第74話 異世界のオタク文化!?
しかし、わからないからと言って何もしないのは違うので、自分のできる範囲では探しておきたい。
「見つけられる事を祈って全力で探そう」
二度寝してしまったので現在の時刻は昼前だ。何も食べていないので腹は減っているが、まだ昼飯を食べなくても耐えられる。
「普段通る場所や前にシェーナさん達と巡った場所はいいや。まだ行った事のない所に行こう」
捜索範囲を絞ったので、向かう道中も道ゆく人の顔をチラッと確認しつつ、以前にシェーナさんと歩いた場所の反対側に来た。
「あっ、アパートの近くか。改めて見ると、ゲームには無かった場所だな」
前にこの辺りを歩いた時はトイレを我慢してたから時間がかかっていたが、普通に歩くと店から五分くらいだった。
公衆浴場のある場所と真逆だったのであまり来ていなかったが、改めて見ると全然知らない場所だ。
「店からは街の中心よりだし人は多いな。知らない場所だし、マオウグンと別に何か発見があるかも」
同じ街に住んでいても、ちょっと生活圏を外れればそこは未知の場所となる。それに、ゲームでは無かった場所なのもあって目新しい光景が広がっている。
道ゆく人の顔を確認しながら街を歩くが、初めて見た店に心が惹かれて観光の方がメインのようになってしまう。
「へー、この店って木彫りの置物を手作りしてるんだー。えっ、こっちは高級食パンの店?」
いろんな発見があってめっちゃ楽しい。新しい店を一つ知るだけで、日々の楽しみ、会話に使えるネタが増えるのですごく得をした気分になる。
「おっ、この店は!」
その中でも、とある店に目を奪われて立ち止まってしまった。その店の看板を一目見て、俺のオタク心がガッシリと掴まれたのだ。
「コミックカフェ!?スゴい萌え絵の看板なんだけど!」
その店の雰囲気はパッと見だとオシャレな雰囲気のカフェなのだが、主張の強い看板からこれでもかと放たれているオタクの波動が他の要素を全てかき消している。
――フッ、最高かよ。
「この世界にもオタク文化があったのか!」
今居る世界自体が二次元みたいなものなのに、そこに来てもなお、二次元や創作を求めている俺が居る。
「興奮してきたな。入ってみよう」
「いらっしゃいませ」
中に入ると、ダンディな老紳士がカウンター兼厨房に立っていた。
……お店間違えたかな?この人が萌え絵の看板を置く人だとは思えない。
「えーっと。あっ、漫画あるじゃん!」
店の中を探していると本棚を発見し、その中には同人誌のように薄い本が並んでいた。
「マスター、ここの漫画読んでもいいですか?」
「なにか注文していただければ可能でございます」
「ですよねー。メニュー表は……」
ちょうどお昼どきだし、朝メシも食べてなかったから、ここで今日のランチを済ませてしまおう。
ちなみにメニューは普通のオシャレなカフェと同じだった。
「じゃあ、コーヒーのブラックとデミグラスハンバーグで」
「かしこまりました」
注文を済ませたので、流行る気持ちを抑えて早歩きで本棚に向かう。幸い、まだピークの時間帯じゃないので他に客は居ないので、人目を気にせずに読ませてもらう。
もらえーと、全部薄い本だから表紙を見て確認しよう。
「表紙の絵もめっちゃ可愛い!いやいや、中身も確認しておかないとな。カラーは得意でも本編の作画が悪い場合もあるし。あっ、中の絵もキレイ!」
思わずページを捲る手が止まらなくなり、気が付いたら一つの本を読み終えてしまった。
「あー、面白かった。続きは……。あれ、ないな。一話完結の漫画ばっかりだ」
雑誌に連載されている漫画の単行本って訳じゃなくて、同人誌のような薄い本だらけだった。
「お待たせいたしました。こちらに置いておきますね」
「はい。ありがとうございます」
「漫画に興味があるのですか?若い女性にしては珍しい」
「えーっと、看板の絵が可愛かったのでつい入っちゃいました!」
そういうと、マスターは嬉しそうに微笑んだ。
「この看板は、私の推しである「グラス先生」に依頼して書いていただいたものです」
「グラス先生かぁ。どれだろう」
マスターが推している先生が書いた本が気になって本棚を探す。
「これか。さっきの人だ。あっ、これもそうか。いろんなジャンルに挑戦してる方なんですね」
テンションが全体的に高くオタク受けが良い作風であり、少なくとも五作品を発表していて全てキャラが違っていた。
作画レベルも高いし、アイデアマンでもある。これは推しになるのも頷ける。
「依頼って事はお知り合いなんですか?」
「いえ、販売している時に持ち込んで書いていただきました」
「へぇー、そんなコミケみたいな感じで売ってるんだー」
「失礼、コミケとは?」
そうか、コミケの概念がこの世界に無かった。
「えっと、個人で販売している本を売る場所の事です」
「ふむ……。漫画とは普通そう売っている物では?」
「え?漫画雑誌とか無いんですか?いろんな作品がまとめて載っていて、本屋に売ってるやつ」
「そのような物はありません。漫画はまだ万人に受けいれてもらえず、好きな人が買いに行く物ですから」
どうやら、漫画は同人誌しかないらしい。
恐らく、趣味で書いた漫画を自費で出版していて、それをコアなファンが買って読むのが当たり前なのだろう。
この世界の漫画はまだ、「本当のオタクだけが読む、知る人ぞ知るコンテンツ」のようだ。




