第22話 禁断の果実
「今の声――あそこからか!」
咄嗟に声がした場所を見ると、謎の人影が立っているのが見えた。じっくり姿を確認したかったのだが、その人物は手からロープの様な物を伸ばし、それを別の木に飛ばした。
それを巻き取る事で素早く移動して森の奥へと逃げていった。
「"飛行"!逃がすか!」
逃げるって事は何か知っているはずだ。捕らえて話を聞き出す為に全力で追いかける。
「あれ?いない!……消えた」
だが、追っている途中で急に姿が消えた。見渡しても辺りには木しかなく、人の姿はどこにも見えない。
「ここでのワープは無理だ。それに、兜を通しても見えないから隠密を使用したわけではない。くそっ、逃げられた」
黒曜の兜を被っていると隠密も見破れるのに、急に姿が消えたのは何故だろうか?
考えてもわからないので、一度エオルの所に戻る。
「すまない、ヤツを見失ってしまった。一体どこに行ったのか見当もつかない。しかも、姿もよく見えなかった」
見たのはほんの一瞬だった為、顔や特徴は全くわからなかった。俺とした事が、せっかく犯人と遭遇できたってのに、何も情報を得られないとは。
「了解しましたー」
「あれ、何やってんだ?」
俺が落ち込んでいる間に、エオルは割れて粉々になったスライムの体を調べていた。
「もしかしたら、スライムの体内に何か痕跡が残っているかもしれません」
「なるほど、凶暴化の原因がわかるかもしれないな。……ん?なんだこの果物は」
割れたスライムの破片の中に、リンゴのような形をした、見慣れない果実が入っているのを発見した。
「なんだこれ。エオル、知ってるか?」
「いえ、僕も見た事がありません。でも、怪しいですね……。フォイユさんなら詳しいかもしれません」
「報告も兼ねて一度戻るか。あ、その前に回復しなきゃ」
鎧はボロボロだし体力も魔力も少ない。こんな状態で別の強いモンスターと戦闘になったら勝てるか不安だ。
「即時回復の粉を撒くアイテムがあったから使おっと」
アイテムをポーチから取り出して使用したが、回復の粉を吸い込んでも回復しない。
「あれ?吸ってるのに回復しないな。あ、これもしかして前のトウガラシ玉の時と同じで、フィルターに塞がれてる?」
ゲームだと鎧の上から吸っても回復できていたのだが、今は兜がガスマスクの役目を果たしているせいで、全てを無効化してしまって回復できないようだ。
「仕方ない、鎧を脱ぐか」
戦いが終わったので鎧を脱いで服を見ると、爆発があったのに無事で破れていなかった。
きっと、爆発が鎧の外で起きたので当たらなかったのだろう。
「ふぅ。て事は、アイテムで回復する為には素肌を晒すか口からポーションを飲むしかないのか」
「黒曜の騎士の時に飲めないのは不便ですね」
魔力回復薬とポーションを飲んで全回復したので、森で起こっていた怪事件の犯人を討伐した事を報告しにスービエ村に帰る。
帰ってきたのだが、黒曜の騎士に関するワードは出したくないので、ムクロンが頑張って倒した感を出す。
「おぉ!エオル君にムクロン君、ご苦労様!」
フォイユさんが安堵の表情で俺達を迎えてくれた。
「それで、森の様子はどうだったかい?」
「事件の犯人は退治しました。他の仲間もおとなしくなったはずですが、念の為に変な色のスライムに警戒しておいてください」
「そうか!ありがとう!」
「それで、この果実を食べた事が原因かもしれないのですが、ご存知ありませんか?」
ポーチから果実を取り出して見せると、フォイユさんは驚いた表情を見せた。
「これは……うーん、見た事ないねぇ。この辺りに自生している植物じゃないかもしれんな」
「そうなんですか……」
現状、一連の事件の手がかりはこの果実しかない。誰も情報を知らないとなると、余計にこの果実が怪しくなる。
「ありがとうございます。そういえば、目的である取引がまだでした」
エオルは結局、ポーション以外の商品はいつもより高額で購入して、俺はその木箱を馬車の荷台に乗せていった。
「それでは、僕達は失礼します」
「念の為に気を付けてくださーい。さようならー!」
手を振ってフォイユさん達、スービエ村の人々とお別れし、来る時も通った道を馬車で進んでいく。
「ティエスカに戻ったら、本や椅子でこの果実が何かを調べよう」
「もしかしたら、この果実がモンスター達のリーダーを凶暴化させていったんでしょうか?」
「言われてみれば、この異変はモンスター達のリーダーばかりに起きているな。与えた者に知恵や力を授けるとか、まるで"禁断の果実"だな」
「禁断の果実ってなんです?」
この世界の人には通じないのに、つい自分がいた世界での話をしてしまった。
「俺が住んでたところでは、禁断の果実っていう伝説があるんだよ」
「そうなんですか。じゃあ、仮にそう呼びます?」
「だな。ただ果実と呼んだら紛らわしいし、禁断の果実と呼称しよう」
こうして、謎の果実の呼び方は「禁断の果実」に決定した。




