第82話 まんざらでもない
「ムクロンちゃんごめんなさい!ほらマーレス、謝って!」
「す、すみませんでした!」
シェーナさんに背中を肘で押し込まれて、直角に頭を下げたマーレスがもう一度謝罪した。
「もう!ギリギリ他の人には聞こえなかったから良かったけど、私の気持ちも考えてよね!」
「そうよ。人の気持ちがわかる人間になりなさい。ムクロンちゃんにあまり迷惑かけちゃダメよ」
俺の正論に便乗して、シェーナさんが弟に切実なお願いをした。
「ど、努力します」
女子二人から怒られた事だし、これでマーレスもキザな態度を改めてくれるだろう。多分。いや無理そう。
「ムクロンちゃんが嫌なら、マーレスに会うの禁止するように命じるけど……する?」
「えっ!?やめてよ姉さん!俺が初めて好きに」
「マーレス!泣き落としはダメよ。ムクロンちゃんの意見がブレちゃうかも」
シェーナさんに一度大声で制止された後、静かにしてくれと伝えられたのでマーレスは口をギュッと力強く閉じ、喋るのをグッと堪えた。
「実際どうなの?ムクロンちゃん?」
これはもしや、マーレスと会わなくてよくなる絶好の機会なんじゃないか。
よし、「もう関わらないで」って言ってやる。
「私は〜……別に、嫌じゃないデスケド……」
な、何言ってるんだ俺は。口が勝手にそう動いてしまった。
お、落ち着け。これはおそらく、マーレスと付き合いがあればシェーナさんとも会える回数が増えるってのを、咄嗟に頭が判断したんだろう。
だから、決してマーレスと付き合うのが満更でも無いって訳じゃないはず……。
「そうなのね。なら良かったわ。」
「よし!これで禁止はなくなっ」
「マーレス!」
俺の解答を聞いた途端にマーレスが嬉しそうに話し始めたが、再びシェーナさんが大声で話を遮った。
「ただし、ちゃんと段階を踏みなさい。出会ってすぐにお姫様抱っこは、普通おかしいのよ?」
「はい!気を付けます!」
異世界の人にとっても、出会って二回目で空中散歩は距離感が近過ぎる。
「そういえば、もうお昼ね。ムクロンちゃんも一緒にお昼どうかしら?」
ランチに誘われたが、萌え絵に惹かれて訪れたコミックカフェでランチをがっつり食べてしまったのでもう既に腹が膨れている。
「すみません!私もうお昼食べてきちゃったんです。行きたかったんですけど、ホントに申し訳ありません!」
「あら、それは残念ね。また今度、どこかに行きましょう」
「その、俺とも今度どこかに!」
「それはどうしようかな?」
マーレスとシェーナさんはお腹が空いているらしく、お昼ごはんに誘う為に、まだ元の場所で立ち尽くしているミイヤさんに話しける。
「ミイヤもお腹空いたでしょ?前に話した、あのお店に行くわよ」
「あぁ……。先に行ってて頂戴。私はムクロンちゃんと少し話をしてから行くわ」
我に帰ったミイヤさんはシェーナさんにそう伝えた。
俺に話したい事って、一体なんだろう?
「えぇ、わかったわ。それじゃあムクロンちゃん、プレイヤーも泥棒に気を付けてねー!」
「もし何かあったらオレに任せてください!」
「それじゃ、お二人ともさようならー!」
お互いに手を振り合いつつ、二人は路地裏を後にしてお店に向かった。
残ったのは、俺とミイヤさんだけとなった。
「は、話ってなんですか?」
まだそんなに親しくなってないので、どんな話を振られるのかわからず緊張する。
「服はどこで買っているの?」とか女性っぽい話題は返答に困るので違う事を願う。
「――マーレスとは、どんな関係なの?」
「え?」
質問内容は、なぜかマーレスに関するものだった。
しかも、世間話みたいな軽いトーンじゃなく、重要な話をする時のようなガチトーンで聞かれた。
「お姫様抱っこなんて、幼馴染の私もされた事ないからさ」
そうか。ミイヤさんはマーレスが俺の事が好きなのを知らなかったのか。
シェーナさんの幼馴染って事は、双子の弟であるマーレスの幼馴染でもあるので、「友人に好きな人ができた」と聞いて詳しく知りたくなったのだろう。




