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第53話 変幻自在の侵略者

「エイダ。他の道は無いのか?あんなに楽しそうにしていたのに……」

「そうですよ!私の家に居た時も、「もっとティエスカに居たい」って言ったじゃないですか!」


 友達と戦いたくない俺とエオルは必死に説得を試みる。エイダは一瞬迷ったような表情をしたが、冷徹な目で俺達を睨んだ。


「――無い」


 そう、エイダは冷たく言い放った。

 それを聞いた俺達二人は怯んでしまう。

 「戦うしかない」。その最悪の選択肢が脳裏をよぎった。


「先ほども言ったでしょう。この世界を滅ぼす事がマオウグンの使命だと。それを果たせなければ、私に存在価値は無いんです!」


 エイダは両腕を先ほどと同じく長くしなる枝へと素早く変化させた。さっきですらギリギリで反応できたというのに、今度は二本だと?


「本来の私が私を殺す為にあなたをここまで呼び出したのでしょうが、返り討ちにしてあげます!」


 別方向から二本同時に攻撃が飛んでくる。

 なんとしても、すぐ横に居るエオルを守らなければ。


「バリアー!」


 俺とエオルの周りを覆う狭いバリアを張り、二本の腕を同時に防いだ。

 バリアは便利だが、魔力の消費が激しいのであんまり長い時間使いたくはない。魔力回復の為に顔を晒すと頭が無防備になってしまうので、狙われたら一巻の終わりだ。


「チッ!これが魔法の力ですか……!」


 エイダは何度も何度も枝をぶつけて殴打してくるが、バリアは耐えている。


「エオル……。俺はエイダと戦う事に決めた」


 安全が確保されているうちに、俺の考えをエオルに伝えた。


「こ、殺してはダメです!気絶させたりして……大人しくさせる程度でお願いします!」


 エオルも俺と同じで、エイダを助けたいようだ。


「任せろ。最初からそのつもりだ。俺だって、敵だったとはいえ友人を殺すつもりはない。いろんな状態異常魔法を試すから、エオルも痺れ粉を使ってくれよ!」

「は、はい!わかりました」


 枝が何度も何度もぶつかる音がしなくなった。

 かと思うと、大きな音がどこからか鳴りだした。


「なんだ……?」


 この音、俺の後ろから鳴っているのか?


「え……?」


 俺の背後のバリアが割れ、背中を鋭い痛みが襲う。


「手の先っぽが斧になってる……!大丈夫ですかムクロンさん!」

「クソッ!」


 すぐさま剣で背中まで伸びている枝を斬り、体に刺さった斧を引き抜いてからヒールをして治した。

 黒曜の鎧を貫通するとは、なんて威力なんだ。心臓に当たらなかったのは幸運だった。


「枝の先端が変形するのか!?」


 地面に落とした枝は先端が斧の形になっていた。

 つい先ほどまではこんな形じゃなかったはずだ。


「なーんだ。魔法って案外大した事ないんですね」


 外を見ると、中に入って来なかったもう片方の腕の先端はドリルの形になり回転しており、正面から削って穴を開けて中に侵入しようとしていた。


「あの腕、なんでもアリかよ……!」

「ムクロンさん、後ろ!」

「どうした!?」


 振り返ると、バリアに侵入した枝の断面が次第に槍のように鋭くなっていき、ゆっくり俺達めがけて伸びていた。

 エイダ、こんな一瞬で腕の形を自由自在に変化できるのか。なんて厄介な能力なんだ。


「マズイ。このままじゃ逃げれない……。バリア解除!」


 バリアが消えたのに合わせて、俺は剣を構えて二本の腕を撃退する構えに入った。


「伏せろエオル!」

「はっ、はい!」


 即座にエオルにはしゃがんでもらってから、剣を振って素早くエイダの両腕を切断する。


「うぐあっ……!!」


 反撃をくらって深傷を負い苦しむエイダ。

 今しかチャンスは無い。


「エイダごめん!"放電(スパーク)"!」


 心苦しいが、威力を弱めた雷魔法を当てる。


「きゃああああ!!!」


 状態異常を効きやすくする為には弱らせる必要がある。

 すまないエイダ、少しの間我慢していてくれ。


「弱らせたら通用するはず……!睡眠魔法!麻痺魔法!気絶魔法!」


 右腕をまっすぐエイダに向けて伸ばし、次々といろんな状態異常の魔法を唱えていく。

 どれか一つでも効いてくれたら彼女を捕えられるのだが。


「僕も……ごめんなさいエイダちゃん!」


 エオルもポーチや体のあちこちに隠していた痺れ粉入りの球を投げて追い討ちをかける。

 たくさん魔法をかけたのと、エオルが痺れ粉をくらわせたお陰か、エイダはその場で動かなくなった。


「気絶したか……?」


 確認しようと顔を見るために近付く。

 しかし、エイダはフラフラとゆっくり動き始めた。


「ウソでしょ……」

「まるで効いてないだと!?」


 やり過ぎなくらい魔法をかけたのに少し痺れている位しか効いていない。

 この量だと、耐性を持つボスモンスターですら効果が出るはずなのに。


「ハァ、ハァ、無駄でしたね。どうです?これでもまだ私を捕えるつもりですか?」


 すぐに痺れが回復していっている。このままだと、またさっきと同じ戦いが始まってしまう。

 こっちも本気を出さなければ。

 下手をすると殺されるし、エオルだって守れない。


「すまないエイダ。もっと手荒な真似をさせてもらうぞ」


 ここからは強力な攻撃魔法も使う事に決めた。エイダを傷付けるのは心苦しいが、状態異常にならない以上、攻撃して弱らせて捕まえるしか手段が無い。


「ムクロンさんっ、それは……」

「大丈夫。死んでなきゃ回復魔法で治せる!」


 俺を捕えようと斬りかかってきたマーレスもこんな気持ちだったのかもしれない。

 死んだ人間はどうやっても生き返らないので、殺さないように気を付けなければ。


「ハァ、ハァ…………。それじゃ、私も本気を出しますか……」


 今のは本気じゃ無かったのか?

 そんな、これ以上強くなるというのか。


「よくわからないけど、させるか!」


 すばやく剣でエイダに斬りかかったが腕を伸ばして上に避けられ、近くにある木の枝の上まで逃げられた。


「フゥー……」


 目を閉じて息を吐いて、集中している様子のエイダ。

 すると、体が徐々に大きくなっていく。

 いや、大人になっているのか?


「なに!?成長しているのか!?」

「エイダちゃんが僕より歳上に……!?」 


 さっきまで一十歳前後の見た目だったのに、いきなり一十八歳頃の少女まで成長してしまった。

 面影はあるが顔付きは大人びている。それに、服まで一緒に大きくなっていた。

 

 これは一体、どういう原理なんだ?

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