第24話 お姫様抱っこで空中散歩
「よし、これで全部!」
「ありがとうございました。マーレスさん!」
「いえいえ、こんなのお安い御用です!」
遂にマーレスのヤツが全部の木箱を運び終えてしまった。
いよいよ始まるのか、男との空中散歩が。
「マジで嫌だ……」
マーレスに聞こえない声量で心の声が漏らす。
「お待たせしました。ムクロンさん!さぁ、さっそく空の旅に出発しましょう!」
男とデートだなんて全く気が乗らないが仕方ない。約束してしまった以上、今更断れないのでやるしかない。
「わ、わかりました〜……。あれ、でもどうやって二人で上から見るんだろう」
正体がバレない為にも、俺自身は"飛行"を使うわけにはいかない。
つまりはマーレスに担いでもらう事になる。
「安心してください。オレは絶対にあなたを離したりしません!」
どんなふうにして担ぐかはわからないけれど、とりあえず言われたままに出発の体制になる事にした。
「――って、お姫様だっこ!?」
マーレスに体を抱き抱えられてしまった。か、顔が近い。ってか本当に顔だけは良いなコイツ。
「さぁ、行きましょうムクロンさん!」
「ちょ、ちょっと待って心の準備が……!あれ?」
間近で見て初めて気付いたが、マーレスの目の下にクマができてる。
そういえばさっき、冒険の帰りに直接店に寄ったと言っていたな。
ダンジョンまでの移動時間を考えると……もしかして全く寝てないのでは?
「えと、その目の下にあるクマはなんですか?」
「あぁ、実はムクロンさんを一秒でも早く空中からの景色を見せたかったので、ここ数日ほとんど寝ずに冒険していたんです。あ、先ほどお風呂には入ったので臭いは大丈夫ですよ」
寝不足の状態で覚えたての"飛行"に挑戦するなんて、めちゃくちゃ不安だ。
空で居眠りなんかされたら、俺は生身で高所から落ちてしまう。
「頼むから早めに地面に戻って!」
「はい、わかりました。ではムクロンさん。今から飛びますよ?」
ついに始まってしまう。
「神様お願いします、どうか何事もなく無事に降りれますように」と切に願った。
「"飛行"!」
魔法を唱えると共に、マーレスの体がふわっと地面から離れて少しずつ上に上がっていく。そして、エオルの姿がどんどん小さくなっていった。
しばらく飛んだところでマーレスが空中で止まった。
「これが上から見たティエスカの景色か……!ムクロンさん、いかがですか?」
「すごー!やっぱ広いなこの街!まだまだお……私の知らない事ばっかり!」
高い場所から見下ろした事で、ティエスカを一望する事ができた。
黒曜の騎士の状態だと忙しくて街を見る余裕なんてないから、これは良い体験になった。
「へー、この街本当に広いなぁ……!」
異世界に来てすぐの頃に、少しの時間だけ街を探検して設備を確認したけれど、いつか本格的に王都ティエスカの街を探検するのも楽しそうだ。
「あ、あれは武器屋でこっちが城かー」
「ふふっ、楽しまれているようで何よりです。…………あ、少し疲れてきました」
効果時間切れまでが早い。
習得したばかりなので慣れていないのだろう。体も疲れていて万全な状態でもないし。
「効果が続いているうちに降りてください!」
そんなに長い時間飛んではなかったが、とても素敵で良い経験になった。
地面に着地したあとは、マーレスが丁寧に地面に降ろしてくれた。
「ありがとうございました!」
「ムクロンさんに空からの景色を見せれて満足しました!……それでは、オレは帰って寝たいと思います」
「さようならー!」
俺は手を振って、離れていくマーレスを見送る。
「楽しそうで良かったです。そういえば、禁断の果実の事をマーレスさんに伝えた方が良いのでは?」
「あ、そうだな。マーレスに共有すればより多くの情報が集められそうだしな」
エオルに言われて禁断の果実の事を思い出した。
「これは偶然拾ったという体にしよう。アイツ友達多そうだし、他の冒険者仲間にも話を広めてくれるだろう」
俺は冒険者として他の人と交流するつもりはないので、代わりにマーレスに他の冒険者と情報のやり取りをしてもらおう。




