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第56話 さらばオウマの森

 そんな……まさかこのまま死ぬつもりか?

 今すぐ降りてヒールで治さないと、死んでしまったら魔法を使っても生き返れない。


「くっ!」


 降りたいのにドラゴンキングがまだ火を吐いて邪魔をしてくる。

 俺は一秒でも早くエイダの所に向かわなきゃならないのに。


「お前に構っている暇はねぇんだよ!"電光斬華(エレキブルーム)"!」


 溢れんばかりの雷を剣に込めた一撃で、ドラゴンキングを丸コゲにしてぶっ飛ばした。

 うっかり下にいるエイダの上に落下しては行けないので、死体が離れた場所に落ちるよう、遠くに吹き飛ばす技を使った。

 そして、狙い通りにエイダからは離れた場所に落とす事ができた。


「エイダッ、エイダはどこだ!?」


 エイダが落下したと見られる場所に着地すると仰向けになり、徐々に子供の姿に戻っていく上半身だけのエイダの姿があった。


「エイダ……!今治してやるからな!ヒール!」


 駆け寄って右腕を握り、必死にヒールを唱え続けるが治る気配がない。


「ウソ、なんで……?なんで治らないんだ!」


 自分以外にも、センキャクやバンライといった馬も治せたから、ヒールは誰の傷も治せるはずだ。なのに、どうして効果が無いんだ……?


「ムクロンさん!」


 その時、木陰からエオルが飛び出してきた。良かった、生きていた。それに、見た感じケガは無さそうだ。


「エオル!無事だったか!」

「はい!あっ、エイダちゃん!?……うぷっ」


 重傷を負ったエイダの姿を見て、ショックのあまり吐き気を催すエオル。まだ若いエオルには刺激が強かったようだ。


「そうだ。アイテムなら!ポーションに、聖水、魔力回復薬なら!……ダメだ。効かない」


 治せそうな液体の魔道具を片っ端からエイダの体にかけたが効果はない。


 すると、エイダの傷口から、黒い煙が出始めた。


「なんだこれ……?」

「煙……?」


 見ると、体が傷口の方から消え始めていた。まさか、体が黒い煙に変化していっているのか?

 服も消えていってるので、このままだと全て消滅しそうな雰囲気だ。


「う、うぅ……」


 その時、エイダが意識を取り戻した。


「エイダ!」

「エイダちゃん!」

「ごめんなさい……。衝動に負け、ムクロンさんを傷付けてしまって……。ゴホッ」


 その話し方と口調は、昨日シェーナさんと観光していた時の、穏やかなエイダのものだった。


「無理して喋るな!安静にしないと!」

「その、雨を降らせるんですよね……。火を消して、植物達を守ってくれませんか……」

「あっ、ああ。わかった!」


 エイダの頼みを聞き入れ魔法で雲を発生させて雨を降らせ、山火事が起きていた場所を消火した。


「ありがとう……。これ、守りましたよ。大切な物だから……」


 エイダは懐から何一つ欠けてない完璧な状態のアクセサリーを取り出して右手に持った。

 あの大技をくらった時、既に自我を取り戻していてアクセサリーを守っていたのか。


「ムクロンさんの手を汚したくなかったんです。だから自分で……。でも、これでやっと解放される。もう、植物が焼かれるのも、人が苦しむのも見なくていいんだ……」


 そう語るエイダの顔はどこか満足な表情に見えた。

 ……もう胸の辺りまで黒い煙に変化してしまっている。


「エイダちゃん……!」

「エイダ、死ぬな!」


 しかし、体が無くなっていく速度は変わらないどころか、むしろ早くなっている。


「これから、より強いマオウグンが現れるでしょうが……、絶対にみんなで生き残ってくださいね…………」


 そう言い残してエイダが再び気を失った。


「エイダッ、エイダァァァァ!」


 ……じきに、エイダの体は服を含めて全てが黒い煙へと変わってしまった。

 エイダが居た場所にはお揃いで買ったアクセサリーだけが遺された。


「ううっ、エイダちゃん……!」


 その場で泣き崩れるエオル。

 俺は地面に遺ったアクセサリーを拾って握りしめる。


「エイダ…………」


 膝の上に涙が落ちる。歳上として、エオルの前でしっかりしなきゃなんないのに……ダメだ。堪えられない。


 あんなに仲良くなった、小学生のいとこと同じくらいの女の子が目の前で亡くなった……。

 二日間だけだけど、あんなに楽しく過ごしたのに、もう二度と会えないし、話せないなんて信じられない。


 これが、人の「死」の重みか……。


 いつの間にか、陽が落ちて辺りは真っ暗になっており、周囲からはモンスターの遠吠えが聞こえてくる。


 夜の森は危険なので帰らなくては。

 まだ気持ちを切り替えられていないが、アクセサリーをポーチにしまい、エオルに話しかける。


「……プレイヤーに帰ろう」

「ぐすっ……うん」


 泣き疲れて力が入らないエオルの肩を支えて一緒に歩いて、ワープ可能な場所まで向かう。


「……あっ、兜を拾わないと」


 道中、兜を脱いでいたことを思い出し、焼け跡から自己修復が完了した黒曜の兜を拾った。


 そして、目標地点まで到着した俺はエオルを連れてワープして、忘れられない出来事が起きたオウマの森を離れた。

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