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第92話 犯人の手がかりは無し

 その後も質疑応答は続いたのだが、あるタイミングでトピエさんがハッとした顔をしていたあと、エルヴェンヌ女王様に耳打ちをした。

 どうやら、小型のスピーカーのような魔道具を耳につけているらしく、そこに連絡が入ったのだろう。


「申し訳ありません皆様、私はそろそろ城に戻らなければなりません。それでは、ごきげんよう」


 どうやら終了の時間がやってきたらしい。まだ、会議や調査等やる事が多く忙しいだろうから仕方ないのだが、速やかにトピエさんと共にワープして城へと帰られてしまった。


 報告会がお開きになったので、民衆達はゾロゾロと自分の仕事や家へと帰り始めた。


「ムクロンさん?その、大丈夫ですか?」


 エオルが俺を気遣って声をかけてくれた。思い返すと、俺こと黒曜の騎士が民衆から不審に思われている時も何か言おうとしてやめている素振りを見せていた。

 エオルは、「俺がショックを受けたのではないか」と心配してくれてようだ。


「疑われた事?いや、全然気にしてないよ。むしろ疑われない方がおかしいと思う。エオルにも疑われるくらいだし、事情を知らない人達だと尚更怪しむだろう」

「僕がもしムクロンさんとたまたま出会ってなかったら、黒曜の騎士はなぜ素性を明かさないんだろう?と勘繰ってしまうような気がします」


 思えば、エオルと出会ったのも、正体をなりゆきで明かしたのも全て偶然だった。もし、俺が助けたのが下心丸出しのおじさんだったら最悪だったし、エオルと会えて超絶ラッキーだった。


「だなぁ……。正体を明かさなきゃならない日も近いのかもな。私としては明かしたくはないけど、民衆が不安に思ってるなら言ったほうが安心するし」

「でも、そうすると男として生きるのを諦めるって事になりますよ」

「…………だな」


 内心、完全に女性の精神として生きる決心はついていない。まだ女心もわからないし、女性の感性も身に付けていない。

 それに、ゲームを楽しんでいた時のように、素の自分をさらけ出してリラックスする事もできなくなる。

 ――正直、一生明かさずに男として生きたい。


「俺がもし国お抱えの騎士になったら、エオルともなかなか会えなくなりそうだしな……」


 国のお偉いさん方と真面目でお堅い話だけをしながら指示通りにモンスターやマオウグンと戦うだけの毎日になるだろうし、エオルとは客として会いにいくしかなくなる。


「ムクロンさん、今話している人は誰かしら?」


 いきなり、少し離れた場所からミイヤさんに話しかけられた。

 焦ったが、今の会話は聞こえてないらしい。セーフ。


「あっ、ミイヤさん!えっと、この子はエオル、私の働いている魔道具店の店長です!」

「はじめまして、エオルです!」

「あ、女の子だったのね。勘違いしてごめんなさい。私はミイヤよ」


 どうやら、俺が男と会話していると勘違いしてしまっていたようだ。マーレスという彼氏が居ながらも別の男の子と話していると誤解したらしい。――って、誰がマーレスの彼女だよ。


「あれ?そういえばマーレスとシェーナさんは居ないんですか?」

「二人はトピエ団長に呼ばれて調査団に参加したわ」

「へー、あ、そういやトピエさんが帰り際に言ってましたね。「何かあったら呼ぶ」って」


 直接誘われたのはマーレスだけなのに、シェーナさんも追いていってしまったのか。

 誰かの為に役立ちたいと思って行動する献身的なところ、推せる。


「そういえば、犯人探しがどうなったか知ってますか?」


 トピエ団長に呼ばれたって事を知っているという事は、マーレス、シェーナさん、ミイヤさんが一緒にいるタイミングで呼ばれたんだろう。

 トピエ団長も事件現場を調べ終わったあとだと思うし、手がかりの一つや二つあれば良いのだが。


「いいえ、残念ながら進展はないわ。ただ、マーレスとシェーナが国に犯人の顔について話したから似顔絵は作るって」

「似顔絵かー」


 この世界にはカメラが無いから指名手配には似顔絵を使うしかない。

 俺は犯人を直接見たから必要無いが、エオルは顔を知らないから完成したら一つ貰いたいところだ。


「犯人は魔道具店を狙ってたのよね?うふふっ、ムクロンさんの店に犯人が来なければいいわね」


 ミイヤさんは俺達二人の事を心配してくれた。

 でも、途中で少し笑ったのはなぜだろう?

 「他にも店があるから来ないだろうけど」と思ったからだろうか?


「じゃあ、私はこの辺で失礼するわね。ただ、見かけて泥棒について報告しにきただけだから。そ・れ・に、今はマーレスに守ってもらえないんだし、気を付けるのよー!」

「はーい!気を付けまーす!」


 そして、この場を去っていくミイヤさんに対して、俺たち二人は手を振ってお別れした。

 ミイヤさんが見えなくなったタイミングでエオルが俺に対して質問する。


「なんでマーレスさんに惚れられている事を知っていたんでしょう?」


 ミイヤさんは冒険者では無いので、近所に住んでいるのにプレイヤーに来た事がなくエオルとも面識が無かったらしい。


「ミイヤさんはマーレスとシェーナさんの幼馴染だから」

「へー、そうなんですね!また新しい友人ができて良かったですね!」

「オシャレで女子力高そうだから何話せばいいかわかんないけどね」


 そうしてしばらく会話したのち、明日も仕事だし今日は早く寝ようという話になり、解散して二人ともそれぞれの家に帰った。

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