街に怪物がいるかもしれない
――その翌日、俺は約束通りにティエスカ内に潜むマオウグンを調査しに街にくりだした。エオルは昨日一日中休んでいたのだが、今日はベッドのシーツを買いに行くらしい。どうしてか聞いたら、エイダが居なくなった時に持っていかれたとの事。逃走の時に被っていた白い布ってシーツの事だったのか。
「ヒントもないし、適当に探し回るしかないかー」
鬼のように一目でわかるやつなら良いんだけどな。赤いし角あるヤツいないかな?待てよ。それなら他の人も流石に気がつくよな。だってどう見ても人間じゃないもん。
「て事は、本当に手がかりなし?それでマオウグンを探せと?」
ここ、ティエスカは「王都」である。名前に都が入っている事からも分かるように、都会だから人がめっちゃ多いんだぞ!この通りだって人通りが多いってのに……。あぁ、こんだけの人数の中から人間に紛れている人外を探すとか、なんて気が遠くなる仕事だろうか。まだ始まっても無いのに、想像しただけで気が滅入ってきた。
「いやいや、始まる前から心が折れかかっててどうするムクロン。エオルや街の人の為だろう?」
軟弱な自分の心を叱りやる気を絞り出す。国がマオウグンの存在を信じてくれない現状だと、調査できるのは俺しかいないんだろうが!俺がやらなきゃ誰がやるんだよ!
「ただ、闇雲に探すのは効率が悪いな。調査対象を少しくらい狭められないだろうか」
実際に、人間には全くバレずに一緒に生活できていたエイダの事を思い出して特徴を思い出そう。確か、俺が彼女を異世界出身であると見抜いたのは名前だったな。この世界の人間には名字が無いのに、彼女にはあった。ただ、これには「名前を聞かなきゃわからない」という欠点がある。
流石に道ゆく人全員に名前を聞くわけにもいかないからな、偶然名前を聞けて、かつそれが明らかに異世界の名前っぽい人が居れば要注意だ。
といっても、エオルだって元の世界にもいた名前だし、長い名前だったら怪しいか。でもダメだ。そもそも女王様であられるエルヴェンヌ様も名前が長いじゃんか!ダメだダメだ、名前から考えるのはやめにしよう。
「それなら次は……この世界に関する知識だな」
エイダは魔法を知らなかったし、この世界に名字がない事も知らなかった。魔法を知らないというのは結構なヒントになる。この世界では生活の一部として当たり前に存在し、あるのが当たり前の存在だ。それを知らないというのは異世界出身の人間以外に考えられない。魔法を見て驚いている人や、怯えている人が居れば要注意だな。
ただ、これはマオウグンが魔法に慣れたら素振りではわからなくなるんだよな。エイダは人と交流して初日だったからあんなに驚いていたけれど、ずっと潜んでいて慣れてきたら驚かなくなるだろうし……。
それに、エイダがこの世界に来たのは少なくとも二週間も前だ。それからずっと街に潜んでいて、俺みたくこの世界に関する勉強をしていたら完全に溶け込んでいるだろう。
「そしたら一つもヒント出ないじゃんか……!」
見た目は完全に人だし、そもそも冒険者として外からやってくる人もいるので急に知らない人が住んでいても違和感がない……。もうどうやっても、そのマオウグンがなにか事件を起こすとか暴れない限り、誰も絶対に気付くはずがない!
「見た目でわからないなら、すでに何か起きてからじゃないと動けない。確実に誰かは被害に遭ってしまう……」
駆け付けた頃にはすでに手遅れかもしれないが……これは、前の世界の警察もそうか。なにかが起きてからじゃないと動けない。仮に通り魔だとして、それをあらかじめ予測する事のできる人間がいるだろうか?もしいたら、犯罪は世の中からとっくに無くなっている。
「もしかしたら今この瞬間も、マオウグンは暴れるチャンスを窺っているかもしれない……。この街の誰かが死ぬかもしれない……」
俺には転移の際にもらったチート級の力があるが、それは主に戦闘の際にしか使えない。死んだ人間を蘇らせることも、他人を改心させて仲間にする事もできない。ただ、殺す事だけに特化している。オールラウンダーであり、ゲームで使える全ての魔法を覚えたからと言っても、神になった訳じゃない。なんでもできる訳じゃないんだ……。
六日振りに書きましたが、心境の変化と共に文体も少し変わってしまいました。




