第50話 それぞれの優しさ
その後も次々とお客様が来られたので、入り口近くに置かれたカゴの中のクッキーはいつの間にか全て無くなってしまっていた。
なかなか誰も戻って来ないので、医者を呼んでエイダを診てもらっているんだろう。
様子を見に行きたいが、ここから離れる訳にもいかないので、「頼むから無事でいてくれ」と神様に祈る事しかできない。
「お会計は二百ゴールドです。ちょうどお預かりいたしますね。ありがとうございましたー!」
ようやくお客様が居なくなったのを見計らって、クッキーの入ったカゴを入り口の近くまで取りに行く。
「うわぁ!?」
「あら、ごめんなさい!」
その時、ワープして帰ってきたシェーナさんと真正面からぶつかったが、お互いの胸がクッションになって助かった。
まさか、推しとおっぱい同士を合わせる事になろうとは夢にも思わなかった。
「ごめんなさいシェーナさん!あと、残りのクッキーもうっかりお客さんに渡してしまって……じゃなくて、エイダの様子はどうなったんですか!?」
シェーナさんの顔は、依然として暗いままだった。エイダの体調は優れないままなのだろう。
「それが、お医者さんに診てもらったけれど、ケガや病気が原因では無かったの。恐らくは疲れが原因だと言われたのだけれど……」
「疲れ……。環境の急な変化が響いたんでしょうか」
ゲームで慣れていた俺と違って、エイダはこの世界の事を何も知らないうえ、家族や友人との突然の別れといったストレスも大きな要因だろう。
「それで……エイダちゃん。一度故郷に帰るかもしれないと言っていたわ」
「故郷!?」
シェーナさんが伝えた言葉に耳を疑った。
エイダは転生者じゃなくて転移者なので、実家なんて存在しない。
一体、なぜそんな嘘をついたんだ?
「えぇ。でも、本人はここにずっと居たいって言ってたから、治ったらここにもっと居るらしいわ。せっかくの旅行なのに倒れるなんて残念ね」
「ですね……。でも、きっと良くなりますよ!」
若くして転移したエイダには同じく転移者であり歳上で戦闘もできる俺が寄り添うべきだろう。同じ異世界出身者としてその役目を果たす責任が俺にはある。
それに、他に行く場所もないのでティエスカには残るはずだ。
「えぇ。信じて応援しましょう今はエオルちゃんと、そのお母様がエイダちゃんを看病しているわ。それと、お店をお願いします、という伝言をもらったわよ」
「あっ、わかりました。そういや、マーレスはどこに行ったんでしょう?」
てっきり俺に会うために戻ってくると思っていたが、今もエオルの家に居て看病しているのだろうか?
「さっき調査団の任務へ向かっていったわ。集合時間に間に合わないからって。私は……これからどうしようかしら。看病を手伝おうにも、エオルちゃんから、「私と母がやりますからシェーナさんは大丈夫です」と気を遣われたし、それでも家に居続けるのも悪い気がするわ。でも、何かはしたいのよね……」
他のみんなはやるべき事があるのに、一人だけ自由にしててと言われても落ち着かないので、何か他人の為になる事をしたいのだろう。
「そうだ。マーレスのいる調査団に加わろうかしら。街を狙うドラゴンキングを倒せば、エイダちゃんも安心すると思わない?」
「はい!良い考えだと思います!」
シェーナさんはなんて優しいんだ。
まぁ、何を言ってても全肯定するつもりだったけれど。
「あそこは虫モンスターが居るので、この虫除けをサービスします!頑張って!」
「あら、ありがとう。詳しいのね」
「えっ。あっ、いやー、森だから多いのかなーと思っただけですよ!」
危ない。シェーナさんを想うばかり、一般人がおよそ行く事が無い場所の特徴を言ってしまった。
「それじゃ、城に居るはずのマーレスに追いついて、同行する旨を伝えるわね。お仕事頑張って!」
再びシェーナさんがワープして店から姿を消した。
みんなそれぞれ、やる内容は別だが全員が他人の事を思っている。
マーレスも、エオルも、シェーナさんも、まだ一十代で若いのにみんなとっても優しくて感動してしまった。
クッキーの入っていたカゴを店の裏に下げ、中でリンゴジュースを飲んで気合いを入れる。
「プハーッ!よし、俺もエオルの分も仕事頑張るぞー!」
店のカウンターへと戻り、仕事を再開した。




