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第51話 エイダ誘拐事件

 昼休みにエオルから朝もらった弁当を食べて元気を回復させ、引き続き午後からも頑張って仕事を続けた。


「ありがとうございましたー!……ん〜!もう夕方かー」


 お客様が一人も居なくなったタイミングを見計らって、一度大きな背伸びをした。

 ふと窓の外を見ると、空は赤く染まっている。


「あと少しで営業時間が終わるし頑張るぞー。エイダはどうなったんだろう。シェーナさんとマーレスは無事かな?」


 遠くにいるみんなを心配するあまり、物思いにふけって外の景色をぼーっと眺める。

 その時、パカラッパカラッとどこかで聞いた事がある音がこっちに近付いてきた。


「なんだこの音?」


 以前、絶対に聞いた事があるが思い出せない。不思議と警戒はしないのでモンスターの音では無いはずだが。

 確認するために外に出る。


「ヒヒーンッ!」

「えっ……!馬?」


 向かってきていたのが馬だと思わず、驚きを通り越して言葉を失ってしまった。

 そして、馬は店の前でピタッっと止まった。馬の背中には、誰かがしがみついている。


「あっ、センキャクだ!なんでここに?」


 そうだ。この馬は、エオルが飼っている二頭の馬の一頭で、氷魔法を使える方、センキャクだ。

 さっきの足音は、馬車に乗っている時によく聞いていた物だったのか。


「じゃあ、後ろに乗っている人はまさか」

「はぁ、はぁ。ムクロンさん!」


 後ろに乗っていたのは飼い主であるエオルだった。馬から降りて俺の前に立ったが、ひどく慌てている様子だった。


「どうしたんだ?」

「あ、えーと、その……!」

「落ち着いて。一旦深呼吸しろ!」

「すぅー、はぁー。そのっ、エイダちゃんが(さら)われました!」

「はぁ!?えっ、えっ!?」


 エイダが誘拐されただと?

 ヤバい、またパニックになって呼吸が乱れてきた。


「ムクロンさん落ち着いて、深呼吸してください!」

「スゥー、ハァー」


 驚きのあまり過呼吸になりかけたが、エオルが側にいてくれたおかげで助かった。


「エイダが攫われたってどういう事だ!?」

「店の中に入って話しましょう!」


 店の扉を閉めて鍵をかけ、準備中の札を出してお客様が入って来れないようにした。

 これで落ち着いて話が聞ける。


「一体何があったんだ?」

「僕と母が目を離した一瞬の隙に、エイダちゃんがベッドからいなくなっていて、部屋の窓が開いていたんです」

「なるほどな。でも、それなら自分の意思で出ていった可能性もあるような」


 犯人と会っていないのなら、理由は不明だがエイダが自分で窓を開けてそこから出て行った可能性も無くは無い。

誘拐だと断定できる証拠が残されていたのだろうか。


「実は、ベッドの下にこれがあったんです!」


 エオルが現場証拠として取り出した物。それは、()()()()()だった。


「ウソだろ……?なんでこれがあるんだ」

「前に森で見た、謎の人影の仕業に違いありません!」

「アイツか……。なんでエイダを狙ったんだ?まさか、アイツも転移者で、同じく転移者のエイダと何か関係があるのか?」


 禁断の果実が仮に異世界の物だとしたら、犯人も異世界の存在だろう。エイダが失った記憶の中に、犯人との接点があったのかもしれない。だから犯人は、エイダを狙ったのだろう。


「それと、このメモを見つけました」


 現場にあったもう一つの証拠。それは、殴り書きされたメモだった。

 ギリギリ読み取れる文字で何かが書かれている。


「何て書いてあるんだ?オ……ウ……マ?あっ、オウマの森の事か!」

「地名なら、そこにエイダちゃんがいるのでは!」


 エイダが咄嗟にメモを残して、俺たちに犯人の行き先を伝えてくれたようだ。これでお前を救えに行ける。


 急いで店の奥に行き、ポーチから黒曜の鎧を取り出して装着していく。


「しかし、ここからは少し距離があるな。行った事あるからワープで行けるが」

「僕も行きます!」


 エオルが俺のそばにやってきて、真剣な表情で震える手を抑えながらそう言った。


「ホントに来るのか?危険だぞ」

「エイダちゃんが攫われたのは僕の不注意のせいです。だから、責任を取りたいんです!」

「エオルのせいじゃないし、気に病むことは……」


 エオルは未だに真剣な表情のままだ。……どうやら、やめる気は無いらしい。


「スライムキング探しの時のように、探すなら人は多い方がいいでしょう!自分の身は自分で守れますし!」

「わかったよ。ただ、ケガしても知らねーぞ。……ありがとな」


 大人として、危険な事はやめさせるべきなのは重々承知なのだが、本人が覚悟して、勇気を出して言っているのなら行かせてやるべきだ。

 ここで行かなきゃエオルは一生後悔するだろう。

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