第5話 俺の名は
手綱を握る御者は馬車をコントロールする、いわば運転手の役割なので「邪魔しちゃ悪いかな」と思いつつも、暇なので少年に話しかける。
「なぁ少年。えっと、名前聞いてなかったな」
「エオルです」
「エオル君か。俺の中身が男だって事、誰にも言うなよ?」
「はーい、わかりました」
言いふらしたくなる驚きの出来事なので、思わず友達に話してしまいそうなのでしっかり忠告しておこう。
「ところで、あなたのお名前は?」
「名前か……。考えていなかったな。ゲームでのプレイヤー名は墾田永年私財法だけど」
プレイヤー名は一十二文字までなのだが漢字に対応していたので好きな文字を入れた。長過ぎる名前をのせいでネッ友からは困惑されたが。
「ずいぶん個性的な名前ですね」
「学校で習う単語で一番面白いと思ってる。でも、流石に名前っぽくないしなぁ」
墾田永年私財法なんて名前が付いた二次元の女子キャラを俺は知らないし、居たとしても人気が出るとは思えない。ここは流石に別の名前を考えよう。
「この世界って基本的に名前だけで苗字、ファミリーネームはないよな?」
「家族で共通の名前ですか?それはないですね」
「よし、これで名字を考える手間が省けた」
ネーミングセンスに自信がないので考える事が減ってラッキーだ。
名前は今後、一生付き合っていく重要な物だからしっかり考えなくては。ふざけた名前にしたら後悔する。
「ファンタジーな女性キャラの名前か、難しいな」
何がいいんだろう。ファンタジーの女の子名前って。うーーーん。
……マズイ。五分考えたけれど本当に思い付かない。
「ダメだ……。全然思い付かない。そうだ、今の自分の姿からアイデアを得られるかな?」
ということで、鎧を脱いで体を見る事にした。
脱いだ黒曜の鎧をポーチの四次元空間に仕舞い、女の子になってしまった自分の体を見下ろす。
「デカッ!ちょっ、これが俺の胸か……!?」
巨乳好きなので、キャラクリした際に迷わず胸を一番大きなサイズにした。
自分で選んだのに、彼女できた事がない二十六歳童貞の俺には刺激が強過ぎる。
「しっ、失礼します!」
勇気を出して胸を揉んだのだが、経験がないからわからなかった。柔らかいし触られてる感覚はちゃんとあるから多分本物だろう。
「胸以外はどうだろう」
服は普通の、街の中を歩いた時にも見かけたモブの服だ。いかにも西洋の庶民みたいなので街中を歩いていても何の違和感もない。
そして身体全体を服の上から見たのだが、見た目は普通の女性と同じだった。
「見た目は普通の女子って感じか。どうしよう。これと言った特徴はないな」
困った事に、名前付けには何のヒントにもならなかった。
うーん、他に何かいい案はないだろうか?
「そろそろティエスカに着きますよー」
「えっ、マジ?」
エオルに言われて外を見ると、馬車はもうティエスカに入る門まで迫っていた。
「そろそろ決めなきゃな。よし、ここはランダム性に身を委ねよう」
最終的に俺は、ポーチからアイテムをランダムに一つを取り出してそれを名前にする事にした。
ゲームでのアイテム名は全部覚えているし、装備や武器にはオシャレな名前が多い。
その為、アイテムを参考にすればインスピレーションが湧いて良い名前を思い付くかもしれない。
「何が出るかな〜〜……よし、これだ!」
目を瞑って右手をポーチに突っ込んで一つのアイテムを掴む。取り出したのは丸くて硬く、それでいて大きさの割には軽いアイテムだった。
目を開いて確認すると、それは"スケルトンの頭部"であった。
「ハズレじゃねぇかぁぁ!」
思わず頭蓋骨をパリンと握り潰す。
いくらランダムに引いたとはいえハズレ過ぎる。名前付けには何の参考にならないアイテムだった。
「あっ、もうすぐティエスカに入りますよ。墾田永年私財法さん!」
「待て、その名前は絶対嫌だ!」
実際に呼ばれた事で、この名前は長過ぎるし西洋風のファンタジーな異世界の雰囲気に全く合っていない事を痛感した。
しかし、もう門をくぐる一歩手前まで来てしまったので考えている余裕は無い。
「仕方ない。このガイコツから名前を決めるかぁ」
頑張ればガイコツからでも良い名前を思い付けるだろう。
頭蓋骨は言い換えると、スケルトン、スカル、骸になる。
……「むくろ」か。ムクロはカッコいいな。
でも、そのままだと怖いし印象に合わないから少し変えたい。
どうすれば女子っぽくなるだろう。最後に「ン」を付け足したらあだ名っぽくなるかな?
「なら……ムクロンか」
マカロンみたいで可愛いかもしれない。
時間も無いし、名前はこれにしよう。
「エオル、これから俺の事はムクロンって呼んでくれ」
「はい、了解です!」
こうして、俺の異世界での名前はムクロンに決まったのだった。




