記憶喪失のエイダ
「自分に全然馴染みの無いゲームの事を覚えてるなら、転移した時のことも覚えてるんじゃねーのか?」
「それは……!」
エイダは何かを言おうとしているが口をパクパクさせていて、言葉が出ないような様子だった。
「お、覚えてません……」
「そっかー。でも、普通に会話はできてるし日常生活には困らなそうだな。ちなみにどこ出身なの?俺は日本だけど」
「「ウッドランド」……。自然豊かな穏やかな場所でした」
「ウッドランド?聞いた事無い場所だなー。どこの国にあるんだ?」
「…………」
「ごめん。前の世界の事を聞いちゃって」
「いや、いいんです……」
もう会えない両親や友人の事を思い出させる質問をするなんて、デリカシーが無かったな。異世界に来たばかりで思う事があるだろうし、しばらくは質問するのはやめておこう。
「それで、これからどうやって生活するんだ?」
「私はっ、叶うならシェーナさんやムクロンさん達と一緒に過ごしたいです!」
「じゃあ、ティエスカに住むって事だな!なら、子供だし、学校に通うのはどうだ?魔法が使えないなら、冒険者じゃなくて学者を目指しても良いと思うし、通うならお金は俺が出すよ!」
大人としては微妙な年齢なので保護者として申請が通るかはわからないけど、ここは異世界だし多分なんとかなるだろう!
「学校……!行きたいですけど、この世界のことをもっと知ってから考えます」
「まぁ、時間はたっぷりあるからそれもアリだと思うよ。俺の知り合いから借りっぱなしの教科書があるから自由に使って!」
そういえばエオルに借りた教科書をずっと返してなかった。まぁ、これからはエイダが使うからしばらくはエオルの元に戻ることは無さそうだな。
「ふわぁ〜〜。すみません、あくび出ちゃいました」
エイダが大きなあくびをした。顔もとても眠そうであり、今にも眠ってしまいそうだ。
「いいよ。今日は朝からたくさん歩いたし疲れただろ。今日はここに泊まって……って、ベッドが一つしかないじゃん!アパートの方は直してないし、しかもトイレとかないし……あっ、思い出した!」
もう一つこの部屋に置けるベッドがあるんだった。ゲームの始めたてに貰えた、ハブラシとか便利な日用品が入っている「冒険用携帯セット」の中に!
「俺はこの寝袋で寝るから、エイダは大きなベッドで休んでくれ!」
「えっ、申し訳ないですよ!客の私がそこで寝ます!」
「いや、俺に気にせずベッドを使ってくれ!どうせ使うのは今日一日だけだし、明日になったら別の方法を考えるから!」
部屋は狭いけど頑張ればベッドはもう一つ置けるし、無理なら宿に泊めるとか……、エオルにも泊まらせてもらえるか聞くか!明日も仕事の予定だし、朝出会ったらエイダの事を共有しよう!
そして、俺はエイダが手をつけなかったクッキーと紅茶を食べてから、エイダに新品のハブラシを渡して一緒に歯磨きをしたからパジャマに着替えた。
「パジャマに限らず、エイダにサイズが合う服は持ってないな……。長いローブで代用できるかな?」
「着てみますね」
エイダが服を脱いで俺に合ったサイズのローブを着ると、予想は付いてたけど袖や裾があまりまくった変な格好になった。手が出せないから物を掴めず、床に引き摺るほどの裾の長さなので歩くのも危険だ。
「転びそうだし、起きたらすぐに着替えた方がいいな。…………じゃあ、明かり消すぞー。おやすみ」
「おやすみなさい」
パッ
…………まずいな。あまり寝れない。子供とはいえ異性と同じ部屋で寝るなんて経験がないので緊張してしまう。ていうか、この寝袋の寝心地悪いな。ベッドのフカフカさと比較すると、寝れない訳じゃないけど心地良くはない。
「すぅ、すぅ……」
エイダはよっぽど疲れていた様ですぐに眠ってしまった。下手に動いて起こしても悪いので、今俺がやれる唯一の事は目を閉じて、寝れるのを祈る事だけだ。
それにしても、今日は異世界に来てから一番楽しい日だったな。シェーナさんとデートできたし、エイダとも出会って三人でいろんな場所を観光できたし……。
エイダ……このままここで暮らしている内に記憶が戻ったら良いな……。それに、別の異世界転移者がまたティエスカに飛ばされて来たりするのかな?もしそうなら、いずれ、異世界に転移した原因を知る人と出会えるのかな……?
「…………すぅ……すぅ……」




