第7話 二人で無事にワープしてやるのだわ
「じゃ、じゃあ気を取り直して早速冒険の旅に出ようか」
街の外へと向かうべくエオルと共に魔道具店を出ると、未だに店の前に止まっている馬車と荷台が目に入った。
「待てよ。この馬車を使うより、ワープした方が早いし遠くまで行けるな」
わざわざ馬車で移動するよりも、ワープを使えば一瞬で目的地まで行き来できる。
この馬達の仕事を奪うのは申し訳ないが、アイテムも全部このポーチに入るから荷台も必要ない。
「ワープも使えるんですか!さすが、黒曜の鎧を持ってるだけあって一流の冒険者ですね!」
「ワープは飛行と違って割と序盤に覚えられるからね」
ゲームだと、ワープは一定レベルに達すると自動で覚える事のできる魔法で、多くの実力者は使えて当たり前の魔法という設定だった。
ただし、空を飛べる魔法、"飛行"は勝手に覚えるわけではなく、ここから遠く離れた場所にある鬼畜難易度のダンジョンを攻略して実力を認められば習得する事ができる。
言わばゲームが終わった後のやり込み要素なのでほんの一握りの、実力者の中の実力者しか使えない。
「でもさ、ワープって他の人と一緒に飛べるの?」
「一人まで同時に移動する事が可能ですよ」
「おおっ、それなら良かった」
これならわざわざ陸路で移動せずとも、エオルを連れて一瞬で移動できる。
「それでムクロンさん、どこに行きますか?」
「まだこの世界に慣れてないから、近場の森に行こう。でも、ここに居る馬達はどうするの?」
店の前はそこそこ人通りの多い通りなので、ずっと店の前に置いていたら通行の邪魔になるし、先にどこかに移動させた方がいいだろう。
「大丈夫です。彼らは賢いので僕が伝えれば勝手に馬小屋まで向かってくれますよ」
「えっ、マジで?」
「そんなに賢いのかこの馬達は」と疑っている間にエオルが二頭の馬の耳元に何かを話かけた。
すると、馬達は足並みを揃えて歩き出していった。どうやら本当に勝手に家に帰っていくようだ。
「スゴッ!利口な馬達だなー」
「しかも、魔法が全く使えない僕の代わりに戦闘もしてくれるんですよ。雷を放ったり、吹雪を起こしたりできるんです」
二十人に一人の割合で生まれつき魔法が使えない人が居るのだが、エオルはそのうちの一人のようだ。
あと、見た目は普通の馬なのに攻撃魔法を使えるなんて、想像したらとてもシュールだ。
「じゃあ、さっきはなんでやられてたんだ?」
「奇襲されたし、数の差があったから仕方ありません。彼らを責めないでやってください」
すると、俺達が話している近くに冒険者が一人走ってきて、友人らしき別の冒険者に話しかけていた。
「おーい、さっきこの近くで黒曜の騎士を見たってウワサを聞いたんだが、お前なんか知ってるか?」
「え、知らないな。どこら辺で見たんだ?」
「こっちだ。ギルドや武器屋の方で見たらしい」
「本当ならスゴいな。だって伝説上の装備だぜ……」
大声だったので会話が耳に入ってきた。黒曜の鎧を持っている人間なんて早々いないし、確実に俺の事を言っている。
そして、彼らは黒曜の騎士を探しにどこかに歩いていった。
「ちょっと観光してただけなのに、もう話題になってる」
いきなり伝説の装備を着た人が現れたらそりゃ驚くだろう。なら、黒曜の鎧を着て活躍すれば人気者になれそうだ。
でも、女性からはモテたいけど男性からはモテたくない。どうやったら女性にモテる事ができるんだろうか?
「……そうだ!普段はムクロンという女性として過ごして、冒険者の時は男性のフリをすれば、女性にモテるし素で話せるじゃん!」
声や口調を変えれば、少し高いけれど男性の声だとしても違和感は無いし、女性の骨格や胸の膨らみは男女共通サイズの黒曜の鎧で隠せる。
鎧は胸の辺りが飛び出してはいるが、デザインに上手く落とし込まれているので男が着ても違和感は無い。
あとは、振る舞い方や声次第で頑張れば男性として振る舞えるはずだ。
「よしっ、我ながら名案だ……!」
普段は女性として生きるしかないけど、冒険者をしている時くらいは男性の気持ちに戻ってチーレムを味わいたい。
素顔は決して見せられないから、アメコミのヒーローみたいに正体不明で活動していく事にしよう。
「それならまず、素顔の時は男性っぽい口調をしない方がいいと思います」
横で聞いていたエオルがアドバイスをくれた。
「確かに、口調同じだとバレちゃうな。コホン、私はムクロンなのだわ!こんな感じ?」
「女性口調のイメージどうなってるんですか……。もっと自然な感じでお願いします」
呆れてダメ出しされてしまったので次は真面目にやろう。
まぁ、女性としての振る舞い方は今からゆっくり身につけていけばいいので、まずは二人で一緒にワープできるかを試す事にする。
いきなり大通りでワープすると通行人に驚かれてしまうので再び店の中に戻った。
「エオル!ワープしますから私に捕まってちょうだい!」
今は素顔なので女性口調を意識したが、自分で聞くととても恥ずかしい。しかし、俺の精神が成人男性であるという恥じらいは早めに捨てなくてはこの先が辛い。
今の俺は女、女なんだ。
「一緒に行けるか不安だからピッタリくっつこう」
「ワープ初めてなのでドキドキします!」
お互いに初めてだから不安なので念の為に黒曜の鎧は装着せず、抱き合うような形で体を密着させた。
「行くわよ、ワープ!」
魔法を唱えた次の瞬間、俺たち二人は木々が生い茂る深い森の中にいた。
どうやら、俺が来たかった森に到着できたようで、この森によく生息している"スピードイーグル"という鷲のモンスターが飛んでいる様子が見えた。
「エオル、無事か?」
「えーと、見た感じ何も異常はありません!」
エオルは自分の体や持ち物の無事を確認する。俺も服やポーチの中身に異変がないかを確認したが、全てワープ前と変わらなかった。
「やった、成功だ!」
ワープをちゃんと使える事が判明したので、これから二人で遠くまで旅に出かける事ができる。
さてと、この森に手強いモンスターは出現しないが、ムクロンが実はとんでもない実力者である事を誰かに見られたら面倒だ。
念の為に黒曜の鎧を取り出して装備する。




