第21話 スライム凍結作戦
「……あっ、今、あそこの木が消えました」
俺と背中合わせになって五分ほど周囲を観察していると、エオルが何かを発見した。
「よし、しっかり捕まってろよ!」
エオルを背中に抱えたまま、素早い身のこなしでシュババッと目的地に接近し、木陰からスライムの様子を観察する。
「うわー、なんだこれ?ちっこいスライムが木を丸呑みしてるぞ?」
見ると、そこには体を伸ばして木を丸々一本、根っこごと呑み込んだスライムがいた。
「今にもはち切れそうなほど膨らんでますね。かなり無理していますよ!」
「何の意味があってこんな事を……おっ、どこかに移動するみたいだ。犯人の元に向かっているかもしれないし、追跡するぞ」
俺は自分とエオルに対して潜伏スキルを発動して気付かれにくくした。そして、木を丸呑みしたまま跳ねてどこかに移動していくスライムの跡を追った。
「少しづつ木を吸収して大きくなっていきますね……」
「普通は草や水を吸収するのに、このスライムは何でも食うのか?」
しばらく進んでいくと開けた場所にやってきた。
「うげっ、さっきのスライムがたくさんいる……!」
「ここが彼らの拠点なんでしょうか……?」
木を飲み込んでいるのもいれば、モンスターを飲み込んでいるものもいる。スライムは体の中が透けているので、消化してるのが見えてグロテスクだ。
「見たところ、こいつらのボス……オークキング達の例に倣うとスライムキングになるが、ソイツは近くには居なそうだな」
命令を出しているボスが居ないのは気がかりだが、コイツらをほっといたら森のモンスターや近くに住むスービエ村の人達も危ない。
「何体いるかわからないし、今のうちにコイツらは倒しておこう」
「えぇ。あのスライムだって、あと何十匹とこの森に潜んでいるかわかりませんし、分裂して増えるかもしれません。居たらすぐ倒しましょう」
スライムは分裂して数を増やすので見つけたら即倒すべきだ。
戦いの邪魔にならない様にエオルを背中から降ろして、前線から距離を取ってもらう。
「ムクロンさん、お願いします」
「あぁ、そっちも周りには気を付けろよ」
潜伏スキルが発動している間にスライム達の方に近付いていく。
「合体されたら厄介だ。念の為にさっきと同じで氷魔法で倒そう」
我が剣、キル・トータを装備してスライム達を魔法で薙ぎ払う。
「"氷の剣舞"!」
辺りが強烈な冷気に包まれて、たくさんいた全てのスライム達はたちまち全身が凍っていった。
「ふぅー、これでしっかり凍死したな。わざわざ砕くまでもない」
次はまた、木が消えるのを探すところからやり直しか。
なんだ?急に地面が揺れたぞ。
ピュンッ、ガシィッ――
次の瞬間、地面からスライムの触手が伸びてきて俺の体に巻き付いてきた。
「離せっ!"氷の剣舞"!」
触手を凍らせて切断し、地面に落下したら体にまとわりついていた凍った触手も砕いた。
「ったく、どこから来たんだ!この坂から伸びてきたな?」
触手が飛んできた場所を注意深く見ていると、グラグラとそこが動き始めた。
まさか、これは坂じゃなくて超巨大な……。
「スライムだ!成長し過ぎだろ……!コイツがキングに違いない!」
「おっきい……!こんな大きさのスライム、見た事ないです!
俺よりも遥かに大きく、一十メートルほどの大きさにまで成長した巨大スライムが目の前に立ちはだかる。
どうやら吸収中の木がはみ出していたので、坂に見えていたようだ。
「こんなに大きいとは予想外だ……!うわっ、また触手か!」
向かってくる触手を一本、また一本と凍らせて対処していく。
――だが、しばらくするとスライムが攻撃をやめた。
「どうした?凍らされてばっかでキリが無いって気付いたか?」
突如、スライムキングが俺から逃げる様に転がり始めた。周りの草木を吸収しながらゴロゴロと転がっていく。
「おいっ、逃げるな!」
勝ち目がないと判断したら逃げだすとは、賢さの低いスライムにしてはよく考えたな。
「ムクロンさん!あっちは、村の方向です!」
「なにっ?だが、どうやってあの巨体を止めればいいんだ?」
村に到着する前に倒さなくてはならないが、何か良い案はあるだろうか?
下手に攻撃して飛び散らせると、それらが集まって新たなスライムが誕生する可能性があるが、かといって氷魔法を浴びせてもあの巨大なら効果は薄いだろう。
せめて、さっきと同じで中から凍らせれば……。
「そうだ。お前、俺を吸収したがってたよな?」
俺はポーチを外して地面に落とし、剣を地面と水平に構えて、スライムに突き立てるようにして突っ込んでいく。
「お望み通り食らわしてやるよ!」
スライムの体内に入って、強力な酸の中を進んでいく。鎧が耐えられる内に、スライムキングの真ん中で技を放たなければならない。
そうだ。体中からなら氷魔法が通用するので全身を一気に凍らせる事ができるはず。
「木が邪魔だな。頼む。黒曜の鎧よ耐えてくれ」
体内にある様々な物体を避けながら、スライムの中心部を目指して泳いでいく。
鎧がどれほど強酸に耐えてくれるかわからないので急いで早めに向かわねば。
「よし、ここで良いだろう!"凍結一閃"!からの、氷河世界"!」
中央に到着したので、最初に剣から強烈な冷気を発したあと、全身からも冷気を発生させる。
超強力な氷魔法を浴びたスライムキングは全身が一瞬にして、水から氷の塊へと変わってしまった。
「よし、あとは出るだけ……!いや、待てよ周りは氷だらけだし動けない」
――しまった。脱出する時の事を考えてなかった。
氷に閉じ込められてしまって身動き一つとれない。
魔法を撃って壊すにしてもこんな至近距離だと自分も巻き込んでしまいそうだ。
「あぁもう、ここは自爆するしかねぇ!」
ドカーン――
面倒になったので意を決して自爆魔法を使うと、俺の体を中心に爆発しスライムキングの体は衝撃で粉々に割れた。
「あー、痛ッ!回復、回復っと!」
自爆はゲームで使うと瀕死になる技なので、全身を今まで感じた事のない激痛が襲う。
即座に治したが、爆発自体に魔力を多く使っていた為か傷は完治しなかった。
ゲームで言えば今の俺は、体力は半分で、魔力はゼロに近い状態だ。
「ふぅー、あー。もう自爆はこりごりだなー。めっちゃ痛いし、治すのが疲れる」
「これ、拾っておいたポーチです。えーと、体は大丈夫ですか?」
エオルがスライムキングの破片を避けつつ俺のそばに駆け寄ってくる。
「体は治したけど、黒曜の鎧がボロボロだ。しかも魔力が全然残ってねぇ」
その時――
「やった……!」
と、俺達の近くにある木の上から何者かの声が聞こえてきた。




