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第55話 ドラゴンキング襲来

「禁断の果実!?」


 食べたモンスターがパワーアップする謎のアイテム。それが、エイダの腕に実っていた。

 さっきまでは(つぼみ)すら無かったのに、一瞬で成長したのか。


「ううう……!」


 エイダは残ったわずかな力を振り絞って禁断の果実を投げた。

 「俺の方に飛んで来る」と警戒して剣を構えたが、狙いは外れて空高くへと真っ直ぐ飛んで行った。


「外したか……。ってか、禁断の果実ってエイダから生えた物だったのか。じゃあ、今までの異変って、全てエイダが引き起こしていたのか!?」


 俺が知っている中で最初に禁断の果実を食べたと思われるモンスターはオークキングだが、少なくとも二週間以上前に会っている。

 つまり、エイダは俺と同じ日に……あるいはそれより前に、この世界にやって来ていた事になる。


「それなら、スライムキングを倒した後に見た謎の人影の正体もエイダなのか……?」


 見たのは大人で手からロープを飛ばしているシルエットだったが、手から長い紐状の物を飛ばし、木をつたって移動するなど、大人エイダと特徴が一致している。


 恐らく、エオルの家にあった禁断の果実は、エイダが自分を弱らせて自我を失わせない為に生み出した物だったのだろう。


 抗ったが、いずれまた自我を失ってしまうと判断して、メモを書き残して街から離れた場所まで行き、黒曜の騎士である俺に自分を殺させようとしていたのか……。


 街にいる人を巻き込まず、かつシェーナさんやマーレスにショックを与えないようにひっそりと死ぬ為に……。


「……なんて健気なんだ」


 しかし、いつ彼女は消耗したのだろう。「モンスターを強化した時」と言っていたので、禁断の果実を生み出してモンスターに食わせたのだろうが、その相手は誰なんだ?


 エイダがやって来た時はドラゴンの群れが襲ってきていて、ドラゴンキングは未だに見つかっていないが……。


「ん?」


 突如、空に大きな竜の影が現れた。その形は、昨日の朝ティエスカを群れで襲ったドラゴンの姿に似ていた。


「ど、ドラゴンキング!?」


 前にマーレスと一緒に戦ったドラゴン達より二回りは大きいドラゴンが現れた。

 恐らく、このモンスターが禁断の果実をいくつも食べさせられて進化したドラゴンキングだ。


 今、空の雲を突き破って降りてきたぞ。

 今までずっと雲より上に隠れて、エイダの指示があるまで待機していたのか。そりゃ調査団が必死に探しても見つからないはずだ。


「速い!」


 ドラゴンキングが素早く移動して地上に降り立ったかと思うと、エイダを丸呑みして地面から引き抜いた。


「エイダが食われたああああ!?」


 飲み込まれたかと思って心配したが、ドラゴンキングは頭を縦に振りつつエイダを吐き出して飛ばし、自身の広い背中に乗せた。そして、空へと飛び去っていく。


「まさか、このまま逃げる気か!?」


 ただでさえ普通のドラゴンにすら"飛行(フラウェ)"だけでは追いつけない場合があるのに、更に速度が上昇したドラゴンキングに追いつけるだろうか。

 いや、"無重力(ログラ)"を同時に使えば追い付けるか。


「魔力が少ない……!追う前に、一度魔力を補給しなきゃ」


 兜を脱いで素顔を晒し、ポーチから取り出した魔力回復薬をグイッと一気に飲み干した。


「プハーッ!逃がさないぞドラゴンキング!あれ?」


 追おうとして見上げると、ドラゴンキングは飛んだまま顔をこちらに向けていた。

 そして、口から炎が漏れ出ているのに気が付いた。


 次の瞬間、ドラゴンキングの口から火球が俺の方に向かって飛んできた。


「危ねっ!あっ、兜落とした!」


 ギリギリで回避できたが、焦っていて兜を落としてしまった。

 激しい炎に焼かれた跡地を見ると、多くの草木がボロボロになりながら炎上しており、炎に飲まれた黒曜の兜も高熱でドロドロに溶けていた。


「ヒッ、マジかよ……」


 もし直撃してたらと思うとゾッとする。

 アレだけは絶対に当たらないようにしなければ。


「あっ、エオル大丈夫かな!?バリアの中だと炎の熱でやられてしまうかもしれない。……自力で何とかしてくれよ!バリア解除!」


 エオル……。ここからじゃ姿は確認できないが、何とかして自力で避難して生き残ってくれ。

 流れ弾に絶対に巻き込みたくないので、エオルの居る場所から更に離れた場所にドラゴンキングを誘き寄せたい。


「"飛行(フラウェ)"!」


 飛行してエオルの居る場所と逆方向に立ち、ドラゴンキングの背中に乗ったエイダを見下ろす。

 すると、エイダの足は先ほどと同じで根っこへと変化し、ドラゴンキングの胴体へと巻き付いていった。


「なんだ?まさか、ドラゴンキングからエネルギーを吸っているのか?」


 地面以外にも、モンスターからでもエネルギーを吸収して回復できるのか。せっかく子供に戻したのに、再び大人のエイダの姿へと戻っていく……。

 あともう一歩だったのに復活されてしまった。


「ハァ、ハァ……!許さんぞムクロン!」


 さっきまで敬語だったのに口調が荒々しくなった。苦手なお湯を長い時間かけられませいか?


