エイダ誘拐事件
昼休みにエオルから朝もらった弁当を食べて元気を回復させ、引き続き午後からも頑張って仕事を続けた。
「ありがとうございましたー!……ん〜!もう夕方かー」
お客様が一人も居なくなったタイミングで、一度大きな背伸びをした。ふと窓の外を見ると、空は赤く染まっている。
「あと少しで終わるし頑張るぞー。エイダはどうなったんだろう。シェーナさんとマーレスは無事かな?」
遠くで頑張っているみんなを心配するあまり、物思いにふけって外の景色をぼーっと眺める。みんな元気だと良いんだけど……ん?
パカラッパカラッと、どこかで聞いた事がある足音がこっちに近付いてきた。
「なんだこの音?」
以前、絶対に聞いた事があるんだけど思い出せない。不思議と警戒はしないからモンスターの音じゃないと思うんだけど……。確認するために外の様子を店内から頭をヒョコっと出してみよう。
「ヒヒーンッ!」
「えっ……!馬?」
まさか向かってきていたのが馬だと思わず、驚きを通り越して言葉を失ってしまった。しかもこの馬、店の前でピタッっと止まったんだけどなんで?しかも、後ろに誰か人が乗っている。あれ、この馬見た事あるな。えーっと……?
「あっ、センキャクだ!なんでここに?」
エオルが飼っている二頭の馬の一頭で、氷魔法を使えるセンキャクか!そうか。足音は馬車に乗っている時に聞いていたんだった。
「じゃあ、後ろに乗っている人は……!」
「はぁ、はぁ……ムクロンさん!」
後ろに乗っていたのは飼い主であるエオルだった。馬から降りて俺の前に立ったが、ひどく慌てている様子だ。
「どうしたんだ?」
「あ、えーと、その……!」
「落ち着いて。一旦深呼吸しろ!」
「すぅー、はぁー。そのっ、エイダちゃんが攫われました!」
「はぁ!?えっ、えっ!?」
「ムクロンさん落ち着いて、深呼吸してください!」
「スゥー、ハァー。エイダが攫われたってどういう事だ!?」
「店の中に入って話しましょう!」
バタンッ
店の扉を閉めて鍵をかけ、準備中の札を出してお客様が入って来れないようにした。これでゆっくり落ち着いて話が聞ける。
「一体何があったんだ?」
「僕と母が目を離した隙にエイダちゃんがベッドからいなくなって、部屋の窓が開いていたんです」
「なるほどな。でも、それなら自分の意思で出ていった可能性もあるような……」
犯人と会っていないのなら、理由は不明だがエイダが自分で窓を開けてそこから出て行った可能性もあるよな。誘拐だと断定できる証拠が残されていたのか?
「実は、ベッドの下にこれがあったんです!」
「……ウソだろ」
エオルが現場証拠として取り出した物。それは、「禁断の果実」だった。
「なんでこれがあるんだ!」
「前に森で見た、謎の人影の仕業に違いありません!」
「アイツ……!なんでエイダを狙ったんだ!?まさか、アイツも転移者で、同じく転移者のエイダと何か関係があるのか?」
禁断の果実が仮に異世界の物だとしたら、犯人も異世界の存在だろう。エイダが失った記憶の中に、犯人との接点があったのかもしれない。だから犯人はエイダを攫ったのか?
「それと……このメモを見つけました」
現場にあったもう一つの証拠。それは「殴り書きされたメモ」だった。ギリギリ読み取れる文字で何かが書かれている。
「何て書いてあるんだ?……オ……?オウ……マ?あっ、「オウマの森」の事か!」
「知名なら、そこにエイダちゃんがいるのでは!」
エイダが、俺たちに犯人の行き先を伝えてくれたのか……!ありがとう。これでお前を救えに行ける!
俺は急いで店の奥に行き、ポーチから黒曜の鎧を取り出して装着していく。
「しかし、ここからは少し距離があるな。行った事あるからワープで行けるが」
「僕も行きます!」
すると、エオルが俺のそばにやってきて、真剣な表情で震える手を抑えながらそう言った。
「ホントに来るのか?危険だぞ」
「エイダちゃんが攫われたのは僕の不注意のせいです。だから、責任を取りたいんです!」
「エオルのせいじゃないし、気に病むことは……」
しかし、エオルは未だに真剣な表情のままだ。……どうやら、やめる気は無いらしい。
「スライムキング探しの時のように、探すなら人は多い方がいいでしょう!自分の身は自分で守れますし!」
「……わかったよ。ただ、ケガしても知らねーぞ。……ありがとな」
大人として、危険な事はやめさせるべきなのは重々承知なのだが、エオルが覚悟して、勇気を出して行っているのなら行かせてやるべきだろう。それに、ここで行かなきゃ一生後悔するかもしれないからな。




