第91話 黒曜の騎士アンチスレpart1
広場にはドラゴンキングが討伐された時の報告会よりも多くの人が訪れていた。これまでは異変が収束した報告だったのが、今回は異変が発生した為に開かれた報告会だ。 なおも異変が続いており、みんな不安なので聴きにきたのだろう。
「あっ、来られた!」
壇上にトピエさんとペルフェッタ女王様が姿を現した。
「みなさん、ごきげんよう。ペルフェッタです。先ほど放送にもございました。鬼と呼ばれるモンスターに関する事件に関して、まだ調査は始まったばかりですができる限りの事はお答えしますので質問があればどうぞお伝えください」
事件が発生したのが正午で、現在の時刻は午後三時。発見がいつだったのかはわからないが、それほど時間が空いていない。
国のお偉いさん方も調査に大忙しだったようで、隠そうとはしているものの、ペルフェッタ女王様のお顔からは疲れの表情が漏れ出ていた。
「はい、質問です。えぇと、先ほど放送で言ってましたが、黒い煙になって消えるって、本当に生き物なんですか?」
メガネをかけた賢そうな青年が挙手してそう質問した。スービエ村の人もそこを一番疑問に思っていたので、この場にいる大多数が同じ疑問を抱えているはずだ。
「スービエ村の方達に加えて、今朝、森の中で偶然鬼と対峙されたマーレス様もそれを目撃したので事実ではありますが、詳しい事はわかっていません」
信憑性を増す為なのか、ペルフェッタ女王様がマーレスの名前を出した。
「マーレス様だって」
「マーレスも会ったのか……」
知名度のあるマーレスの名前を出したおかげでみんな信じてくれたようだ。イケメンだし強いし明るいしで老若男女から人気あるらしい。
その立場って、本当は異世界転移者である俺であるべきじゃないか?
「はい、また黒曜の騎士様が異変を解決したんですよねー。あの人って何者なんですか?」
今度は俺に関する話題だ。マオウグンの引き起こす異変の場所に毎度毎度、都合良く姿を現していれば疑問にも思うだろう。
質問したのってよく店を利用してくれる少女冒険者二人組の片割れだった。
「それに関しては、昨日会話した私が話そう」
一度も俺とは会話をした事がなく返答できないペルフェッタ女王様の代わりに、少しの間だけだが会話した事のあるトピエさんが答えるらしい。
「えぇ!?どんな方なんですかー?」
「ま、まぁアレだな。普通の若い男性って感じだったな」
なんでトピエさんは少し照れているんだろう。恋愛相談で自分の恥ずかしい話を言ってしまったのを思い出してるのだろうか?
「ちなみにっ、どんな話をしたんですか!?」
「たっ、ただのドラゴンキングに関する報告だけだ!それが終わったらワープして消えた!追う事もできたが、国に対して不信感を持ってもらいたくないのでしなかったが」
なるほど、ワープサーチを習得しているトピエさんがあの時追ってこなかったのはその為だったのか。
――なんかトピエさんテンション高くないか?
「トピエ……?」
ペルフェッタ女王様はいつもの冷静さを失っているトピエさんの事を心配した目で見ていた。
「へー、ありがとうございましたー!」
「質問、ありがとうございました」
女王様がお礼を言ったが、その間にトピエさんは深呼吸してクールダウンしていた。
「はい、黒曜の騎士って前の異変と同時くらいに現れましたよね?そして、異変の場には必ずと言って良いほど現れる……何か繋がりがあるんじゃないでしょうか?」
続いて、中年の男性がそう質問をした。
――この言い方だと、エオルと同じで俺とマオウグンの繋がりを疑っているようだ。
「その点も私が答えよう」
トピエさんがまた答えるようだが、先ほどのプライベートモードとは違って真面目な仕事モードになっている。
「彼は正体を頑なに明かしはしないものの、異変の元凶を排除したいと考えている。だから、少なくとも今は味方だと国は判断した」
トピエさんは俺を擁護する発言をしてくれたが……民衆達はなかなか納得してくれていないようだ。
その人がきっかけとなり、周りの人も口々に本心を言っていく。
「正体を明かさないって、やっぱり怪しいと思います」
「それは俺も思ってた」
「だって、隠す必要なくね?」
ウソだろ、こんなに信用されていなかったのか。
まぁ、彼らと同じ立場なら俺もそう思うだろうけど。
「体が黒い煙でできてるって事は、黒曜の騎士も煙でできてたりして」
「……ホントだ。どっちも黒じゃん!」
ある冒険者の言った推察に、近くにいた村人が同意する。
確かに、偶然にもどちらも同時期に現れた黒が特徴の生物だ。
――これは、関係性が疑われるのも当然だ。
「みなさま、静粛にお願いします」
ペルフェッタ女王様が一声発されただけで、ざわざわしていた群衆がすぐに落ち着いた。なんてカリスマ性なんだ。
「彼は、何度もこのティエスカを救ってくださったお方です。憶測だけで否定するのはおやめください」
おお、そう仰るって事は、ペルフェッタ女王様というか国は俺に対しては感謝してくれているのか。
良かった、否定の意見が多く耳に入ってきたけど、感謝して認めてくれている人もちゃんと居るんだな。
「は、はい。ありがとうございました」
怒られたので否定する発言は控えるとは思うが、心の中で不審に思う気持ちは変わらないのだろう。
俺だって、推理作品を見る時は、一度犯人だと疑ったらその人の言動全てが怪しく見えるタイプだ。
しかし、このまま民衆からの不信感が増していったら、いずれ正体を明かさなきゃならないな。「完全に女性として生きていかなきゃならない」と思うと憂鬱だ。




