな制限ないんだから、これって自分の願望を押し付けてるだけじゃないか?


「別に、恋愛するかどうかは本人の自由なんじゃ……」

「うるさい!とにかく、勝手にマーレス様と付き合ったあなたを私は許せないの、勝負よ!」

「勝負!?一体なにで?」

「それは……決めてない。どうしよう」

「なんだコイツ」


 そうして少女は勝負の内容を悩み始めた。戦闘なら楽に勝てるのだが、見たところ冒険者って訳じゃないので違うだろう。

 もし料理バトルなら勝ち目はゼロだ。なにせ、この世界に来てから料理なんて一回もやっていない。

 それなら学力テストとかだろうか?それなら自信があるからそれにして欲しいな。


「う〜〜〜〜ん……。あっ、これはなに?パズルかしら」


 店内を見渡していた少女は、同じコーナーにまとめて置かれたいくつかの球体に目が止まったようだ。

 表面に不思議な模様が入っているし値段も高めなのでなにやら凄そうな予感がする。アレは確か……。


「魔力パズルです。魔力を調整して解いていく物になります」


 俺が思い出す前に、商品をバッチリ把握しているエオルが詳細を伝えた。


「ふ〜ん、面白そうじゃない。それなら、これで勝負よ!ここにある五つの魔力パズルをより早く解き切った方が勝ちのタイムアタックよ!」


 勝負のテーマに決められたのは「()()()()()」。

 俺は実際にやった事はないが、確か魔力操作の精細さを競うオモチャだった気がする。


「それじゃ、早速勝負よ!」

「えっ、今勤務時間中なんだけど!?」


 仕事中なのにパズルで遊ぶ訳にはいかないし、そもそも変なクレーマーの対応になんでそんなに時間を取られなきゃいけないんだ。新手のカスタマーハラスメントか?

 

 その時、新しく二人組のお客様が来てしまった。少女はドアのすぐ近くにいたので、その二人に気付いて勢いが少し弱まった。


「あっ、あんたたち……。仕方ないわね。じゃあいつ空いてるのよ」

「明日の午後一時からは空いてるけど」

「オッケー。それじゃ、その時間にこの場所で勝負しましょ!」


 そう言うと、少女は何も買う事なく二人組のお客様の間を強引に体で押し退けるようにして店を後にした。

 今の子、買い物のついでとかじゃなくて文句を言うためだけに店にやってきたな。あまりに悪質クレーマー過ぎる。


「ムクロンさん。非常に言いにくいんですけど……」


 エオルが何か申し訳なさそうな顔をして俺に何かを伝えようとしている。


「魔力パズルって集中力が必要なので今だとキツいかもしれません」


 集中力か……。て事は、生理中で痛みやイライラに耐えている俺には不向きじゃないか。


「しかも、魔力をかなり抑えないといけないので、魔力が多めのムクロンさんはより大変です……」


 魔力を抑えないとそもそも進められないのなら、力まずに冷静なままやらなきゃいけないのか。

 思わず力んでしまいそうなのを抑える必要がある分、ハンデを背負っている事になる。


 ヤバい。とても勝てる気がしない。

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