それぞれの優しさ
その後も次々とお客様が来られたので、入り口近くに置かれたカゴの中のクッキーはいつの間にか全て無くなってしまっていた。
なかなか誰も戻って来ないが、おそらく今は医者を呼んでエイダを診てもらっているんだろう。様子を見に行きたくても、お客様が常に一人は店に居る状態なのでここから離れる訳にもいかず、俺は「頼むから無事でいてくれよ……!」と神様に祈る事しかできなかった。
「お会計は二百ゴールドです。ちょうどお預かりいたしますね。ありがとうございましたー!」
カウンターでお辞儀をしてお客様を見送ったあと、ようやくお客様が居なくなったのを見計らって、クッキーの入ったカゴを入り口の近くまで取りに行く。
シュンッ、ポヨンッ
「うわぁ!?」
「あら、ごめんなさい!」
その時、ワープして帰ってきたシェーナさんと真正面からぶつかったけど、お互いの胸がクッションになったから助かった!てか、急に人が目の前に現れたらめっちゃビビるわ。昨日のエオルの気持ちが理解できた。
「ごめんなさいシェーナさん!あと、残りのクッキーもうっかりお客さんに渡してしまって……じゃなくて、エイダの様子はどうなったんですか!?」
シェーナさんの顔を見ると、依然として暗いままだった。恐らくエイダの体調は優れないままなのだろう。
「それが、お医者さんに診てもらったけれど、ケガや病気が原因では無かったの。恐らくは疲れが原因だと言われたのだけれど……」「疲れか……。環境の急な変化が響いたんでしょうか」
ゲームで慣れていた俺と違って、エイダはこの世界の事を何も知らないし、家族や友人との突然の別れといったストレスも大きな要因だろう。
「それで……エイダちゃん。一度故郷に帰るかもしれないと言っていたわ」
「故郷!?」
シェーナさんが伝えた言葉に耳を疑った。だって、エイダは転生者じゃなくて転移者なんだから、実家なんて存在しない。なら、エイダはなぜそんな事を言ったんだ?
「えぇ。でも、本人は「ここにずっと居たい」って言ってたから、治ったらここにもっと居るらしいわ。せっかくの旅行なのに倒れるなんて残念ね……」
「ですね……。でも、きっと良くなりますよ!」
根拠は何一つ無い発言だが、若くして転移したエイダには同じく転移者であり歳上で戦闘もできる俺が寄り添うべきだろう。それに、治っても治らなくても、いずれにせよ他に行く場所もないからティエスカには残るはずだ。
「えぇ。信じて応援しましょう今はエオルちゃんと、そのお母様がエイダちゃんを看病しているわ。それと、「お店をお願いします」と伝言をもらったわよ」
「あっ、わかりました。そういや、マーレスはどこに行ったんでしょう?」
てっきり俺に会うために戻ってくると思っていたけれど、今もエオルの家に居て看病しているのかな?
「さっき調査団の任務へ向かっていったわ。私は……これからどうしようかしら。看病を手伝おうにも、エオルちゃんから「私と母がやりますからシェーナさんは大丈夫です!」と気を遣われて言われちゃったし、それでも家に居続けるのも悪い気がするわ。でも、何かはしたいのよね……」
確かに、他のみんなはやるべき事があるのに、一人だけ自由にしててと言われても落ち着かないし、何か有益な事をしたくなる気持ちはわかる。
「そうだ!マーレスのいる調査団に加わろうかしら。街を狙うドラゴンキングを倒せば、エイダちゃんも安心すると思わない?」
「はい!良い考えだと思います!」
自由になんでもしていいのに、人の為に行動する事を選ぶとはなんて優しいんだ!まぁ何を言われても全肯定するつもりだったけれど!
「あそこは虫モンスターが居るので、この虫除けをサービスします!頑張って!」
「あら、ありがとう。やけに詳しいのね?」
「えっ。あっ、いやー、「森だから多いのかなー」と思っただけですよ!」
あぶねー。シェーナさんを想うばかり、一般人がおよそ行く事が無い場所の特徴を言ってしまった。
「なるほどね。それじゃ、城に居るはずのマーレスに追いついて、同行する旨を伝えるわね。お仕事頑張って!」
シュンッ
再びシェーナさんが店から姿を消した。……みんなそれぞれやる事があるんだな。やる内容は別だけど、それぞれが他人の事を思っている……マーレスも、エオルも、シェーナさんも、若いのにみんなとっても優しくて感動してしまった。
そして俺はクッキーの入っていたカゴを店の裏に下げ、中でリンゴジュースを飲んで気合いを入れる。
「プハーッ!よし、俺もエオルの分も仕事頑張るぞー!」
そして、俺は店のカウンターへと戻っていった。




