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青年への対策案

 という訳で、今日は会計がメインなので、カウンターで椅子に座りながら仕事をする事になった。


「ふぅ、座るとちょっとは楽になった気がする。薬が効いてきたおかげかも」

「初めてですから、今日は無理しないでくださいね」

「おう。いつでも店の奥に行けば休めるからな。……あっ」


血が出てきた感覚がする……。ちょっとトイレに行ってナプキンを変えよう。

――あの小さなゴミ箱ってこの為に使うんだなぁと思いながらトイレから出ると、エオルが何かの紙を手に持って眺めていた。


「何見てるんだ?」

「国から届いた指名手配書です。昨日は魔道具店が襲われたので、いろんなお店に配ってるらしいですよ」

「へー、似てるかどうか確かめよう」


監視カメラなど存在しないから、実際に強盗された魔道具店の店主や、マーレスにシェーナさんといった目撃者たちから聞き込みをして似顔絵を作ったのだろう。俺は顔を覚えているから見るのが楽しみだ。


「おー、なかなか似てるな。でも、この絵柄どこかで見たことあるような……?」


線や顔の書き方の特徴に見覚えがあるんだが、いつ見たんだっけか。絵はこの世界であんまり見る事はないのだけれど……。あっ、これ、グラス先生の絵じゃないか?あの人、国から指名手配犯の似顔絵も任されているのか。そんなスゴい人と直接会って会話できるなんて、販売会って最高じゃん!


「コイツは犯人に違いないから、あとはもし来た時の対処法を考えておかなきゃな」

「エイダちゃんと同じで見た目では能力がわかりませんからね。どうやって捕まえる気なんですか?」


エオルはマオウグンに対して強い恐怖心を抱いているので来たら早く捕まえて欲しいと願っているようだ。


「捕まえるのはもちろんだが、可能ならマオウグンについて聞きたいんだよな。情報が何も無いから、聞ける時に聞いておきたいんだ。鬼とは会話できないしな」


黒子のようなリーダー格の鬼を除いて、下っ端の鬼達とは意思疎通ができない。今回の青年は見た目も普通だし、泥棒する際も誰かを傷つけたりはしていないので会話は成立するはずだ。


「それに、もしかしたらマオウグンじゃなくてただの普通の人間という可能性もあるんだ。無闇に攻撃する訳にはいかない」

「そうでしたね……。もし普通の人にムクロンさんの技を撃ったら大変な事になっちゃいます」


泥棒だからと言ってその場で殺してはいけないので、ますはマオウグンであるかどうかを上手く話術を駆使して聞き出すのがいいだろう。素直に言ってくれるかはわからないが、カマをかけたりすればチャンスはあるはずだ。


「俺は自分の事を異世界出身だと明かして、なんならマオウグンだと偽って接触するのが良いと思う」

「かなり踏み込んだ作戦ですね。ですが、知らない人には本当に通じないので良い案だと思います」


「マオウグン」という単語は俺以外にはトピエさんや国の数名しか知らない単語だ。一般人には聞き慣れない言葉なので、これを言って青年が反応したならマオウグンの可能性がかなり高くなる。


「それともう一つ。アイツは取り扱い方次第では危険な武器になり得る魔道具を盗んでいったから何かを企んでいる。一体どこに持っていっているのか知る為にも一度逃して後を追うのはどうだろうか」

「なるほど……。それなら「犯人が何をしているのか」や、「仲間がいるのか」といった情報も知る事ができますね。でも、一度逃した犯人を追うのは大変そうです」

「そうなんだよ。なんかアイツ、狭い路地裏に逃げ込んだけど、そこでワープを使ってないのに姿を消したんだよ」


犯人はこの世界のワープとは違う仕組み……それこそ特殊能力でワープしているのかもしれない。いや、それは無いか。だってワープできるならわざわざ泥棒する必要は無さそうだし。


「もし急に瞬間移動できる能力なら、せっかく犯人と遭遇しても直ぐに逃げられちゃうじゃないですか?」

「あぁ。しかし、前は人前で姿を消さずにわざわざ路地裏まで移動した。だから、俺はヤツが路地裏に逃げるのを見たら自分が先にワープして先回りしようと思う。そして、ヤツにマオウグンに関する話を出して反応を見る」

「とても難しそうな作戦ですね……成功するんでしょうか?」


エオルは「青年に逃げられてしまうのではないか」と不安になっている。俺も泥棒を逃す気は毛頭無いのだが、あいにく相手の能力が全くわかっていないので不測の事態が起きたら逃げられてしまうかもしれない。ゲームの時と違って相手の事を一つも知らないし、こんな作戦はアクションゲームだとまずやる事のない行為なので全てが初見だ。


「成功させるしかないさ。失敗したら大変だが、成功すると企みも、マオウグンに関する情報も聞き出す事ができる。それを知っておけばマオウグン対策にも役立てるから、より多くの人を救えるはずだからな」

「……了解です。ムクロンさん、頑張ってくださいね。あの日ですけど」


エオルは俺の提案した作戦を受け入れてくれた。そう、全ては俺にかかっている。


「もし青年がやってきたら、まずは泥棒に気付かないフリをする。そして、青年が店を出たらこっそりと後をつけて、路地裏に入ったらワープして回り込んで、「マオウグン」という単語を言って反応を見る。この流れで行こう」

「は、はい。それなら、青年がやってきても動揺せずに知らないフリをしなきゃいけませんね……できるかな?」

「エオルならできるさ。俺はそう信じてる」


こうして、もしマオウグン疑惑の青年が来店した場合の対処法は考える事ができた。今日はこれから店が開くが、果たして彼はやってくるのだろうか……?

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