第32話 男のプライドを賭けた戦い
「とにかく、俺には深く関わらないでくれ。お礼しようなんて考えない事だな」
これだけハッキリといえば、マーレスも諦めてくれるだろう。頼むから剣を引っ込めて欲しい。
……少し待ったが姿勢が変わらない。むしろ真剣な雰囲気に変わったような気が。
「いいや、貴様が何を言おうと、お礼をしなければ気がすまない!」
ま、マジで斬りかかってきた。
こっちも剣を取り出して抵抗しなければ。
「くっ……!」
素早い攻撃だったが、ギリギリ剣でガードでガードが間に合った。だが、互いの剣越しに睨み合う膠着状態になってしまった。
こちらが上から押されてる側なので、徐々に疲れていく。
「何の真似だ!力技でお礼しようとするなんておかしいだろ!」
「なら、貴様の住んでいる場所にフルーツを送るから住所を教えろ!」
「ふざけるな!こっちはプライベートは絶対に知られたく無いんだよ。ミステリアスキャラを貫きたいの!」
このまま見合っていても埒が明かない。だが、空に逃げてワープ可能エリアまで逃げようにも、隙を作らないと無理そうだ。
実力は確かなマーレスに対し、この世界では実戦はそれほど数をこなしていない俺が、そんな隙を作れるだろうか?
「少し手荒だが、街に行けば治せるし押し通させてもらう!」
「お前ッ、その考え方はヤバくないか?」
そうか、前の世界と違ってここは回復魔法で即座に傷が治る世界。ケガに対する危機感がそれほど重たくないのか。
まったく、異世界に住むヤツらの倫理観ってみんなこうなのか?
まぁ、俺も昨日、気軽に自爆したりしてたし、ゲームでも無茶なプレイをしてたので否定できる立場じゃないが。
「ぐっ……!」
にしてもマーレス、無駄に強い。実力はあるのに性格が難ありとか平成の二号ライダーみたいだ。
まだ大技を撃ってこないだけありがたいが、このまま防戦一方だといずれ弱い魔法くらいは撃ってくるかもしれない。
どうにかチャンスを作れないだろうか。このまま行くと、こっちもマーレスを斬るしかなくなる。
人を斬るのだけは勘弁したい。
「やめなさいマーレス!何をやっているの!」
その時、ドラゴン達が倒れている場所の方向から大きな声が聞こえてきた。
「シェーナさん……!」
見ると、それは俺の最推しのキャラであるシェーナさんだった。戦いを止めようと俺達の方に駆け寄ってきている。
シェーナさんに叱られたマーレスは剣を振るのをやめて慌てていた。
「あっ、えっと、これには訳があるんだ!」
「黒曜の騎士さんは私を救ってくれたのよ?その方に対して剣を振るなんてひどいわ!」
「ご、ごめん……」
さっきは遠くにいてよく見えなかったが、ドラゴン達の下に居た冒険者はシェーナさんだったようだ。
あぁ、危なかった。さっきは間一髪で助けられて本当に良かった。
彼女の為なら目が回って吐きそうになるなんて全然許せる。
「もう、あんたは普段こういう事をするタイプじゃないでしょ。なんでこんな事をしたのよ!」
「えーっと、それは……後で説明するから!」
マーレス、シェーナさんとずいぶん仲良く話してるな、だいぶ距離が近いしお互い心を許しているような……。
それにさっき、マーレスはシェーナさんを大切な人って言ってた。二人は一体どういう関係性なんだ?ただの冒険者仲間とは思えないが。
「そうだ!今のうちに逃げよう。"飛行"!」
「あっ、おい待て!」
「ダメよ。行かせてあげて」
シェーナさんのおかげで何とかピンチから抜け出せた。
だが、二人がどんな関係なのかがずっと気掛かりだ。
ゲームでも仲良かったが、確かただの冒険者仲間だったはずだが……。
「あの二人の仲の良さ……気になるな」
なにか裏設定でもあったのだろうか?何か大事なことを忘れてる気がする。
――いや、自分から記憶を封印したような?
ティエスカに入ってきたのですぐにワープして帰る。早く帰らないとエオルが心配するだろうし、今は朝メシを食べる約束を果たす事を優先する。




