夕立が降る
「フゥー。もはや元の姿で同情を誘うのも無駄ですしね。ここで油断してアッサリやられたくありません」
無邪気で子供らしい声から大人びた声へと成長したエイダ。知っている子供が一瞬で一十歳近く成長したので頭が混乱する。なんだか、俺達も歳を取ったような錯覚に陥った。
「いきなり大人に……!?しかも服まで大きくなるとかどういう仕組みだ!?」
「魔法を使った訳じゃ無さそうですけど……」
木の上に立っているエイダを見上げながら質問するが、上から冷たい視線で見下された。
「そんな事気にしてる場合ですか?第二ラウンド、始めますよ」
エイダが腕を左右に真っ直ぐ伸ばすと、それがまるで木の幹のようになり、そこからいくつかの枝が生えてきた。ウソだろ……。まさか、あの一本一本がさっきと同じ攻撃をしてくるんじゃないだろうな?枝の数が二本から八本と、四倍に増えてるんだけど!?
「バリア!」
あまりに数が多く、全ての攻撃に目を通して防げるか不安になったので、すぐにエオルに対してバリアを張る。
「あっ、ありがとうございます!」
もはや今のエイダは普通の魔道具で対処できる相手じゃない……!早くエイダをエオルから遠ざけて狙われないようにしないと!
「"飛行"!」
飛んで素早く距離を詰めて木の上にいるエイダに斬りかかる。しかし、エイダの体がスゥーっと後ろに下がっていき空振りに終わった。
「避けられた……。なにっ!?」
なんと、エイダは伸びている枝のうち、左右の腕から二本ずつを周りの木に巻き付けて体を引っ張り、森の中を自由に移動できるようにしていたのだった。地形を上手に使うとは……!しかし、移動しようにもこの辺りは森しかない!
「さぁ、行きますよ!」
移動に使われていない四本の枝が、それぞれ斧、剣、ドリル、槍へと変化していき四方から俺を襲ってきた!
「"炎の波"!」
「木にはやっぱり炎だろう!」と思い、剣を振って炎を周囲に発生させて、近付いてきた四本の枝を同時に燃やして切断した!
「あつっ!……えいっ!」
断面を焼けばヤマタノオロチと同じで再生しなくなるかと思ったが、残念ながらそんな事は無く、なおも枝は再生した。クソッ、なんて回復速度なんだ。これじゃキリが無いぞ……。
「ハァ、ハァ……」
しかし、回復にも体力を使うのかエイダは疲れている様子だ。あっ、さっき「消耗して元の人格に戻った」って言ってたよな?
「なぁ……お前を弱らせたら元のエイダに戻るんだよな?」
「ハァ……ハァ……。きっと子供の状態に戻るでしょうね。できるとは思えませんが!」
ビュンッ、バシッ!
「ぐはぁっ!」
なんだ?下から重い一撃をくらった!?……あっ、エイダの足が木の根っこのようになっている!くっ、足は警戒しなくても大丈夫だろうと油断していた!
「くっ……ヒール!」
地面に落ちた後にヒールを使用して全回復した。しかし、鎧が自己修復し切っていなかった背中をまた狙われたからかなり痛かった……!同じところを攻撃し続けるのが有効って、バリアを破った時に学習されたのかもしれない……!
「そちらこそ消耗してるんじゃないですか?シェーナさんも言ってましたよ。「魔法を使うと魔力が減って疲れちゃう」って!」
そうだ。いくらゲームでレベルカンストしていたとしても魔力は無限に使える訳じゃない。今もエオルにバリアを使っているし、今の戦いでヒールや状態異常魔法を何度も使ったから疲れてきているのは確かだ!兜を被っているから顔色がバレてないのはラッキーだが。
「では、終わらせましょう」
その時、エイダが俺の前に着地した。そして、その足は地面へと根を張り大地から自然のエネルギーを吸収し始めた。……冒険者、いやゲーマーとしての歴戦の勘ではあるが、消耗していたエイダの体力は少し回復してしまったように思える。
しかも、木に捕まるのを辞めたから、八本の枝全ての先端が武器に変わっている。恐らくだが、これがエイダが一番火力を出せる形態……!どう考えても今からヤバい攻撃が来る!
「私とムクロンさん。どっちが先に倒れるか勝負です!」
俺に向かって四方八方から、タイミングをずらして一掃されないように八本の枝で攻撃してくるエイダ。
「"炎の波"!えいっ、このっ!おりゃあ!あぁ、キリが無い!」
一つ切断し、また次の枝を切断した頃には、最初に切断した枝が回復して襲ってくる……!まるで織田信長が使った三段撃ちのように、絶え間なく攻撃が襲ってくる!
「ゼェ、ゼェ……!あ〜!しんどいなこれ!」
魔法を使ってなくても、鎧を着て剣を振るだけでも十分に疲れるんだよ!このままじゃキリが無い。何か打開策は無いか!?
「ハァ、ハァ……。ムクロンさんは優しいんですね。まだ私を救う気でいる。情けなんて、戦場では無用ですよ!」
そうか……!俺は無意識のうちにエイダ本人を傷付けないようにしていたのかもしれない!でも、エイダを"地獄の業火"で焼き尽くすなんて真似、俺にはとてもできない……!なにか無いか?殺さないけど弱らせる方法が。……あ、あった!
「"温水"!」
ピチャッ
地面に根を張っているエイダめがけて熱めのお湯をかけた!
「うあああああ!?あついっ!お湯は無理いいいい!?」
そう、お湯だ!エイダがお湯を避けていたのは、植物は熱湯をかけると根から枯れるからだったんだ!まさか、体が植物だから苦手だとは、さっきまでの俺は夢にも思っていなかったが。
「ひ、ひいいいいっ!吸ったらダメッ!脱出しなきゃ!」
エイダが急いで地面から抜け出そうとする。……心苦しいが、ここで逃すわけには行かない!
「"熱い雨"!」
そう唱えると、エイダの真上だけに黒い雲が現れる。
「な、なに?夕立……?」
ザアアアアア!
「あああああ!熱い、熱いいいい!」
降り注ぐ雨は全て先ほどと同じでお湯である。植物のモンスターくらいしか効果がない地味な魔法だったが、まさかこの土壇場で役に立ってくれるとは!
「うあああああ!苦しいいいいい!!」
エイダは抜け出す事も出来ないまま、苦手なお湯の雨に打たれてその場で苦しんでいる。……痛々しい叫び声を聞いていると、俺の心も痛くなってくる。
「すまないエイダ……。もう少しの辛抱だ!」
見ると、心なしかエイダの体が少しずつ小さくなり始めた気がする。よし、これで無事に終わる!エイダを治して連れて帰れる!
「ハァ、ハァ……!」
悶え苦しみながら、エイダは右手に力を込め始めた。すると、枝の先に何かが実り始める。それは、とても見覚えのある果実だった。