「エイダ!お前は二週間前から禁断の果実でモンスターを強化していたのか?」

「そうだ!だが、オオカミ男もオークもスピードイーグルも、クラッシュボアもスライムも、全部お前に倒されたけどな!」

「オオカミ男も……?あっ、アイツもキングだったのか。どれがキングだったのか全然わかんな――」


 話している間に火球が飛んできた。


「うわぁっ!?」


 なんとか避けれたが、今は昔を振り返っている場合でも、自分の強さに自惚れている場合でも無かった。


 ドラゴンキングが、いきなり俺との距離を詰めてきた。

 体当たりでもする気だろうか?


「ぐわっ!」


 体当たりは回避できたが、通り過ぎるタイミングでエイダの枝が変化した槍が俺の左肩を貫いた。

 すぐにヒールで治したが、強い痛みを俺が襲う。痛みのショックで剣を落としそうだったが、必死に強く握ったので事なきを得た。


「チッ!心臓を外したか!」


 離れたらドラゴンキングが炎で攻撃して、俺が近付いたらエイダが枝で攻撃する作戦のようだ。

 ドラゴンキングに乗っているおかげで常に八本の枝で攻撃できる上に、移動は高速でできるなんて、正直かなり強い組み合わせだ。


「当ててみろムクロン!できるもんならなぁ!」


 ドラゴンの素早い体当たりを回避しても、その上に居るエイダが複数の枝で追撃をかけてくる。


「くっ、うおおおお!」


 なんとか反応して切り落として、すかさず下がったかと思うとドラゴンが炎を飛ばしてくる……。こっちの攻撃できる隙がまるで無い。


「アーハッハッハッ!実力者のお前を殺せば、他のマオウグンのヤツらを見返せる!だから、ここで死ねぇ!」


 一体どうすればいいんだ。上に居るエイダに当たってしまいそうで、ドラゴンキングを攻撃するのも躊躇(ためら)ってしまう。かと言ってピンポイントでお湯をエイダにかけるのも至難の業だ。


「いや!このままじゃ俺もエオルも、ティエスカのみんなも死んでしまう!やるしか……ない!」


 殺すなんて絶対にしたく無いのだが、殺す気でやらなきゃここで俺が死んでしまうし、エオルやシェーナさんにも危害が及ぶ。

 ――ここはもう、高火力の魔法を撃ち込むしかない。


「"高圧電爆撃(ハイサンダー・ボム)"!」


 辺り一体に強力な電撃を放つ空間が発生し、中にいるエイダとドラゴンキングは激しい雷に撃たれた。


「ぎゃあああああ!!」

「グギャアアアアア!!」


 効いているようで悲鳴をあげた。

 だが、ドラゴンキングはまだ空を飛んで居られるほどの元気そうだ。上に乗っていたエイダの様子はどうだ?


「カハッ」


 一瞬意識を失ったようだったが目を覚ました。


「よくも……!」


 エイダが回復の為にエネルギーを大量に吸い始め、今度はドラゴンキングの体が次第に小さくなり、ミイラのようにシワシワになっている。

 

 ドラゴンキングをあんなに酷使するほど俺を殺したいのか。どれほど強い執念なんだ。


「ゴホッゴホッ!」


 体中ボロボロで、動くのがやっとだというのにこちらへの殺意は変わらないどころか増していっている。

 そこまでして彼女を動かし続ける物はなんだ。なぜそうまでして俺を殺そうとする?


「もうよせエイダ!それ以上動いたら、本当に死んでしまうぞ!」

「うるさい!最強クラスのモンスターであるドラゴンを使っても負けたなんて認めたくない!せっかく動物が強い世界に来たんだ!ここで活躍できないとダメなんだァァァ!!」


 なんて叫び声だ、およそ正気とは思えない……。

 何がエイダをそこまで狂気に陥れるんだ?


「痛々しくて見てられないよ!エイダ、頼むから正気に戻ってくれ!」


 今のエイダなら、ドラゴンキングのエネルギーを吸い尽くすどころか、地面のエネルギーを吸い尽くしても攻撃を続けるだろう。


「お願いだ!もうやめてくれ!」

「うるさい!いけっ、ドラゴンキング!」


 もはや疲れ切っているようで、枝を武器に変形させずにそのままでがむしゃらに攻撃してくる。

 

 もう、とっくに限界を迎えているのだ。


「エイダ……!」


 ここでエイダと戦って消耗させてしまうと、ドラゴンキングが飛んでいられなくなり、エイダを乗せたまま地面に墜落するかもしれない。

 エイダを空中で助けようにも、今の俺は素顔を晒してるので、枝の攻撃をくらって顔が吹き飛ぶかもしれない。

 

 俺は一体どうすればいいんだ……。


「ん?」


 枝のうちの一本が攻撃をやめて、先端が斧の形へと変化していった。

 再び武器にして攻撃できるようになったのか?


「……来るか」


 他の枝を防ぎなつつ、その斧になった枝を警戒する。


 だが、その枝はなぜかエイダの腰あたりで、刃がエイダに向いたまま地面と水平になったまま止まった。

 そして、その斧は一度大きく後ろに下がり――


「……まさか」


 斧が勢い良く振られ、エイダの体が真っ二つになった。


「え……?」


 驚いた表情を浮かべて地面へと力無く落ちていくエイダ。


「あ、あああ……!お、おい。ウソだろ。なぁ?」


 ドラゴンに巻き付いて残された根元の部分が、次第に人間の下半身へと戻っていき、後を追うように地面へと落ちていく。

 これは何かの技なんかじゃない。エイダは、自分自身を斬ったのだ。


「エイダァァァァァァァァ!」

キャラ紹介① エイダ・ウッド編

 モチーフはサム・ライミ版スパイダーマンのグリーンゴブリン。二重人格や飛行する物に乗る、知り合いから敵になるなど、オマージュしている。

名前は枝とwood(木)、また「史上最低の映画監督」であるエド・ウッドから。

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