第61話 彼女居ない歴=年齢+8
「…………」
「…………」
体感一分ほどでエオルが抱きつくのをやめて離れた。
我に返って気まずくなったのか、エオルは俺と目を合わせずに恥ずかしそうに話す。
「あ、ありがとうございました。あと、今日はお弁当用意できませんでした。火を見るのが怖くなって」
「大丈夫。いつも作ってくれてありがとな」
俺の予想だが昨日の夕食にパスタを頼んだのも、焦げ目が見えないかつ、茹でる料理だからだったのだろう。
「それじゃ、黒曜の騎士に着替えて国に報告しに行こうかなっと。……でも、俺の話聞いてもらえるかな?」
今更だが、あの賢い女王様と強者感溢れるボディーガード達が、こんな正体不明で信用できない謎の男の話を信じてくれるだろうか?
俺がもし女王様の立場だとすると、こんな素性を明かさない無駄に強いヤツの話は、あまり信じられない。
「僕みたいに疑い深い人は信じてくれないと思います。まず、素顔を見せないと信用されないでしょうね」
「げっ。素顔を見せるのは嫌だぞ。そしたら俺が男として生きられなくなる!」
信用はしてもらいたいけど、自分の正体は明かしたくない。素顔を見せる事は、完全に女性として生きる道を選ぶ事と同じだ。
城に行って報告するというのはやめておく。
「じゃあ、誰か別の人に言ってそれを伝えてもらおう。マーレスとか、えーっと……。あっ、マーレスぐらいしか居ねぇ!」
そもそも黒曜の騎士として会話したのはシェーナさんとマーレスだけだった。
「シェーナさんはどうです?」
「いやー、こんな重要な事お願いするの申し訳ないし。あと男として会話するのちょっと恥ずかしいし……」
黒曜の騎士がシェーナさんからどう思われてるのか気になってモジモジしてしまう。もし嫌われてたり引かれてたらしたら立ち直れない。
そう、俺はウブなのだ。彼女居ない歴イコール年齢プラス八年(実年齢は二十六、ムクロンは一十八歳なため加算)の実績を舐めないでいただこう。
「なるほど……」
「マーレスのヤツはなんだかんだ言って俺を信用してくれてるからな。じゃあ、アイツを探しに――」
その時、ラッパの大きな音が外から聞こえてきた。
「この音は……報告会の合図!?」
これが鳴ったという事は、また大事なお知らせがあるのだろうか。
「あー、あー。国民の皆さまおはようございます。近頃ティエスカを騒がせていたモンスター襲撃事件に関しての報告です」
どうやら、禁断の果実に関する事件についての話らしい。
「昨晩、黒曜の騎士様よりドラゴンキングの撃破、もとい犯人の討伐を完了したとの報告がありました。また、広場で質疑応答を行いますので、質問のある方はぜひお越しください」
放送の内容を聞く限り、国も俺のした報告を信用してくれたみたいだ。働きは認められているようで安心だ。
それに、こんな大々的に名前が出たんだ。きっとすごい人気者になるはずだ。
「うへへ……!」
顔を隠した謎の最強ヒーローなんて、人気が出る事間違いなしの設定だ。
想像したらニヤニヤが止まらない。特に女の子からの人気がどうなっているかが気になる。
「エオル、広場に行こうぜ!」
「どうしたんですか、ニヤニヤして」
「い、いや〜、女王様をまた見れるかもって思ってさ。決して俺が世間からどう思われてるか聴くのが楽しみな訳じゃないからな!」
「全部自白してる……」
「よーし、さっそく出発だー!」
「おー……」
寝不足のエオルを連れて広場に向かった。
到着すると、すでに人だかりができており、偉い人が立って報告する壇の後ろには以前と同じで警備兵が何人も並んでいた。
「前と同じ警備体制だし、また女王様を拝見できるのかな?」
「ふわぁーあ。どうでしょうね。来られたら良いのですが」
エオルは大きなあくびをしたり、ぼーっとしていたりと眠そうにしている。強引に連れてきてのは申し訳無かった。
周りを見ていると、少し離れた場所にいる女子二人組に目が止まった。確か、黒曜の騎士について店で話してた子達だ。
「黒曜の騎士ヤバくねー?ガチヒーローじゃん」
「素顔イケメンなのかな?ウチめっちゃ気になるわー」
「キタッ、大人気だ!」
若い女子にも人気だと聞いて、自己肯定感がめっちゃ上がった。
そして、それを正体を隠して他人の褒め言葉をこっそり聴くという愉悦。
心も体も辛いし痛かったけれど、頑張って良かった。
「はぁ……。まぁ、頑張ったし良かったじゃないですか」
「聞き耳を立てて絶対に聞き漏らさないようにしよう!」
「…………」
エオルから呆れられた目で見られたが、今日くらいは褒められて天狗になってもいいはすだ。
待てよ、これってSNSでのエゴサーチとやってる事変わらないな。
今更過ぎる年齢設定
・ムクロン、マーレス、シェーナ:18歳
・エオル:15歳
・ペルフェッタ女王:16歳




