命の洗濯を
「……?」
クンクン
開店の準備をしている最中、近くに来たエオルが俺の近くで不思議な顔をしながら臭いを嗅いでいた。何か気になる臭いを感じ取ったのだろうか?
「……あれ?ムクロンさん、昨日お風呂入りました?」
「え、俺?」
臭いの原因はまさかの俺だった。
「入ったよ……。ほんの一瞬だけ」
「それは入ったとは言いません!人前に出る仕事なんですからちゃんとお風呂入ってきてください!」
そういえば昨日はトラブルのせいで風呂に一分も入って無かったんだった……。にしても、近付いたらバレるほど臭うなんてショックなんだけど!?
「エイダも一瞬だけだったよな。おーい、お湯苦手だけど入れるのか?」
「水風呂なら平気です」
「え、寒そう……」
「わかった。じゃあ、ささっと入って来ようぜー」
そうして、俺達は昨日のリベンジを果たす為に近所の公衆浴場へとやってきた。
「大人と子供一枚ずつ」
「あいよー」
お金を払って脱衣所に向かうと朝なのもあって他に人は居なかった。俺達は異世界に関する話をしながら服を脱いでいく。
「ムクロンさんって男の人なんですよね……女湯に入るのってイケナイコトなんじゃないですか?」
「それはそうなんだけど、この世界って公衆浴場が基本だから、仕方なく入るしかないんだよ。それに、俺は日本人だから一日に一回は風呂に入らないと気が済まないんだ」
「そうなんですか。でも、昨日鼻血出してませんでした?」
「アレは刺激的な光景を見たのが原因だから、温泉に入ったから血が出たわけじゃ無いからな」
カポーン
大浴場に入ると、なんと他に客は一人もおらず、貸切状態だった。風呂に入る前にまず最初に掛け湯をする。
「なぁ、掛け湯も体に悪いのか?」
「これくらいなら我慢できます」
「そう無理すんなって」
俺は両方の手のひらを合わせて作った皿に水魔法を使って水溜りを作り、それをエイダに向けてかけた。冷水を使った特製の掛け湯だ。
「ひゃう!……ありがとうございます」
そして、俺は大きな浴槽に浸かり、エイダは水風呂の中に入った。かなり冷たいはずなのにエイダはリラックスしている様子。なんだかまるで水浴びしているエルフみたいだ。距離は少し離れているが、他に人は居ないので大声を出して会話ができる。
「あ〜気持ちいい!やっぱお風呂は命の洗濯だなー!」
「ふぅ……落ち着きます」
湯に浸かってのんびりとしていると、リラックスして悩みなんて忘れてしまう。出た後も仕事はあるし、禁断の果実に関する事件も解決していないけれど、この瞬間だけは心の底から休んでいたい。
「エイダ、体調はどうだ?」
「今のところは大丈夫ですよ」
「そっか。でも、何かあったら遠慮せずにすぐに言えよ。力になるから」
「はい…………あのっ!」
しばらく間を空けたのち、エイダは真剣な雰囲気で俺にお願いを伝える。
「もし私が信じられない行動をしても……嫌いになりませんか?」
「……もちろんだ。失敗しない人間なんて居ないしさ。ミスから学んでいけばいいんだよ。俺だって何度おねしょしたかわかんないしさ!アッハッハー!」
真剣なお願いだったので真面目に返したが、言ってる途中で恥ずかしくなったので、下ネタと笑いで誤魔化した。だが、風呂場でおしっこの話をしたのは失敗だったかもしれない。
「ありがとうございます……そう言ってくれて嬉しいです」
そう言うと、エイダはザバッと水風呂から上がりシャワーへ向かった。
「俺も、トリートメントに時間かかるから髪洗うかー」
一応、疑問に感じたので髪を洗っているエイダが浴びているシャワーを触ってみる。
「冷たっ」
案の定、冷水のシャワーを浴びていた。
俺には耐えられないな。学校でプール入る前に浴びるシャワーも苦手だったのに、エイダはよく平気だなー。
…………その後、髪と体を洗った俺達は脱衣所に行き、髪の毛をしっかり乾かしてから着替えてプレイヤーへと手を握って帰るのだった。
この次も、サービスサービスぅ!




