第66話 トピエ団長の悩み
「若さ」と呟いたあと、トピエさんは遠い目をしながらぼーっと街を眺めている。
「若いかぁ……。もうアラサーなんだけどな。彼氏居ないまま三十手前……」
独り言で、まるで男だった時の俺みたいな事を呟いている。年齢近くて結婚願望アリってなんか親近感沸くな……。じゃなくて、とにかく謝らなければ。
「す、すみませんでした」
「いいのよ……。どうせ私は生まれつき力が強くて可愛げのないゴリラだから……」
先ほどとは一気に性格が変わってネガティブになってしまった。
自分の事をゴリラだと卑下しているし、気分も暗くなってしまったみたいだ。
「ゴリラには見えませんけど……」
「私の過去の話聞いてくれる?」
「あっ、はい」
完全にトピエさんに話の主導権を握られてしまって口を挟めなくなった。
「私は小さい頃から力が強くてうっかり同級生をケガさせる事が多かったの、そのせいで男子にゴリラってあだ名で呼ばれる事になったのよ」
人をいじる時にゴリラって呼ぶのは異世界でも同じなのか。広場のチャラ男をそうだけど、人の性格はどの世界でもあんまり変わらないようだ。
「その力を活かして警備団に入って団長になれたけれど、未だに怖がられているのか彼氏はできないのよね……。私、このまま一生独身なのかしら」
うぐっ、俺も彼女が全くできなかったからその気持ちは痛いほどわかる。
「気にする事ないですよ。俺だって二十六だけど彼女居ないし……」
自己弁護を兼ねてトピエさんを励まそう。これで自分の傷も少しは癒せる……。俺はもう二週目の人生だから、以前の俺に彼女ができる事は未来永劫無いのだが。
「二十六なんて若いわ……。私は二十九よ!誕生日まであと二ヶ月。あと二ヶ月でついに三十代なのよ!」
取り乱したのか、トピエさんは立ち上がって俺の肩を掴んで激しく揺らす。
「お、落ち着いてください!トピエさん美人だし、直ぐに良い相手が見つかりますって」
パッと見ただけでスタイルも良いし顔も良い、視線が釘付けになる美人だ。
むしろ、周りがトピエさんは自分にとって高嶺の花だと遠慮してアタックしなかっただけなんじゃないか?
「美人……!なら、私はアリだと思う?」
「え、えぇ……ちょっと!?」
いきなり手を握られた上、目をキラキラと輝かせてこっちを見つめている。
「もしよければ、私と付き合うか……?」
「えーと……その……」
美人を見ると緊張する悪癖のせいで上手く喋れない。
「一旦落ち着いてください!」
俺はトピエさんに握られた手をパッと引き剥がした。美人だし良ければ付き合いたいけど、お互いの事をもっと知ってからお付き合いした方がいいと思うし……。
ここで「はい」って言えないから俺には彼女ができなかったんだろうな。
トピエさんが振られたと思いショックを受けないように補足を言う。
「まだ会ったばかりですし、それに俺なんかより周りにもっと良い人が居ると思いますよ」
「そ、そうか……。若い兵を自宅の食事に誘ってみようかな」
「それはプレッシャーが大きいのでやめてください」
上司と家で会食とか、いくら美人の上司といえどめっちゃ緊張するのでやめさせた。
「美味しい」以外は絶対に言えないし緊張で喉を通らないぞ。
「くっ、そうか……。私は結局、仕事以外できない女なのだな」
トピエさんの口調が先程の仕事モードに戻った。
「――コホン。すまない。お見苦しいところを見せてしまった」
「あっ、はい」
急に雰囲気や話し方が変わったから、さっきまで別の人と話してたんじゃないかと一瞬混乱した。
仕事場と家でかなり性格が変わる、オンオフの激しい人のようだ。
俺も外だと真面目っぽく振る舞ってたけど、家でゲームしてる時は独り言が多かったりテンションも高くなってたからそこも似ている。
でもいくら美人だとしても、権力を持った人に俺の素性を明かす訳にはいかないし、何より俺にはシェーナさんという心に決めた人がいるから付き合えない。
もし俺が中身の、二十六歳の男として転移していたら推しのシェーナさんは振り向いてくれないだろうから、トピエさんと付き合っていたかもしれないけど……。




