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第57話 一方、何も知らない人々は

 無事に、プレイヤーに帰って来れた俺達二人。


「…………」

「…………」


 二人ともショックが大きく、言葉を失ってしまった。

 普段の穏やかな日常生活を送る気持ちへとなかなか切り替えられない。


「エオル、ケガはなかったか?」

「……は、はい。ムクロンさんに守っていただいたおかげです」


 今は一人で歩けるようになるようになったが、問題なのは身体ではなく心の傷だろう。

 今朝できたばかりの友人に襲われ、燃える森の中を逃げ惑うなんて普通の人にしたらかなりのトラウマだ。

 そう言う俺にも、トラウマは刻まれているが。


「……今日は早めに休め。はい。安眠できるアロマがあげる」

「あっ、ありがとうございます」


 俺がポーチから出して受け取ったアロマオイルをエオルが自分のポーチに仕舞う。

 その後、エオルは不意にテーブルの上を見た後、驚いた表情を浮かべた。


「あれ?ここに置いてあった禁断の果実が無くなってる……」

「あ、ホントだ。確かに出る前にはあったのに……まさか泥棒?」


 鍵はしっかり閉めたから誰も入れないはずだが、なぜ忽然(こつぜん)と消えたのだろう。


「もしかしてっ、別のマオウグンが来たんじゃ!?」


 俺が余計な一言を言ったばかりに、エオルが被害妄想をして取り乱してしまった。


「お、落ち着け!それは違うと思うぞ!」


 嘘でも良いからなんとかしてエオルを安心させなければ。そのために、何かそれっぽい理由を言おう。


「ゲームやアニメだと、異変の原因が居なくなると起きていた異変が全て解決するってのがあるパターンが良くあるんだ。多分それだよ!うん。そうに違いない!」

「そ、そうなんですか……?なら良いんですが、本当かどうか気になります……」


 それっぽい事を言ったが、エオルは尚もかなり不安そうにしている。

 なにか、エイダがきっかけで発生した異変が全て解決したという証明となりうる確固たる証拠はあるだろうか……。あっ、そういや禁断の果実はもう一つあったな。


「それなら、今から城に行って国に預けた禁断の果実がどうなったか見てきてやる。ちょっとの間待ってろ!」


 国の研究員が預かった禁断の果実の存在があるんだった。

 お城なので警備も厳重そうだし盗まれる事は無いだろうから、もし無くなっていたら俺の考えが正しかった事への証明になる。


「えっ、お城に行くんですか?信頼されているか怪しいのに掛け合ってもらえるんでしょうか……?」

「まぁ何とかなるだろ!じゃあ俺行ってくるから!」

「は、はい!僕は店の掃除と会計をしようかな……」


 いきなり広場とか人の多そうな場所にワープしたりすると、突然現れた黒づくめの怪しい姿に驚かれて叫ばれる可能性があるので、まだ人の少なそうな城の門に直接ワープしよう。


「「うわぁっ!?なんだお前!?」」

「ち、違う!怪しい者じゃないんです!」


 ワープした先には門番が二人おり、すぐに槍を突きつけられてしまった。もう夜なので、この暗闇の中、いきなり黒曜の騎士が現れるなんてかなりホラーだ。

 エオルだってワープして帰ってくるのがわかるのに毎回ビックリしているから、何も知らない彼らが驚くのも無理はない。


「じゃあ、何の用で城の前に現れたのか言え!」

「えーっと、禁断の果実の件についてお話があるんですけど……えと、消えました?」

「消えたって、何が?」

「禁断の果実の事なんですけど……。ついさきほど勝手に消えたんじゃないかなーと思いまして」

「勝手に消えるだと?そんな事があるわけないだろ。……だが、一応確認しよう」


 門番の一人が小さな貝殻を取り出し、それを口に当て喋り始める。


「たった今、禁断の果実が消えたかどうか聞かれたんですが、報告入ってますか。どうぞー」


 あの貝殻ってまさか、"()()()()()()"か?

 ゲーム内ボイスチャットはアレで話しているって設定だけど……いざ実際に使っているのを見るとシュールだ。

 そして、次は貝殻を耳に当てた。波の音を聞く……訳では無さそうだ。


「はい、はい……。あっ、なるほど。かしこまりました。いえいえ、ご苦労様ですー」


 恐らく、通話相手が話してる声を聞いているのだろう。他所行きの声で門番が話していたので、どうやら話は通ったようで、なにかしら返事があったらしい。


「どうでした?」

「貴様の言った通り、ついさっき黒い煙になって消えたんだと。どうしてそれがわかったんだ?」


 やはり消えてたか。これなら、エイダによって凶暴化させられたモンスターが他に居たとしても、今は正気に戻っていそうだ。

 彼女が居た痕跡が何も遺らないのは寂しくもあるが。


「それは――」


 その時、門が開いて中から二人の人が出てきた。


「ワープして帰れるからわざわざ送迎なんてしなくてもいいのにね、姉さんもそう思わない?」

「いいじゃないマーレス。ご厚意には甘えないと。明日もお世話になるんだし」


 それは、シェーナさんとマーレスだった。

 二人とも、ドラゴンキングの調査からちょうどワープして帰って来ていたのか。


「シェーナさーん!お疲れ様でしたー!マーレスもお疲れ」

「黒曜の騎士っ!?貴様、なぜここに居るんだ!?」

「あら、こんばんはー。以前はうちの弟が迷惑をかけました」


 今、俺とエオル以外にドラゴンキングが既に討伐された事を知っている人は居ない。

 シェーナさんを無意味に、あの虫の多い森に行かせない為にも俺が討伐したというのを伝えなくてはな。

 もうこの世に居ないドラゴンキングを探しに、みんなに無駄な時間を使わせる訳には行かない。

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