まんざらでもない
「ムクロンちゃんごめんなさい!ほらマーレス、謝って!」
「す、すみませんでした!」
シェーナさんに背中を肘で押し込まれて、もはや直角に頭を下げたマーレスがもう一度謝罪した。よし、今がチャンスだ。コイツには一度、俺の意見をハッキリと伝えておこう。
「もう!ギリギリ他の人には聞こえなかったから良かったけど、私の気持ちも考えてよね!」
「そうよ、人の気持ちがわかる人間になりなさい」
俺の正論に便乗して、シェーナさんが弟に切実なお願いをした。
「ど、努力します」
二人に言い詰められて大人しくなったマーレスはそう言ったが、ホントにやるだろうか?あわよくばここで、「黒曜の騎士の事はほっといてね」と言いたいところだが、流石に不自然だからやめておこう。
「ムクロンちゃんが嫌なら、マーレスに会うの禁止するように命じるけど……する?」
「えっ!?やめてよ姉さん!俺が初めてす」
「マーレス!泣き落としはダメよ。ムクロンちゃんの意見がブレちゃうかも」
シェーナさんに一度大声で制止された後、静かにしてくれと伝えられたのでマーレスは口をギュッと力強く閉じ、ふいに出てきそうになる言葉を抑えていた。
「どうなの?ムクロンちゃん?」
これは、もしやマーレスと会わなくてよくなる絶好の機会なんじゃないか!?よし、言うぞー!「もう関わらないで」って言うぞー!
「別に、嫌じゃないデスケド……」
な、何言ってるんだ俺は!?なんでまんざらでも無さげなんだよ!なんで、言う時に勝手にセリフが変わってしまったんだ!?心の奥底ではマーレスを求めてたっていうのか!?
お、落ち着け。これはおそらく、マーレスと知り合いならシェーナさんと会える確率が上がるというのを脳が一瞬で計算して導き出したからだ!決して、自分のことが好きな男性がいて嬉しかったわけじゃないはずだ!
「そうなのね。なら良かったわ。」
「よし!これで禁止はなくなっ」
俺の解答を聞いた途端にマーレスが嬉しそうに話し始めた。しかしそこに、シェーナさんがアドバイスを伝える。
「ただし、ちゃんと段階を踏みなさい。出会ってすぐにお姫様抱っこはおかしいのよ?」
「はい!気を付けます!」
ふぅー。恥ずかしさのあまり汗をかいたが、これでマーレスがマトモな人間になってくれた……はずだ!
「そういえば、もうお昼ね。ムクロンちゃんも一緒にお昼どうかしら?」
シェーナさんとまたランチ食べれるのか!……くっ、失敗した。さっきコミックカフェでお昼を食べてしまっていた!残念だがら今回は行けない……。悔しい、めっちゃ行きたかった!
「すみません!私もうお昼食べちゃってて、ホントに申し訳ありません!」
「あら、それは残念ね。また今度、どこかに行きましょう」
「その、俺とも今度どこかに!」
「それはどうしようかな?」
マーレスとシェーナさんはお腹が空いているのか、お昼ごはんに誘う為に、まだ元の場所で立ち尽くしているミイヤさんに話しける。
「ミイヤもお腹空いたでしょ?さっき話してた店に行くわよ」
「あぁ……先に行ってて頂戴。私はムクロンちゃんと少し話をしてから追いつくから」
我に帰ったミイヤさんはシェーナさんの目をじっと見て懇願している。
「えぇ、わかったわ。それじゃあムクロンちゃん、プレイヤーも泥棒に気を付けてねー!」
「もし何かあったらオレに任せてください!」
何やらかすかわからないからマーレスには任せたくない。
「それじゃ、お二人ともさようならー!」
お互いに手を振り合いつつ、二人は路地裏を後にしてお店に向かった。あとここに残ったのは、俺とミイヤさんだけとなった。
「は、話ってなんですか?」
まだミイヤさんとそんなに親しくないから、何の話をされるかわからないので緊張する。「服はどこで買っているの?」とか女性っぽい話題じゃありませんように!
「マーレスとは、どんな関係なの?」
「え?」
質問内容は、なぜかマーレスに関するものだった。しかも、世間話みたいな軽いトーンじゃなく、重要な話をする時のようなガチトーンで聞かれた。
「お姫様抱っこなんて、幼馴染の私もされた事ないからさ」
あぁ、そうか。ミイヤさんはマーレスが俺ことムクロンの事が好きなのを知らなかったのか。あと、シェーナさんの幼馴染って事は、双子の弟であるマーレスの幼馴染でもあるからな。「友人に好きな人ができた」と聞いて真相を知りたくなったのだろう。
作者の予想以上にラブコメ要素が強くなりました。
戦闘はもう数話ほどお待ちください。




