第45話 記憶喪失のエイダ
「自分に全然馴染みの無いゲームの事を覚えてるなら、転移した時のことも覚えてるんじゃないの?」
「それは……!」
エイダは何かを言おうとしているが口をパクパクさせたが、言葉が出ないような様子だった。
「お、覚えてません」
「そっかー。でも、普通に会話はできてるし日常生活には困らなそうだな。ちなみにどこ出身なの?俺は日本だけど」
「ウッドランド。自然豊かで穏やかな場所でした」
「聞いた事無い場所だなー。どこの国にあるんだ?」
そう質問すると、エイダの表情が暗くなり俯いてしまった。
「…………」
「あっ、ごめん。前の世界の事を聞いちゃって」
「いや、いいんです……」
もう会えない両親や友人の事を思い出させる質問をするなんて、配慮が足りていなかった。
異世界に来たばかりで戸惑ってるし、前の世界が恋しいはずだ。しばらくは質問するのはやめておこう。
「それで、これからどうやって生活するんだ?」
「私はっ、叶うならシェーナさんやムクロンさん達と一緒に過ごしたいです!」
「じゃあ、ティエスカに住むって事だな。なら、子供だし、学校に通うのはどうだ?魔法が使えないなら、冒険者じゃなくて学者を目指しても良いと思うし、通うならお金は俺が出すよ!」
ムクロンは一十八歳と大人としては微妙な年齢なので保護者として申請が通るかはわからないが、一十五歳のエオルが普通に働いてるくらいなので、異世界は現代日本と比べて法律が緩そうだしなんとかなるだろう。
「学校……!い、行きたいですけど、この世界のことをもっと知ってから考えます」
「まぁ、時間はたっぷりあるからそれもアリだと思うよ。俺の知り合いから借りっぱなしの教科書があるから自由に使って!」
そういえばエオルに借りた教科書をずっと返してなかった。
これからはエイダが使うので当分はエオルの元に戻ることは無さそうだ。
「ふわぁ〜〜。すみません、あくび出ちゃいました」
エイダが大きなあくびをした。瞼が下がってきていて、とても眠そうな顔をしている。
「いいよ。今日は朝からたくさん歩いたし疲れただろ。今日はここに泊まって。って、ベッドが一つしかないんだった!アパートの方は直してないし……。あっ、思い出した」
もう一つこの部屋に置けるベッドがあるのだ。ゲームの始めたてに貰えた、ハブラシとか便利な日用品が入っている冒険用携帯セットの中に。
「俺はこの寝袋で寝るから、エイダは大きなベッドで休んでくれ!」
キャンプで使うような寝袋を取り出して栓を開けると、たちまち空気が入っていき膨らみ、人一人が寝れる大きさになった。
「えっ、申し訳ないですよ!客の私がそこで寝ます!」
「いや、俺に気にせずベッドを使ってくれ!どうせ使うのは今日一日だけだし、明日になったら別の方法を考えるから!」
部屋は狭いのだが、頑張ってベッドはもう一つ置いた。
エイダをここに住ませることについて、明日エオルに報告しよう。
俺はエイダが手をつけなかったクッキーと紅茶を食べてから、エイダに新品のハブラシを渡して一緒に歯磨きをしたからパジャマに着替えた。
「パジャマに限らず、エイダにサイズが合う服は持ってないな。長いローブで代用できるかな?」
「着てみますね」
エイダが服を脱いで俺に合ったサイズのローブを着ると、やはり袖や裾があまりまくった変な格好になった。手が出せないので物を掴めず、床に引きずるほどの裾の長さなので歩くのも危険だ。
「転びそうだし、起きたらすぐに着替えた方がいいな。…………じゃあ、明かり消すぞー。おやすみ」
「おやすみなさい」
寝袋は初めて使ったが、ベッドのフカフカさと比較すると寝心地が悪く全然寝れない。
「すぅ、すぅ……」
エイダはよっぽど疲れていた様ですぐに眠ってしまった。下手に動いて起こしても悪いので、目を閉じて寝れるのを祈る。
それにしても、今日は異世界に来てから一番楽しい日だった。シェーナさんとデートできたし、エイダとも出会って三人でいろんな場所を観光できた。
エイダ、このままここで暮らしている内に記憶が戻ったら良いのだが。
……別の異世界転移者がまたティエスカに飛ばされて来たりするのだろうか?もしそうなら、いずれ、異世界に転移した原因を知る人と出会えたりして。
「…………すぅ……すぅ……」
普段より時間がかかったが、ちゃんと寝る事ができた。




